1990/4
No.28
1. 創立50周年を迎えて 2. 標準周波数レコード盤 3. ACFTD校正液について 4. 音響測定器に関する規格の動向
       <技術報告>
 ACFTD校正液について

リオン株式会社 環測技術部1G 大 谷  健

1. はじめに
 自動式粒子計数器の校正には、単分散のポリスチレンラテックス粒子が通常用いられているが、油中粒子測定の分野に関しては、多分散の標準粉体Air Cleaner Fine Test Dust(以下ACFTDと略す)が用いられている。
 ACFTDを分散させた自動式粒子計数器用校正液(以下ACFTD校正液と略す)は、今まで米国の自動式粒子計数器メーカーから供給されていたが、容器ごとの粒子濃度のバラツキが明らかにされていず、測定誤差への影響が懸念されていた。他方、自動式粒子計数器は、顕微鏡に代わる測定手段として近年急速に普及し、測定の信頼性に対する関心が高まっている。
 このような背景から、日本潤滑学会・油中粒子測定の標準化研究会では、ACFTD校正液の製造方法の確立、自動式粒子計数器の校正手順の確立および使用した作動油の照合試験の3つを主要テーマにして、一連の研究を進めてきた。その間当社は、研究会の指導によりACFTD校正液を開発し、実験用試料として研究会に供出していたが、良好な結果が得られたので、一般ユーザー向けに販売することになった。そこで、ACFTD校正液の製造方法と容器(250ml)ごとの粒子濃度のバラツキのデータをここに紹介する。

2. ACFTDとは
 ACFTDとは、米国アリゾナ砂漠の天然ダストを分級調整した多分散の粉体で、化学的物理的に安定であり一様性が高く、大量に産出し容易に入手できることから、標準粉体として広く用いられている。粒子形状は写真1に見られるように不規則形状である。粒径分布はFitch(1)やKirnbauer(2)により研究されISO 4402(3)に規定されている(表1)。ACFTDの用途は、フィルターのろ過効率試験用やコンタミネーションコントロールの分野における汚染試験用などであるが、ISO 4402は自動式粒子計数器の校正用として同粉体を指定している。これまでに市販されたACFTD校正液は、ACFTDをMIL-H-5606(4)で指定された航空機用作動油(以下MILオイルと略す)に濃度5mg/lで分散させたものである。

表1−Optional particle counts for 1mg/l Air Cleaner Fine Test Dust(ISO4402より)
写真1 ACFTDの光学顕微鏡写真
3. 製造方法
 当社で製造するACFTD校正液は、MILオイルにACFTDを濃度3mg/lで分散させたものである。(写真2)。濃度を3mg/lと既販品の5mg/lよりも低くした理由は、粒径5μm以上で自動式粒子計数器が飽和しにくいことによる。製造単位は1ロット100本であり、MILオイルとACFTDの混合液を攪はんしながら、多数の試料容器に250mlずつ分注する方式としている。
写真2 ACFTD校正液

 ACFTD校正液の製造上の重要点は、製造した多数の試料中の粒子濃度が一様なことである。この目的のために、当社での製造方法は重量法を採用しており、室温を制御しなくても、粒子濃度を±1%以下の精度で一定に調整している。また、全工程はクラス1000のクリーンルーム内で行い、外部からの汚染粒子の混入を防いでいる。
 製造工程は次のとおりである。

