2013/7
No.121
1. 巻頭言 2. 航空機地上騒音の測定事例と気象条件による変化 3. 雲形定規 4. 環境計測データ管理ソフトウェアAS-60TR
   

 
  新たな挑戦とは


補聴器研究室, 騒音振動研究室   平 尾 善 裕

  小林理学研究所に入所以来、音・振動に係わる仕事を続けるなかで、これまでに種々雑多なものを作ることに携わってきました。音と振動を同時に計測することで機械の異常音を検出するセンサ、音で振動を計測するセンサ、光で音を計測するセンサ、高分子圧電材料を使った水中超音波トランスデューサ、インパクトハンマだけでボルト・ナットの緩み(軸力の低下)を検出する検査装置、音を使って直径数十ミクロンの微小孔を検査する装置、最近では、高速化したWi-Fiやインターネット回線を利用した音・振動・気象・画像に関するワイヤレス遠隔監視システムなどがあります。振り返ってみると、それまでにはなかった新しいことに挑戦したものもありましたが、ほとんどが計測や検査の効率化を図る目的のものでした。「効率化を図る」といえば聞こえはよいのですが、いわば「楽をしたい」という「怠け心」が動機といってもよいかもしれません。周波数領域でいえば、地震の揺れからキロヘルツの振動、超低周波音から空中超音波、メガヘルツ帯の水中超音波、ギガヘルツ帯の電波、波長で約600ナノメートルのレーザー光(光は周波数ではなく波長で示すのが一般的なようです)を利用しています。「目的のためには、手段を選ばず」とは意味が違うかもしれませんが、よくもまあいろいろなものに係わったものだと我ながら少々呆れるほどです。

 それに加えて本年4月より、わけあって補聴器に係わる仕事も担当することになりました。日本国内で初めて電気式補聴器を作ったのは小林理学研究所であり、製品化したのは当時の株式会社小林理研製作所(現リオン株式会社)だと聞いています。当時はなんと真空管が使われていたようです。スイッチとボリュームが付いた小さめのお弁当箱ほどの真空管アンプといったところでしょうか(持ち運べたところは驚きです)。それから60年余り、補聴器は、さまざまな技術の発展とともに進化し、今では1 cm3程度の大きさで耳穴にすっぽり入るものまであります。しかもさまざまなデジタル信号処理技術を駆使して、「聞こえ」をサポートする機能が盛り込まれています。防水であったり、TVなどの音声を無線通信で直接聞ける機能などもあります。携帯電話が肩掛け型(重くて片手で持てる代物ではなかったようです)から名刺サイズになり(しかもカメラまで付いている)、机上を占領するほどの大きさのPCがタブレット端末になり(しかもカメラまで付いている)、技術革新のすさまじさを感じるものは数多くありますが、補聴器の進化は、それらを超えるものがあるようにも思います。この先、これ以上どのように進化していくのか想像もつきません(カメラが付くことはないでしょう)。私にとっては、これまでと同様に過去の知識や経験がほとんど役に立たないものへの挑戦でもあります。「何ができるのか」、「何をすべきなのか」、一から考えることからの出発です。しかも今度は「怠け心」ではなく、たぶん私も持っているであろう「困っている人の助けになりたい」を動機に仕事をすることになります。エンジニアとしては、一度はやってみたい部類の仕事でもあります。これも新たな挑戦です。

 

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