2017/1
No.135
1. 巻頭言 2. オルゴール 3. Kids ほちょうき リオネットピクシーの開発  
 

     <技術報告>
 Kids ほちょうき リオネットピクシーの開発


リオン株式会社 医療機器事業部 開発部  山 田  新

1. はじめに
 高度・重度難聴向け高出力補聴器は、補聴器の中でも高出力を特長としている分、一般的な補聴器と比べると筐体のサイズが大きい。そのため、幼少期から補聴器を 装用している高度・重度難聴の子どもたちにとっては、小さな耳介に対して補聴器のサイズが大きくなってしまうため非常に目立ち使いづらい。
 そのような子どもたちに対して、もっと小さくて使い易い補聴器を提供したい、補聴器を使ってたくさん遊んだり学んだりして可能性を広げてほしい…という想いか ら子ども向け補聴器の開発を行った。
 本稿では、Kidsほちょうきリオネットピクシー(HBP1PC/ PS/PL)の特長を踏まえながら、取り組みについて紹介する。

2.開発背景
 2015年2月に発売された高出力補聴器ハイパワーシリーズⅡ(HB-G7PC/PS/PL)は、主に大人を対象とした高出力補聴器であり、操作性を重視して開発された。 今回のリオネットピクシーでは、メインターゲットを5〜10歳の子どもとし、耳介が小さな子どもたちに適したサイズ感とするために高出力補聴器の「小型化」を目 指して開発を行った。
 さらに、小型化以外に子どもたちの「安全・安心」を考慮して、電池の誤飲を防ぐチャイルドロック機能、電池寿命を知らせる着脱可能なLED ユニットなどの機能を備えた。これらの機能は、アンケートや学術論文といった様々な方面からの情報を集め、子どもたちに本当に必要とされている機能や特長を見つめ直したことに よって搭載することができた機能である。

3.製品の特長
 リオネットピクシーの特長は以下4点である。

■ 小型軽量
 従来比体積約25 %、重量約20 % ダウン

■ 安全性
 電池誤飲防止機能、LEDユニット、落下防止ストラップ搭載

■ 快適性
 おまかせ回路、ノイズリダクション等の各種デジタル信号処理搭載

■ 耐汗・耐衝撃
 耐汗、耐衝撃性能の向上(ハイパワーシリーズⅡと同等)

 図1にリオネットピクシーの外観を示す。子ども・保護者の方へのアンケート結果に基づき、今までのリオネット補聴器にはなかった新色を含む9種類のカラーバ リエーションを用意した。複数の色から自分好みの色を選択し、子どもたちに楽しく使ってもらうように努めた。
図1 Kids ほちょうき リオネットピクシー

4.小型化の追求
 高出力補聴器の「小型化」を行う上で一番の課題となったのが、出力音の帰還である。補聴器の出力が大きくなるほどイヤホンサイズが増加する上、筐体を小型化 したことによってマイクとイヤホンは必然的に近づいてしまう。結果、イヤホンからの出力音と振動をマイクが拾いやすくなってしまい、ハウリングや周波数特性の乱 れが多発してしまった。そのため、出力音の帰還による影響を受けないように、イヤホンからの音漏れを無くす、マイクに振動を伝えないという2つのアプローチか ら対策を検討した。
 図2にトランスデューサ周りの構造を示す。イヤホンは、音口に取り付けられているイヤホンサスペンションに音道となるフックが押し付けられる構造で篏合かんごうが確保 されている。ここの篏合具合が音漏れの有無に大きく作用し、試作検証では微調整を繰り返した。
図2 トランスデューサ周りの構造

 マイクロホンは、シリコン製のマイクチューブとリード線によって吊られている構造となっている。マイクチューブとリード線の2方向から伝わる振動によって、 ハウリングや特性乱れが発生してしまった。様々な形状・硬度のマイクチューブを試作し、周波数特性の測定を繰り返し行った。結果、今回の筐体に適したマイクチュー ブの形状・硬度を見つけ、特性乱れを軽減することができた。また、マイクとプリント基板間のリード線を突っ張った状態に引き回してしまうと、振動が伝わりやすく なってしまう。そのため、振動がマイクまで帰還しないようにリード線は依らずに緩く引き回すこととした。
 2つのアプローチから対策を行った結果、出力音の帰還を最小限に抑えることに成功し、従来機種と同等の出力・利得を保ちながら、筐体の体積を従来品から約25 % 減少させることができた。図3に従来品とのサイズ比較を示す。小型化が成功したのは、指向性機能用のリアマイクや利得調整用のボリュームを削減し、子どもたちに 本当に必要な機能のみに限定したことも要因の1つである。さらに、搭載したテレホンコイルも今回の筐体に合わせて新規開発された小型テレホンコイルを採用し、イ ヤホンの漏洩磁気による影響を受けないように工夫して配置されている。また、小型化を維持しながらもユーザーの利便性を考慮し、電池容量が大きい空気電池 (PR44)での設計にこだわった。
図3 高出力補聴器のサイズ比較

5.子ども向け補聴器を目指して
 子どもをメインターゲットとしたときに、小型化とは別にもうひとつ重要なキーワードは「安全・安心」である。
 子どもに電池警告音で電池の残量を知らせても、保護者や学校の先生にそれを伝えることは難しい。そのため、使用者以外にも電池残量を知らせる手段として LED ユニットを新規設計した。成長につれて必要なくなったときに取り外せるよう着脱可能としたため、補聴器本体の小型化にも寄与している。LED はシュミットトリガを用いた発振回路によって点灯させた。LED ユニットを取り付けたときに電池寿命が短くならないよう、発振周波数やピーク電流を調整することにより消費 電流を抑えつつ、視認するに足りる明るさを得ることができた。
 さらに、このLED ユニットは電池残量を知らせるだけでなく、ロック電池ホルダと組み合わせることによって電池の誤飲を防ぐチャイルドロックとすることができ る。図4にチャイルドロックを示す。手では電池ホルダを開けられない構造となっているため、専用の道具を用いないとロック解除ができない。小さな子どもたちが電 池を自力で取り出すのを防ぐことで、電池の誤飲リスクを低減している。
 他にも、落下防止の補聴器ストラップや、補聴器の本体幅を変えずにFM補聴が実現できる電池ホルダ一体型シューなどの新構造により、子どもたちが使うのに特化 した構造とすることができた。
(a) 外観
(b) ロック解除の様子
図4 LED ユニットによるチャイルドロック

6.おわりに
 Kids ほちょうき リオネットピクシーは、メインターゲットが5〜10歳と明確に定まっていたため、補聴器を使う子どもたちのことを第一に考えて開発することが できた。補聴器本体の小型化だけでなく、今まで搭載していなかったチャイルドロックやLED ユニット等の機能を付加することによって、子どもや保護者、先生に安 心して使ってもらえる補聴器となっている。
 また、リオネットピクシーではプロモーションにも力を注ぎ、公式キャラクターや工場見学など多肢に渡った企画を実施している。補聴器というモノを起点にしつつ も、子どもたちに様々な体験を提供することができたのではないかと感じている。今後も、ユーザーのことを第一に考え、様々な価値を与える補聴器を開発できるよう 尽力していきたい。

 なお、公式キャラクター「ピクシーくん」が誕生したキッズ応援プロジェクトのWebサイトは以下の通り。

−先頭へ戻る−