2008/10
No.1021. 巻頭言 2. 墨 ツ ボ 3. 第32回ピエゾサロン 4. リオネット ルーク(RUHQ)
<技術報告>
リオネット ルーク(RUHQ)
〜「ストレスフリー」の実現を目指して〜
リオン株式会社 聴能技術部 藤 坂 洋 一
はじめに
近年、補聴器は装用者に対して質の高い聴こえを提供することはもちろんのこと、操作性の向上や不快な音の低減といった「ストレスフリー」な機能の搭載が求められています。この要望に応えるため、リオネットルークは全ての補聴器装用者の快適性を第一に考え「ストレスフリー」の実現を目的として開発されました。そして、多くの聴力レベルタイプに対応するべく、ラインナップをCIC(HI-G5T)、カナル(HI-G6T)、指向性カナル(HI-G8DT)、耳かけ(HB-G5DT)として(適用聴力範囲25〜80dBHL)、2008年2月20日に提供を開始いたしました。本稿では、リオネット補聴器の最上位機種という位置づけであるリオネットルークの特徴的な機能について紹介します。
きめ細かな調整のために
「もう少しこの周波数の利得を上げたい」といった補聴器装用者からのご要望により応えるため、図1に表すように、14バンドのGAIN調整、4チャンネルのCRC(Compression Ratio Control圧縮比調整器)、低・高域2チャンネルのニーポイント(圧縮をかけ始めるマイクへの入力音圧)を備えることによって、自由度の高い調整が容易に行えます。これにより、これまで以上に様々な難聴のタイプに適用できる可能性を向上させました。また、聴力保護や不快感の低減を目的として、イヤホンからの出力を制限する機能であるOutput Power Control : OPC(Auto Gain Control: AGCと同等)、LOPC(低域のOPC)によって、「自声が響く」といった訴えに対して効果が期待できます。
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図1 補聴器DSPの処理過程を表現したイメージ
(点線で囲まれた部分は指向性機能を持つHI-G8DT及びHB-G5DTのみの機能です)不快な突発音の抑制のために
一般的な生活を送る中で、補聴器装用者は不快な突発音にしばしば遭遇します。例えば、レストランなどで食事の際に食器のぶつかり合う「カチャカチャ」する音やドアを「バタン」と閉める音、本やレポートなどをめくる際の「パサパサ」音などは、補聴器装用者にとって典型的な不快な突発音として知られています。これらの不快な突発音は、継続時間が非常に短いため、時定数の長い(機能が働くまでの時間が長い)OPC機能では、これまで抑制が困難でした。PNS(Pulse Noise Suppressor)機能は、常にこの突発音を監視しており、検出した際には、瞬時に抑制する仕組みとなっています。
図2は、会話音声に食器の「カチャカチャ」音を付加した試験信号に関して、PNS機能の働きを示したものです。PNS機能をONにした際に、インパルシヴな信号成分(突発的な音)が軽減されている様子がうかがえます。
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図2 PNS機能の実用例
(上:切 下:強設定)正面音声の明瞭性を更に向上させるために
雑音抑制機能としては、一般的にノイズリダクション機能が用いられます。リオネットルークにもFFNR(Fast & Fine Noise Reduction)と呼ばれるノイズリダクション機能が搭載されており、定常雑音を抑制し、音声を強調することによって音声の明瞭性が向上します。このノイズリダクションは、マイクに入力された信号に対して処理を行い、雑音を低減しようと試みるものですが、雑音の方向を常に監視し、雑音抑制処理を行う方法として、マイクを2つ用いることによって実現できる適応指向性処理があります。図3は、横方向や後方から到来する雑音に対して、補聴器の指向性パターンの変化を示したものです。指向性カナル(HI-G8DT)、耳かけ(HB-G5DT)タイプには、マイクを2つ搭載しています。図1にある適応指向性処理部によって、ある方向からやってくる雑音が補聴器の信号処理部に入らないように指向性パターンを決定しています。
これにより、補聴器信号処理部へ入力される信号のS/Nが向上し、結果的に正面からの音声が強調処理されたような聴こえとなります。
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図3 各方向から到来する雑音に対する適応指向性処理 更なる快適性を提供するために
補聴器は小さな機器のため、調整器も必然的に小さくなってしまいます。装用者にとってこの小さな装置をなんの不自由もなく操作することは、容易であるとは到底言い難いというのが現状でした。リオネットルークではオプションで補聴器に通信コイルを内蔵することによって、磁波を利用したワイヤレス通信が行えます。リオネット初となる補聴器用リモコン(RH-01)を用いることで、補聴器本体に手をかけなくても図4に示すようにメモリ切替、ボリューム増減などの操作を手元で行うことが可能となっています。これまでカナルタイプでボリューム仕様であった場合、必然的に1メモリ仕様となりましたが、メモリ切替ボタンがない仕様であっても、リモコンを用いることによって、最大4メモリまで使用することができます。例え補聴器自体に調整器が搭載されていないCICタイプであっても、リモコンを用いれば、ボリューム増減、メモリ切替を行うことが可能な仕様となっています。
両耳装用の場合には、もう一つのワイヤレス通信機能として、左右の補聴器間で通信を行い、メモリ切替やボリューム増減、AMC(Auto Mode Change、装用者の今いる環境を分析し、その環境ごとにノイズリダクションや指向性処理を自動で切り替える機能)の動作を同期させる双方向通信機能が使用できます。 CICタイプ(HI-G5T)の両耳装用では、双方向通信機能を使用することはできませんが、ワイヤレス通信によるリモコン操作の利便性が最も体感できる器種です。
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図4 補聴器用リモコン(RH-01)の使用方法 おわりに
リオネットルークは、「きめ細やかな調整」、「不快な突発音の低減」、「指向性による音声の明瞭性の向上」、「快適な操作性の提供」など補聴器装用者の不快感を取り除き快適性の向上を目指すことを目的として開発された製品です。中でもワイヤレス通信を利用した、リモコンによる快適な補聴器操作は、是非体験していただきたい機能であると思います。今後も製品開発において、ただ付加価値をつけるためだけに機能を搭載するのではなく、常に装用者の気持ちになって「より便利な、より快適な、ストレスフリー」を探求し続けながら、製品を開発して行ってゆきたいと考えています。