2020/7
No.149
1. 巻頭言 2. 小林理研との繋がり 3. 生物粒子計数器  
   

 
  小林理学研究所創立80周年を迎えて  


  理 事 長  山 本  貢 平

 小林理学研究所は今年創立80 周年を迎えます。これまでの80 年の長きにわたり、時代の違いは有れ、この研究所を支えてくださった皆様、諸先輩のご支援ご鞭撻に心より感謝を申し上げます。

 当研究所の設立者小林采男(初代理事長、在任1940〜48)が設立趣意書を書き、文部省から設立認可を受けたのは1940年8月24日のことでした。趣意書には、当時の緊迫した国際情勢と日本の置かれた困難な立場への危機感を重く認識し、科学に根差した国造りをすることの重要性、民間機関としてその任を担うことの意思表明が述べられています。4年後には小林理研製作所(現 リオン株式会社)を設立し、同社とともに時代を歩むことになりました。

 80 年の歴史を振り返るとき、大きく2つの時代に分けることが出来ます。第一の時代は創立から1965 年までの25 年間で、物理学の新たな分野を開拓する斬新な研究がいくつも行われています。高分子物理学の草分け的存在となった岡 小天、結晶構造の研究を行った三宅静雄、超音波の研究を行った能本乙彦、ロッシェル塩単結晶の研究と音響機器への応用研究を行った河合平司、音響学と当時の軍の委託研究として水中聴音機などの研究を行った佐藤孝二(第2代理事長、在任1948 〜 72)や小橋 豊が主要なメンバーでした。ここに東京大学物理学科の卒業生たちも加わり、国分寺は一時物理学の中心地となったといわれるほど賑わいました。しかし戦後、小林鉱業の解散により当所はそれまでの経済的基盤を失います。国の研究補助などを受けながら基礎研究を継続しましたが、日本の戦後復興とともに国や民間の研究所も整備され、多くの若き研究者は新たな研究の場を求めて転出することになりました。

 第二の時代は1965年以降の音響学とピエゾ研究の時代です。戦後、高度成長期の負の遺産として公害問題が発生し、騒音・振動が次第に深刻な社会問題となりました。騒音・振動は音響学の応用分野でもあるため、国や民間からの委託を受けて多くの問題解決の研究を行うことになりました。実験設備も模型実験室、振動実験棟、低周波音実験室、大型模型実験室などを拡充しています。その頃、政府の要請を受けて第3代理事長 五十嵐寿一(在任1972〜94)は、騒音の環境基準や各種の規制基準等の制定に尽力しました。また第4代理事長 山下充康(在任1994 〜 2016)は、斜入射実験室、建築音響試験室棟など音響材料の試験設備を用い、様々な騒音・振動制御の研究成果を挙げています。

 80 年の歴史から諸先輩から受け継いできたものは学問に対する態度だと考えます。それは現象の「観察と模擬」に集約されます。観察には新たな圧電デバイスを応用した計測・実験技術の開拓が必要です。模擬には新たな数学や記号が必要です。模擬からは現象の再現と制御の技術が生まれます。公害問題を乗り越えた社会の次の課題はクリーンなエネルギーの確保、自然現象や生命現象の観測や制御です。今後、創立100 年に向けて我々は新たな研究分野の開拓を進め、人の安全と安心と安寧に奉仕する学問を追求する所存です。皆様のご支援とご協力をお願い致します。

 

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