2006/7
No.93
1. 補聴器研究室発足

2. 先端改良型遮音壁の性能評価法

3. ドイツの教育玩具(Lehrspielzeug) 4. 気中パーティクルカウンタ KC-24
       <骨董品シリーズ その59>
 
ドイツの教育玩具(Lehrspielzeug)

理事長 山 下 充 康

 子供たちの理科離れが進んでいるということが近年の教育の現場で大きな問題になっている。飼っているカブトムシが死んだので電池交換しようとした子供が居ると言った滑稽な話も耳にしたことがある。日常生活の中で電池が切れたためにシステムの全機能が停止して困惑させられるような事態は誰もが経験するであろう。死んだカブトムシの笑い話ほどではないが、電池は家庭電化製品のリモートコントロールをはじめ生活の中に多様な形で日常的に存在している。市中のコンビニエンスストアの一角には様々な電池が売られているコーナーが設けられている。

 近年では滅多に無いことではあるが、数十年前までは配送電システムにトラブルが多く、頻繁に「停電」を体験したものである。停電の夜には町の一画が真っ暗になる。懐中電灯とろうそくの灯りが頼りで、そんなときには暗い室内を避けて人々が屋外に出てきた。住民の誰かが電気会社に電話をすると長く待たされることなく電気が送られてくる。灯りを取り戻したときの感動と快感はいまだに忘れることが出来ない。その当時の電力の用途は主に電灯であった。今日では、電灯よりも家庭電化製品の動力源としての電力が多い。電気がダウンすると電話機も使えないし、ガスや石油ストーブですら使えなくなる。  エレクトロニクス技術の急速な進歩と普及に支えられて便利な生活を送ることのできるようになった昨今である。それがために「電池切れ」や「停電」に遭遇すると極端な「お手上げ状態」とならざるを得ない。

 エレクトロニクスによる利便性の急速な向上には感歎させられるが「何が」「何して」「何とやら」の仕組みが不可解なものが増えている。パソコンや携帯電話、デジタルカメラ・・・様々な機器を手にしているが機能の仕組みを理解せずとも使いこなすのに不便は感じない。使うことさえ出来れば何ら問題はなかろうというのが現代の風潮であるらしい。ラジオが壊れたときに電気店のオヤジが工具をぶら下げて修理に来るような時代ではなくなった。

 ラジオの中を覗いて見ても不可解な部品が詰まっているだけで検波や同調、増幅などの電気回路を目にすることは出来ない。自動車もラジオに似てエンジンルームの中はユーザが手をつける部分が見当たらなくなった。ユーザがディストリビュータの接点をオイルストーンで研磨したり、エンジン音を聞きながらの点火タイミングの調整は前時代的な作業になってしまった。

 オーディオ機器も然りで、機械部分の全く存在しない録音再生機器が普及している。

 構造や仕組みがどうであれ機能が優れていれば仕組みの理解は不要の時代である。この傾向は近年益々加速されているように感じる。低学齢期の児童たちがパソコンゲームをはじめとする仮想空間での遊びに夢中になっている昨今の状況を考えると落ち着かない気持ちにさせられる。

 我々の子供の頃には、馬蹄形の磁石やレンズや得体の知れないボルトなどが宝物になっていた。ポケットの中や引出しの隅からガラクタかも知れないけれど自分にとっての大切な宝物が転がっていたものである。今の子供たちにも宝物があろう。I C チップの組み込まれたカードだったりコンピュータのゲームソフトであったりする。これに比べると昔の宝物は素朴であるが正体が明確な物だった。

 ここに紹介させていただくのは50 年ほど以前に市販された子供用のドイツの教育玩具である。傷んでいるがボール紙で作られた外箱には「LEHRSPIELZEUG(教育玩具)」と記されている(図1)。 凸レンズと凹レンズ、写真の現像液と定着液、鏡、金属遮光板、感光紙、幻灯機用原版、エナメル被覆のリード線、その他いくつかの金属部品(図3)がセットになっている(図2)。レンズと鏡を使った簡単な光学実験用の教材セットである。望遠鏡や写真機や幻灯機などを組み立てて遊ぶことが出来る。箱書きには120 種類の光学実験が可能とある。シュツットガルトの教材販売店の登録カードが添えられていてこの会社では実験教材をシリーズで販売していたらしい。

図1 「LEHRSPIELZEUG(教育玩具)」外箱

図2 「LEHRSPIELZEUG」セット内容

 

図3 光学機器用金属部品
図4 現像定着液等薬品

   1960年といえばカラーテレビの放送が始まった時期である。レンズ交換が出来る一眼レフカメラが市販され、にわかカメラマンが増えた。こんな時期、レンズと鏡を使った実験で光学の仕組みを体験できる教育玩具が子供たちの手に触れたことの意義は大きい。

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