1990/4
No.28
1. 創立50周年を迎えて 2. 標準周波数レコード盤 3. ACFTD校正液について 4. 音響測定器に関する規格の動向
       <解 説>
 音響測定器に関する規格の動向

リオン株式会社 音測技術部 大 熊 恒 靖

 騒音計及び騒音レベルの測定に関するアメリカの暫定規格が提案されたのが1936年であるが、それ以来その時代の技術レベル、社会的な要求等に応じて音響関連の各測定器の規格が作成されてきた。最近は多くのディジタル技術が音響測定器にも導入されてきて、また高精度化が図られ、それらに対応するための規格の改正及び新規格の作成が進められている。ここでは、騒音計のJIS規格の改正、音響校正器のIEC規格の制定及びその他のIEC規格の動向について述べる。

1. 騒音計のJIS規格の改正
 最近・騒音計のJIS規格がIEC規格との整合を目的として改正された。JIS C 1505(精密騒音計)は1988年に改正され、JIS C 1502(普通騒音計)は1990年に改正された。両規格の今回の主な改正点は、精密騒音計はIEC 651 Sound level metersのType 1に、普通騒音計は同じくType 2に規定されている性能、仕様等を可能な限り取込み、更に等価騒音レベル及び単発騒音ばく露レベルの測定機能についてはIEC 804 Integrating-averaging sound level metersの規定を導入している。

 今年3月に発行された普通騒音計のJIS規格の主な改正点は、(1)使用周波数範囲の下限が31.5Hzから20Hzに、(2)使用温度範囲5〜35℃から-10〜50℃に、(3)使用湿度範囲が45〜85%から30〜90%に、(4)器差が1.5dBから1dBに、(5)実効値指示特性が複合音の規定から波高率3の信号に対する指示誤差1dB以内に、(6)動特性の立下がり特性規定、(7)指示機構は指示計からアナログ表示方式及びディジタル表示方式に、(8)レベルレンジ切換器の隣り合うレンジの重なりが10dBから20dBに、(9)備えるべき周波数補正特性がA及びC特性からA特性をもち原則としてC特性又は平たん特性を備えるに、(10)等価騒音レベル、単発騒音ばく露レベルの規定を付属書で新たに規定などである。

 従来市販されている騒音計が改正規格に適合するかどうかという点については、例えばリオン製品の騒音計の場合には、(1)NLシリーズは適合、(2)NA‐20、60、61は適合、(3)NA-29は温度範囲が0〜50℃で適合、(4)旧製品NA-09は指示特性が近似実効値方式であるから、波高率による指示特性試験には適合しないものが多い。ただし、計量法による検定については、検定規則は従来通りであるから問題はない。
 なお、JIS C 1503(簡易騒音計)は、製品が生産されていないことを理由に1989年に廃止された。

2. 音響校正器のIEC新規格
 音響測定の使用時における測定系の感度チェックに主に用いられる音響校正器のIEC規格がIEC 942 Sound calibratorsとして1988年に制定され、昨年発行された。

 精度等級はClass 0、1、2の3分類であり、発生音の周波数は160〜1000Hzとし、1000Hzが推奨されている(ただし、ピストンホンでは1000Hzの実現は困難)。音響校正器は大気圧、温度及び湿度が重要な要因になるので、それらの影響については厳密に規定されている。

 現在市販されているピストンホンはClass 0又は1に適合し、スピーカー方式の音響校正器はClass 2に対応するが、例えばリオン製品の音響校正器NC-73は温度特性等について適合しない。なお、騒音計の規格では音響校正器を備えることは規定していなく、ほとんどの騒音計は内部の校正用発振器による電気的な校正方法を採用している。電気的な校正方法で検定を受けたものは音響校正器によってその騒音計の感度を調整してはならないので、その場合には音響校正器はあくまでも測定系の感度チェック用であるのとを再認識されたい。

3. その他のIEC規格の動向
 音響測定器のIEC規格は、IEC/TC29(電気音響)の各WG(Working group)において審議・作成される。筆者は、WG4(騒音計)、WG9(フィルタ)、WG11(音響インテンシティ測定器)、WG12(拡散音場校正法)、WG15(航空機騒音証明用音響測定器)にメンバーとして登録されていて、年3回程度これらの会議に出席している。

3. 1. 騒音計規格の改正(WG4)
 IEC 651(騒音計)及びIEC 804(積分騒音計)の改正作業が昨年から始っているが、これは第一段階としてIEC 651及びIEC 804のあいまいな部分を技術的に明確にする(最終案目標時期、1990年末)、第二段階として科学技術の発展を反映した規格として両規格を統合する(最終案目標時期、1993年末)。現時点では従来の規定を 基本的に変更するような提案はない。

 なお、個人用騒音暴露計の原案作成が昨年終了している。これら騒音暴露量E (Pa2h)を測定するもので、例えば、Eから8時間に規準化された等価騒音レベルLA8hn、を求めて作業環境騒音の管理に使用される。

3. 2. バンドパスフィルタ規格改正(WG9)
 IEC 225の改正作業が1984年から続けられ、まもなく最終案に達する段階になっている。この改正の目的は、電子技術の現状、例えばディジタル技術の応用等の現状に合った規格とすることである。主にフィルタ特性の急峻性によってClass 0、1、2に分類され、それぞれ厳密に規定される。全体に非常に厳しい規定(JIS 1513の規定は適合しない)となり、従来のフィルタの中には新規格が適用できない場合もある。

3. 3. 音響インテンシティ測定器の新規格(WG11)
 この規格はIS0/TC43/SC1/WG25で審議されている「音響インテンシティによる騒音源の音響パワーレベル計測」に使用される測定器の規格である。これらの測定器は解析装置に類するものであるから規格化は困難を伴うが、現在、主にマイクロホンの性能と校正方法、表示すべき量とその精度について議論がなされている。

3. 4. 騒音計の拡散音場校正法の新規格(WG12)
 この規格は拡散音場における精密な音響測定のために、その校正方法を規定しようとするものである。騒音計の拡散音場感度は、現行ではある一面についてランダム入射の感度を求めればよい規定であるが、全球面からの音の入射を考えた規格案が審議されている。

3. 5. 航空機騒音証明用音響測定器の改正(WG15)
騒音証明の手順は、ICAO(国際民間航空機関)の規定があるが、その測定に用いるための測正装置の規格IEC 561の改正が進められている。これは屋外における騒音の精密測定に関する規定であるから、まだ未解決な問題もあり、難題を含んでいる。

 この他に、WG8においては、標準マイクロホンの規格の審議が終了し、計測用マイクロホンの規格案作成が開始されている。

-先頭へ戻る-