2020/7
No.149
1. 巻頭言 2. 小林理研との繋がり 3. 生物粒子計数器  
   

     <技術報告>
 生物粒子計数器


リオン株式会社 技術開発センター  水 上 敬、 関 本 一 真

1.はじめに
 水中の微生物汚染管理の重要性はさまざまな分野で高まっており、医薬品製造工場や飲料水業界はもとより、人工透析治療を行う医療現場や、超純水を扱う半導体・液晶製造工場などの電子工業分野、宇宙ステーション内の飲料水管理などの航空宇宙分野など、多岐にわたる。微生物の検出・分析には、培養法をはじめとし、蛍光検出法、生物発光法、拡散増幅法、DNA シークエンシングなど、様々な方法がある。中でも培養法は、操作が比較的容易なことから、水中の微生物汚染管理に最も多く 用いられているが、結果を得るまでに1日〜数日間かかり、また選択した培養条件で検出できる微生物が限られているなどの課題も明らかとなってきている1)
 このようなことから微生物を迅速に測定する手法が望まれているが、とりわけ医薬品製造においては、2016年に告示された第十七改正日本薬局方2)の参考情報に「微生物迅速試験法」が新たに掲載され、迅速測定への関心と、それを実現する装置への期待が高まっている。
 リオンでは、2010年にR&Dセンターが発足された当初より、長年のパーティクルカウンタの開発で培われた微粒子検出の技術を応用した「水中のリアルタイムな生物粒子計数技術の研究」をスタートし、装置の開発を進めてきた。
 本稿では、液体中の微生物を前処理なしにリアルタイムに計数する装置として開発した「生物粒子計数器」について、その検出原理と性能評価、実施例を紹介する。
 本装置及び制御用ノートパソコンの外観を写真1に示す。
写真1 生物粒子計数器 外観

2. 検出原理
2.1 自家蛍光の検出
 微生物の細胞内には様々な生理活性物質が存在しているが、その中には特定の波長の光を吸収することで蛍光を発する物質(自家蛍光物質)も存在する3)。リボフラビンもその一つで、細胞内ではエネルギー代謝に関与しており、一般的に「ビタミンB2」として知られている物質である。本装置は、微生物が持つリボフラビンに着目し、この蛍光を検出することによって、微生物とその他の粒子を識別し計数する。図1にリボフラビンの吸光(励起)及び発光特性を示す。
 なお、水道局等の浄水処理分野における植物プランクトン検出用として、生物粒子計数器と同様に開発した「ピコプランクトンカウンタ」は、植物プランクトンが持つ「クロロフィルa(葉緑素)」の自家蛍光を検出し、計数する装置である。
図1 リボフラビンの吸光(励起)、蛍光スペクトル

2.2 センサ構造
 図2に、本装置の検出部概要(概念図)と検出の様子を示す。光源には、リボフラビンを励起するための波長 405 nm の半導体レーザを使用している。レーザ光は、試料を流すフローセルに照射される。試料は一定流量(10 mL/min)で流れるように外部装置により制御される。試料中の微生物ではない粒子(非生物粒子)がレーザ光を通過した場合には(図2(a))、粒子は照射波長(405 nm)と同波長の散乱光を発する。ここまでは、従来のパーティクルカウンタの微粒子検出原理と同様であ る。ここでレーザ光を通過した粒子が微生物(生物粒子)の場合(図2(b))、リボフラビンによるレーザ光の吸収が発生し、散乱光と同時に蛍光を発する。
図2 本装置の検出部概要(概念図)
(a) 非生物粒子が通過した場合   (b) 生物粒子が通過した場合

 これらの光を散乱光検出素子および蛍光検出素子でそれぞれ受光して電気信号に変換し、散乱光及び蛍光の強度に応じたパルス信号を出力する。図3には各検出部からの粒子信号の概念図を示す。散乱光信号と同時に蛍光信号が検出された場合には生物粒子と判定し、散乱光信号のみの場合には非生物粒子であると判定し、それぞれ計数する。さらに散乱光検出部ではパルス信号の強度から、個々の粒子の大きさを判別している。
 本装置は蛍光染色等の試料の前処理が不要なため、簡単な操作でリアルタイムに液体中の微生物を計数する事が可能である。
図3 粒子信号の概念図

