2006/7
No.93
1. 補聴器研究室発足

2. 先端改良型遮音壁の性能評価法

3. ドイツの教育玩具(Lehrspielzeug) 4. 気中パーティクルカウンタ KC-24
       <技術報告>
 
気中パーティクルカウンタ KC-24

リオン株式会社 計測器技術部 水 上  敬

1.はじめに
 近年の電子工業界の発展には目を見張るものがあります。高性能化のために高集積化や微細化が進む半導体工業、HDDレコーダーや携帯型音楽プレイヤーの普及でますます需要が高まっているデータストレージ分野、低価格化とオリンピックやワールドカップなどの世界的イベントの波に乗り一気に普及した大画面薄型テレビなどなど。これらの分野においては、製造環境中の粒子の存在が歩留まりや品質に大きな影響を与え、その管理するべき粒子の大きさや濃度はますます厳しくなってきています。
 これらの要求に応えるべく、当社では平成17年3月に気中パーティクルカウンタ「KC-24」(図1)を発表しました。本稿では、KC-24 の特徴と、センサ構造についてご紹介します。

図1 光散乱式自動粒子計数器 KC-24

2. KC-24の特徴
 KC-24 の主な特徴は以下の通りです。

・最小可測粒径:0.1μm
  「最小可測粒径」とは、パーティクルカウンタが測定できる最も小さい粒径(粒子の直径)を表します。KC-24 は0.1μm(1mm の1万分の1)の粒子を測定することが可能です。

・定格流量:28.3L/ 分
 1分間に何リットルの試料空気を吸引するかを表します。当社の気中パーティクルカウンタのラインアップには300mL/ 分、3 L/ 分などがありますが、それらの中でも大流量の部類に属し、高清浄度のクリーンルームの評価や管理に適しています。

・ISO 14644-1 に基づいた空気清浄度評価機能を搭載
 クリーンルームなどの空気清浄度のクラス表示や評価方法はISO 14644-1により定められています1)。清浄度クラスは、1m3中に浮遊する粒子径0.1μm以上の粒子数を10 のべき数で表します。例えば、1m3中の0.1μm 以上の粒子数が1000 個(103 個)以下である場合、清浄度は「クラス3」となります。清浄度の評価方法は「正規の評価方法」と「逐次サンプリング評価方法」の2つが規定されており、KC-24ではその両方法を容易に評価することができます。図2 a, b に両方法の測定画面を示します。

a. 正規の評価方法
b. 逐次サンプリング評価方法
図2 空気清浄度評価画面

・CF カードに測定結果を記録
  CFカードを挿入することにより、測定データを自動的にCFカードに保存できます。測定データはCSV(カンマ区切りテキスト)形式なので、表計算ソフトによる編集や処理が容易に行えます。ここに挙げた特徴以外にも、波高分析器内蔵による校正の簡易化や、流量自動制御、プリンタの本体取り付け(工場オプション)、リオン多点モニタリングシステムへの組み込み、チューブ多点システムの構築などが可能です。また大型液晶ディスプレイを採用したことにより、全5粒径の一括表示や各粒径の拡大表示、体積換算表示などが選択できます。

3.従来器種:KC-22A のセンサ構造について
 KC-24 のセンサ構造を説明する前に、従来器種のKC-22A のセンサ構造を紹介します。
 KC-22A は当社では初となる半導体レーザ(LD)励起固体レーザを光源としたパーティクルカウンタで、最小可測粒径はKC-24 と同様の0.1μm、定格流量は10 分の1の2.83L/分です。KC-22Aのセンサ構造を図3に示します。LD・レンズ・固体レーザ結晶・ミラーで構成されるLD励起固体レーザのレーザ共振器の内部にノズルを配置し、内蔵のポンプによって吸引した試料空気とレーザ光を交差させて検出領域を形成します。ここでインレット側のノズルは2重構造になっており、外側のシースノズルに清浄空気を流し、サンプルノズルより吸引される試料空気の流れを整え、さらにセンサ内部を汚染しないようになっています。紙面手前側には集光レンズと光電変換素子(フォトダイオード)が配置されており、試料空気に含まれる粒子が検出領域を通過した際に発生する光(散乱光)を検出します。レーザ共振器内部の強いレーザ光を利用することと、ノズルをレーザ光と平行に細長くして断面積を大きくし流速を低下することにより、0.1μmの粒子の検出を可能としています。LD励起固体レーザの原理と利点については、以前紹介した小林理研ニュースを参照してください2)

図3 KC-22A センサ構造

4.KC-24 のセンサの開発と構造について
 KC-24 のセンサはKC-22A のセンサを発展させる形で開発を行いました。もうすでに0.1 μ m を測れるのだから、あとは単純に流量を10 倍にすれば良いのではないか、と簡単にいくものではありません。流量を多くする、すなわち検出領域での流速を上げると、以下のような弊害が生じます。
・ 検出領域での粒子の通過時間が短くなり、微小な粒子を検出することが困難になる。
・ 試料空気の流れが乱れてしまい、粒子が検出領域をうまく通過せず、数え落としやセンサ内部汚染の原因となる。
・ レーザ共振器内部に空気を流しているため、レーザ光路上の屈折率の分布が乱れ、レーザ発振が不安定になる。

 流速を下げるためにはノズルの幅を広げ、断面積を大きくすることが考えられます。しかし検出領域も広がるため、レーザ光のビーム径もそれに合わせて太くしなければなりません。ビーム径を太くすると、同一パワーではエネルギー密度が低下してしまい、微小粒子の検出が困難になります。  ここで注意しなければならないのは、ノズルの幅とビーム径とのバランスです。レーザ光の断面強度は通常ガウス分布であるので、ノズル幅が広がると粒子の通過位置によって散乱光のばらつきが大きくなり、パーティクルカウンタの性能として重要な計数効率や粒径の分解能が悪化してしまいます。
 KC-24 のセンサ開発ではこれらの課題をいかにバランスよく解決するかがポイントでした。KC-24 のセンサ構造を図4に示します。
 流速を下げるために、ノズルの幅をKC-22Aの2倍に、長手方向に約2倍にし、さらにノズルを3本に分割しています。これにより、各検出領域での流速はKC-22A の同等以下となっています。またKC-22A と同様、シースノズルを配し、試料空気の流れを整え内部汚染に強い構造としています。
 レーザ光に関しては、レーザ共振器の共振器条件(共振器長、ミラー曲率)を変えることでビーム径を適度な太さにし、安定したレーザ発振にすると共に、計数効率や粒径分解能の性能を満たすよう設計しています。エネルギー密度の低下に対しては、高反射のミラーを使用することでビーム強度を高めています。また、センサ内部の乱反射を防ぐための処理を施してノイズを低減し、最小可測粒径におけるS/N 比を確保しています。

図4 KC-24 センサ構造

5.おわりに
 空気清浄度の管理は電子工業界にとどまらず、医療・医薬品業界や食品業界など様々な分野で必要とされており、その要求はますます高まっていくものと思われます。これらに応え、幅広い分野で貢献できるよう、今後とも開発に取り組んで行く所存であります。

参考文献
1) ISO 14464-1, Cleanrooms and associated controlled environments−Part 1: Classification of air cleanliness.
2) 水上 敬 : “LD励起固体レーザを光源とする気中微粒子計 KC-22A” 小林理研ニュース No.74 (2001/10)

−先頭へ戻る−