2020/4
No.1481. 巻頭言 2. 圧電ポリマー研究の話 3. 低周波音測定用マイクロホン
閃き(ひらめき)の瞬間
理 事 長 山 本 貢 平閃きの瞬間というのがある。それは、研究に従事する者にとっては喜びの瞬間でもある。しかし、閃きはいつどんな時にやってくるか予想がつかない。それは突然現れるのである。「ピカッ」と光る。
貴方は、この「閃きの瞬間」というものを経験したことがあるだろうか? それは、知らぬ間に到来していたかもしれない。例えば、「何気なく、ふと思いついた」といったことが、それに該当するかもしれない。多くの場合、その瞬間は記憶に残らないのだが、時として鮮明に残ることがある。
記憶に残る瞬間にこれまで3回遭遇した。一度目は、大学4年生の卒研の頃、二度目と三度目は小林理研の研究員になってからである。いずれも研究に行き詰った中での出来事である。そして閃きの瞬間は、鮮やかな映像として記憶に残っている。一度目の映像は、方眼紙上の曲がった線だけを照らした小さな電気スタンド。二度目は、何気なく「平均伝搬経路高さ」と言った人の声と顔。そして、三度目は、月明かりに光り輝いた柊の枝葉。いずれも、声は発しなかったものの「できた!」と心の中で叫んだ。「問題の答えがわかった」という意味ではない。「解く方法が見つかったということと、解けることが確信できた」という意味である。大事なのは、その後に長時間をかけて労力を要する作業が伴うということだ。自分自身、あの時どのように作業を行ったのか、あまり記憶がない。しかし、断片は残っている。1番目は、実験データの偏微分係数を計測するのに汗をかいたこと。2番目は、複素誤差関数を使った理論解から、気の遠くなるほど繰り返して数値実験を行ったこと。3番目は、前川チャートを数式表示したこと。これは、記憶に新しい。グラフ用紙の横軸を関数で与えるという発想から逆双曲線関数に行き当たった。当時、五十嵐先生からどうやってこの関数を導いたのかと質問されたが、自分でも説明できなかった。ただ、「思いつきました」としか答えられなかったのである。いずれも問題を解く作業は苦労したが、解けるという確信が支えになった。結局、問題が解けて、その結果を論文としてまとめることができたことはとても嬉しい。
閃きの瞬間を楽しめるのは、若いうちだけかもしれない。しかし、それを産む原動力は「ハードルが高いと思う研究課題や問題」に取り組む意欲である。そして、立ちはだかる壁や多くの謎が密生する森林に自分を追い込んで、悶々と思い悩むことである。暗闇の中から必ず光が飛び出してくる。ただ、その光は一瞬にして消えてしまう。それゆえ、忘れる前に急いで書き留めなければならない。その後、時間をかけてゆっくり答えを導けばよい。完成すれば、オリジナリティを主張して査読付き論文に仕上げることができる。そこには、ワクワク感がある。謎に挑戦する意欲を呼び起こして、もう一度、あの「閃きの瞬間」に酔いたいものである。