3. 細菌の検出性能
 本装置の性能評価のため、日本薬局方及び欧州薬局方で医薬品製造に用いられる製薬用水の生菌数評価に用いられる細菌4種を測定し、培養法での計数値と比較した。測定菌種を下記に示す。
 ① Methylobacterium extorquens (NBRC 15911)
 ② Pseudomonas fluorescens (NBRC 15842)
 ③ Pseudomonas aeruginosa(NBRC 13275)
 ④ Bacillus subtilis (ATCC 6633)
 ①②は水道水等に生息する菌種で、特に①は風呂場の床やバスタブ等にピンク色の群体を形成する種である。 ③は緑膿菌と呼ばれ、抗生物質に対して抵抗性が高く、日和見感染(ひよりみかんせん)症(健常者には発症しないが、免疫力が低下 した人に対して発症する感染症)を引き起こす。④は芽胞菌と呼ばれ、熱に対して比較的強い耐性を持つ菌である。
 各菌液試料の濃度を数段階に調整して本装置に導入して計数を行った。次いで、同じ菌液試料を用いて培養法により菌数を測定した。
 結果を図4に示す。各グラフの横軸は培養法による菌数で単位はCFU/mL、縦軸は本装置により計数した蛍光粒子数で単位は個/mL である。今回の試験に用いた全ての菌種に対して本装置が検出感度を有することが示され、またそこには高い相関関係(R2 = 0.99 以上)が確認された。培養法の菌数に対して本装置の計数が同等もしくはそれ以上である。
図4 各菌種による細菌検出性能試験結果

 一例として、Methylobacterium extorquens(NBRC 15911)の計数値を表1に示す。この表から、本装置は全ての菌数濃度においてカウント数のばらつき(CV*値)が少なく、測定結果の再現性の良いことが分かる。

* CV : Coefficient of Variation (変動係数)
表1  Methylobacterium extorquens (NBRC 15911)の計数値
設定菌数濃度
[CFU/mL]
生物粒子計数器による蛍光粒子数
[個/mL](n=3)
培養法による菌数
[CFU/mL](n=3)
30
 65 ± 0.8(CV=1.3%)
45 ± 2.2(CV=4.8%)
100
140 ± 3.7(CV=2.7%)
130 ± 0 (CV=0%)
300
398 ± 5.6(CV=1.4%)
347 ± 18.9(CV=5.4%)
1000
1050 ± 9.0(CV=0.9%)
1053 ± 245.7(CV=23.3%)
3000
3264 ± 3.7(CV=0.6%)
3300 ± 81.6(CV=2.5%)

4.インラインモニタリング例
 本装置にてRO水(逆浸透膜水)のインラインモニタリング(製造ライン中に装置を組み込みその場で監視する手法)を行い、同時に培養法で測定を行った例を紹介する。モニタリング箇所は、培養法である程度細菌が検出される逆浸透膜通過後とし、サンプリングポイントから試料水を本装置に連続的に導入させてリアルタイムに計数した。また、本装置の下流側より採水して培養法により菌数を測定した。
 本装置による蛍光粒子数および培養法による菌数の測定結果を時系列にプロットしたものを図5に示す。蛍光粒子数が突発的に100 個/10 mL を上回る頻度が高くなると、培養法での菌数も増加する傾向を示した。特に今回の測定において培養法で最も多くの菌数が検出された 6/3 〜 6/11 の期間については、その傾向が顕著に表れている(図5、実線丸印)。また、検出された菌数が少ない 6/25 〜 7/1 の期間(図5、破線丸印)では、突発的に蛍光粒子数が増加する頻度も少ない傾向を示しており、菌数の増減をリアルタイムに把握できることを示している。
図5 RO 水のインラインモニタリングと培養法の測定結果

5.おわりに
 細菌検出性能の結果から、本装置が培養法と同等もしくはそれ以上の感度を有していることが確認された。また計数結果の再現性が高く、測定者の技量などによる測定結果のばらつきを回避できることが示された。
 インラインモニタリングの例では、本装置による計数値の変化と培養法による菌数の変化の傾向がおおむね一致する結果が得られた。これは、本装置の計数値変化の傾向を常時モニタリングすることで、リアルタイムに微生物数の把握が可能となることを示している。
 しかしながら、本装置を冒頭に紹介した各分野で実用性評価したところ、いくつかの課題が見えてきた。水の中には本紙面で紹介した微生物種以外にも自家蛍光が非常に弱い状態下にある微生物が多く存在する。そこで、それらを検出するために微生物検出感度をさらに高めなければならないことや、生物・非生物粒子の分別精度を向上させなければならないこと、などである。リオンではさらなる研究を重ね、新たな技術を発明することで、これらの課題を改善してきた。次号にて、新たな技術を 採用したシステムとその有効性について報告する。

<参考文献>
1) Colwell, Rita R; Grimes, D. Jay. 培養できない微生物たち ―自然環境中での微生物の姿. 遠藤圭子訳. 学会出版センター. 2004.  
2) 厚生労働省. 第十七改正日本薬局方. 2016.  
3) Li, J.K.; Asali, E.C.; Humphrey, A.E. Monitoring Cell Concentration and Activity by Multiple Excitation Fluorometry. Biotechnol. Prog. 1991, 7, p.21-27.

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