(1) MILオイルの比重測定  校正の基礎となるACFTDの粒径分布(表1)は、容量濃度で規定されているので、重量濃度からの換算のために、事前にMILオイルの比重を25℃で測定する。
(2) 試料容器とステンレス容器の洗浄  試料容器(内ぶた外ふたつきガラス製容量300ml)約100本と混合用のステンレス容器(容量40l)を次の手順で洗浄する。
  中性洗剤と回転ブラシ(またはスポンジ)により、水道水で洗浄する。
  ジェットスプレーガン(フィルター孔径0.8μm)により、脱イオン水で洗浄する。
  ジェットスプレーガン(フィルター孔径0.8μm)により、イソプロピルアルコールで洗浄する。
  クリーンベンチ内で乾燥する
(3) MILオイルのろ過
 MILオイル約30lを孔径0.8μmのフィルターでろ過し、ステンレス容器に入れる
(4) MILオイルの清浄度確認ろ過したMILオイルを清浄な試料容器に取り、自動式粒子計数器で測定する。NAS 3級(5)以下ならば合格とする。
(5) 試料容器の清浄度確認
 抜き取り選別した洗浄済みの試料容器に清浄なMILオイルを入れ、手振り3分、超音波30秒の順に攪はんし、自動式粒子計数器で測定する。NAS 3級以下ならば合格とする。
(6) ADFTDの秤量
 ACFTDを約90mg秤量とし、試料容器に入れる。
(7) ACFTDの分散ACFTDの入った試料容器にろ過したMILオイルを250ml加える。手振り5分、超音波30秒、手振り5分の順に攪はんし、ACFTDを分散させる。
(8) 濃度調整
 ACFTD分散液をステンレス容器に入れる。次に重量計で計量しながらろ過したMILオイルを追加し、粒子濃度の容量濃度への換算値を3mg/lに調整する。
(9) 混 合
 濃度調整したACFTD分散液を、攪はん機で1時間混合する。
(10) 分 注
 攪はん機で混合しながら、ACFTD分散液を試料容器100本順次分注し、内ぶた外ぶたをする。

4. 容器ごとのバラツキ
 容器ごとの粒子濃度のバラツキを明らかにするために、同ロット内の容器100本から分注順に10本間隔で試料を抜き取り、粒径区分約>5、>10、>15、>20、>30、>40μmで10ml中の粒子数を自動式粒子計数器により測定した。一例として第4ロットの測定結果とその平均値と変動係数(%)(以下CV値と略す)を表2に示す。測定は試製した第1〜5の各ロットについて行い、得られたCV値とその平均値を表3にまとめた。表3はロット内における試料のバラツキを表わしている。CV値は粒径が大きくなるほど大きくなる傾向があるが、これは粒径が大きくなるほど粒子数が減少してバラツキが大きくなることと、沈降速度が大きくなり測定が困難になることによる。
 次にロット間のバラツキを調べるために、各ロットの平均値からCV値を求めた(表4)。表3と表4のCV値を比較して、ロット内のバラツキ(表3)よりもロット間のバラツキ(表4)の方が大きい傾向が認められる。これは、ACFTD自体の不均一性によるものと考えられる。

表2 第4ロットの校正液の一様性測定結果(10ml-1)とその平均値とCV値
   
表3 各ロットのCV値とその平均値
表4 各ロットの平均値とそのCV値

5. おわりに
 リオンで製造したACFTD校正液は、一様性に関するデータにより日本潤滑学会・油中粒子測定の標準化研究会から評価され、実験試料として採用された。これにより同研究会のテーマである自動式粒子計数器による油中粒子測定の信頼性を明らかにすることに貢献した。今後は、一般ユーザーに販売普及することにより、現場における油中粒子測定の信頼性向上が期待される。

謝 辞
 ACFTD校正液の開発にあたり多大な指導をいただいた日本潤滑学会・油中粒子測定の標準化研究会に感謝します。

参考文献
(1) Fluid Power Control Laboratory, School of Mechanical Engineerings, Oklahoma State University, NASA Filtration Mechanics Project. Annual Report, 1966
(2) Supplemental Report 70-1 of the Basic Fluid Power Research Program Annual Report , Contamination Control. July, 1970.
(3) ISO 4402 : Hydraulic fluid power-Calibration of liquid automatic partic-count instruments-Method using Air Cleaner Fine Test Dust contaminant. 1977
(4) MIL-H-5606 : Hydraulic fluid, Petroleum base, Aircraft Missile and Ordnace. 1950
(5) NAS 1638 : Cleanliness Requirements of Parts used in Hydraulic Systems.1964

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