2013/7
No.1211. 巻頭言 2. 航空機地上騒音の測定事例と気象条件による変化 3. 雲形定規 4. 環境計測データ管理ソフトウェアAS-60TR
<研究紹介>
航空機地上騒音の測定事例と気象条件による変化
騒音振動研究室 牧 野 康 一
1 はじめに
2013年4月から航空機騒音に係る環境基準の一部改正により、評価 がWECPNLからLdenへ変更された。この際、駐機場でのエンジンアイドリング音やエンジン整備試運転音などの飛行場内の航空機から発生する地上騒音についても影響が無視できない場合には、評価対象に含めることとなった。
環境省の「航空機騒音測定・評価マニュアル」[1] では航空機騒音を、離着陸や地上走行等に伴って単発的に発生する「単発騒音」とエンジン試運転のように長い時間にわたって継続する「準定常騒音」に分類している。準定常騒音についてはこれまで測定対象外であったため、測定事例は多くなかった。また、航空機地上騒音は、伝搬過程において風や温度勾配などの気象の影響を受け、日時によって大きく変動することがある。
本稿では、まず準定常騒音であるエンジン試運転の測定事例[2] を紹介し、次に風向が地上騒音に与える影響の一例として、順風時と逆風時のプロペラ機のエンジンアイドリング音の測定結果[3]について報告する。2 準定常地上騒音の測定事例
滑走路側方の敷地境界付近で地上騒音を対象に測定を実施した。時々刻々の騒音レベルの測定に加えて、相互相関法[4](図1)により音の到来方向推定を行った。
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図1 地上騒音測定に用いた相互相関法4チャネルマイクロホン
図2に観測した騒音レベル(LAeq,1s)と音の到来方向の30分間の時間変化の例を示す。30分間で4回の飛行音、2回の地上走行音、2回のエンジン試運転音が観測された。双発プロペラ機のエンジン試運転が12〜14分と18〜22分の2回実施され、双方の試運転では騒音レベルが75dB程度まで上昇し、概ね一定となり、そのレベル波形は台形となった。また、音の到来方向は105°でエンジン試運転が行われた誘導路上の一か所と方向が一致していた。
図2 滑走路側方で観測した騒音レベルと音の到来方向の時間変化の例
3 航空機地上騒音の伝搬特性の気象条件による変化
プロペラ機のエンジンアイドリング音(プロペラ回転音)を対象に測定を行った。3つの測定点を航空機の機首の方向に距離 130 m、290 m、480 mに並べて配置し、伝搬への気象の影響を調べた。測定点ではC特性音圧を録音し、その録音データを処理して1/3オクターブバンド毎の短時間平均音圧レベル(Leq,1s)を算出した。気象データは定時航空実況気象通報式(METAR / 1時間毎の空港気象観測)のデータを利用し、測定時刻直近の時刻の風向風速データから、騒音伝搬方向のベクトル風速を算出して整理を行った。なお、測定時の天候は曇りであった。
測定期間中に10分程度のエンジンアイドリング音が数回観測された。順風条件と逆風条件の典型的な例として、図3にベクトル風速 + 3.3 m/sの順風条件、図4にベクトル風速 - 3.6 m/sの逆風条件の各測定点における短時間平均騒音レベル(LAeq,1s)の時間波形を示す。
図3 順風時(+ 3.3 m/s)の短時間平均騒音レベル波形
図4 逆風時(- 3.6 m/s)の短時間平均騒音レベル波形
順風条件(図3)では5〜16分の間でエンジンアイドリング音が観測されている。音源に最も近い130 m地点では暗騒音から20 dB程度のレベル上昇が見られ、290、480 m地点でも同様にはっきりとしたレベルの上昇が見られる。逆風条件(図4)では7〜18分の間で準定常騒音が発生している。130 m地点では暗騒音から15 dB程度のレベル上昇が見られるが、距離の離れた290、480 m地点では大きなレベル上昇が見られない。ここで、順風時と逆風時の騒音レベルを比べると、130 m点で約5 dB、290 m点と480 m点で約20 dBの差があることが分かる。これは伝搬への風の影響が表れたものと考えられる。
次にアイドリング音を安定して観測できた時間区間について、1/3オクターブバンド毎のLeqを算出した。図5に順風時と逆風時の周波数特性の比較を示す。順風時(実線)の分析結果の130 m点と290 m点を比べると、その差は周波数によらず約10〜15 dBであることが分かる。一方、逆風時(破線)の両地点の差は約15〜30 dBで、特に200 Hz以上の周波数帯で大きくなる傾向であることが分かる。
図5 順風(実線)と逆風(破線)の周波数特性の比較4 おわりに
環境基準の改正によって新たに測定評価の対象になった、準定常地上騒音であるエンジン試運転の測定事例を紹介した。また、風向が航空機地上騒音に与える影響の一例として、プロペラ機のエンジンアイドリング音について、伝搬距離130〜480 mの地点の順風時(ベクトル風速 + 3.3 m/s)と逆風時(- 3.6 m/s)に測定した結果を示した。
参考文献 [1] 環境省、「航空機騒音測定・評価マニュアル」平成24年11月 [2] 牧野、「航空機騒音の単発騒音暴露レベル測定事例と測定における課題」、日本騒音制御工学会講演論文集 (秋)、103-106、2010. [3] 牧野、横田、山本、森長、山元、月岡、「気象条件の違いによる航空機地上騒音の伝搬特性の変化」、日本音響学会講演論文集(秋)、967-968、2012. [4] 山田、牧野、林、「航空機騒音の自動監視と音源の同定」、騒音・振動研究会資料、N92-51、1992.