2019/7
No.145
1. 巻頭言 2. 楽器用高分子センサー開発と誘電測定 3. リオネットシリーズ 2.4GHz 帯 ワイヤレス通信機能の開発  
   

     <技術報告>
 リオネットシリーズ 2.4GHz帯ワイヤレス通信機能の開発


リオン株式会社 技術開発センター  山 田  新

1.はじめに
 補聴器「リオネットシリーズ」は、リオネット補聴器のブランド名を冠したフラッグシップモデルであり、従来製品と比べて“音質”と“聞こえ”の向上を図った製品である(小林理研ニュース 2018年1月 No.139参照)。
 2018年8月、同シリーズのラインナップに2.4 GHz帯ワイヤレス通信機能(以下、ワイヤレス機能)を付加した補聴器6機種を加え、以下3種類のワイヤレス対応アイテムを開発することで、聞こえ・安心・使い勝手の向上を目指した(図1)。

 ・ ワイヤレスアダプター  
 ・ スティックリモコン
 ・ スマートコントロール(スマフォアプリ)

 本稿では、リオネットシリーズに追加されたワイヤレス機能を中心に、製品特徴及び開発秘話について紹介する。
図1 2.4GHz 帯ワイヤレス通信機能を付加した補聴器6機種

2.ワイヤレス機能
2.1. 無線補聴器の実現
 補聴器「リオネットシリーズ」の内部に、アンテナとマッチング回路を加えることで、“音声のストリーミング”と“リモートコントロール”の2つのワイヤレス機能を実現した。
 リオネット補聴器ではこれまでも無線補聴器が発売されていたが、“接続の煩雑さ”や“通信性能”が課題であった。今回のワイヤレス機能でこれらの課題を解決し、「真に使いやすい補聴器」を目指した。

2.2. ワイヤレスアダプターを活用した聞こえの補助
 高齢者が普段の生活で楽しいと感じていることに“テレビ、ラジオ”が一番に挙げられている1)。しかし、周囲の音が大きな環境では、所望の音の聞き取りが阻害されてしまう。補聴器は雑音抑制や指向性機能などでSN比の向上を図っており、今回発売した“ワイヤレスアダプター”はテレビや離れた位置の音を補聴器に直接届けることでSN 比の向上を目指している。
 ワイヤレスアダプターに入力された音声信号は、2.4 GHz 帯の独自プロトコルによって補聴器に送信され、補聴器から出力される。2種類の入力モードを搭載し、用途に合わせて使い分けられるようにしている。
 1つ目の入力モードは、外部入力端子(3.5 mm ステレオミニプラグ)を使ったテレビなどの音声を取り込む方法である。難聴者がテレビの視聴を行う際、出力された音が周囲の雑音にさらされることを防ぎ、直接補聴器に届けることができる。ワイヤレスアダプターはテレビ視聴のシーンで使われることを第一に考えており、補聴器を専用のメモリーに切り替えるだけで簡単にテレビ音声を受信できるようにしている。
 2つ目の入力モードは、ワイヤレスアダプター本体に搭載されたマイクロホンをワイヤレスマイクとして活用する方法である。会議や講演会など離れた位置の音をより近い位置で拾うことでSN比の向上が期待できる。補聴器側をワイヤレスアダプターのチャンネルに合わせれば、1つのワイヤレスアダプターから複数の補聴器に音を届けることが可能である。
 このように、ワイヤレスアダプターには2種類の入力モードが搭載されており、外部入力端子にオーディオケーブルが接続されているか否かによって入力が切り替わる仕様とした。ユーザーの操作を極力減らすことで使い勝手の向上を図っている(図2)。
図2 ワイヤレスアダプター

2.3. 使い勝手の向上を目指した専用リモコン
 補聴器は筐体サイズが非常に小さいため扱い難く、耳に装用するため目視での操作ができない製品である。そのため、筐体で使い勝手を向上させても高齢者にとっては補聴器の操作は非常に困難であり、Bluetooth®技術を活用したリモートコントロール手段は非常に有用であると考えられる。
 専用リモコンである“スティックリモコン”は、持ち運びが簡単になるように従来比50%のサイズダウンを達成し、握りやすいスティックタイプの形状を採用した。握り方を誘導することで、アンテナ性能に影響のない箇所にアンテナをレイアウトし、通信距離を確保している(従来のリモコンはNFMI 方式を使用していたため、通信距離や本体の向きに制限があった)。また、筐体サイズが小さくてもボタンなどの操作部を大きくすることで、視認性・操作性を確保している。
 スティックリモコンはボリュームやメモリー切り替えなど簡単な操作のみ搭載し、スマートフォンを持っていない装用者に対するコントロール手段として提供する(図3)。
図3 スティックリモコン

2.4. Android 専用アプリによるリモートコントロール
 Android端末専用のスマートフォンアプリ“スマートコントロール”は、スティックリモコンと同様の機能に加え、補聴器の電池残量表示、補聴器を失くしたときの推定位置検索、電話の着信を補聴器経由でお知らせする機能が付加されている。画面で補聴器の状態を確認でき、手元での操作が可能となるためユーザーへの安心感につながっている。
 使い勝手に配慮し、画面遷移が少なくなるよう情報をメイン画面に集約している。さらに、「スワイプ」や「ピンチ」動作を使用せず、単純な動作である「タップ」のみで操作できるようにした。
 リモコンとアプリ、この2つのリモートコントロール手段を介して、補聴器を両耳装用したときに左右のボリュームやメモリーを同期することが可能である(図4)。
図4 スマートコントロール メイン画面

3. 開発秘話
 補聴器という小さな筐体の中に、無線回路を新たに追加するというサイズ上の制約。さらに、耳(人体)に触れることによって無線性能が損なわれてしまうという無線性能の制約。これらの制約が本製品を開発する上で大きな課題となった。
   本体基板に多層フレキシブル基板を採用することで、基板の折り曲げが可能となり、組み込みサイズの小型化や無線性能の安定化を図っている。また、アンテナ基板、マッチング回路からDSPにつながる配線部分には、他の回路からの干渉をなるべく受けないよう緻密にアートワーク設計を行った。さらに、ファントムでのシミュレーションを繰り返し、最適なアンテナ指向特性を得るようにした結果、アンテナ部を筐体外部には出さずに補聴器を耳に装用した状態でも、ワイヤレス機能を不自由なく活用できる無線仕様を確保することができた。
   ワイヤレス機能を付加した補聴器6機種のうち、耳かけ型補聴器であるHB-A2/A4/A6は無線非搭載機種に対して、サイズがあまり大きくならないよう、基板の折り曲げ方向や部品配置を3DCADで確認しながら設計することで、ケースサイズを抑えることに成功した。また、耳あな型補聴器HI-C2/G8/G7 は、様々な形状のシェル(外耳道に挿入される部位)に内部部品が干渉しないように、組み込み時の部品位置を微調整した。
   こうした試行錯誤により、無線性能を付加したうえで、必要最低限のサイズに納めた補聴器を実現することができた(図5)。
図5 補聴器HB-A6AA/AB の内部構造

4. おわりに
 Bluetooth 技術の発展に伴い、様々な機器とスマートフォンとの連携が容易となった昨今ではあるが、補聴器は使用ユーザーの大半が高齢者であることを忘れてはならない。
 ワイヤレス機能の搭載によって、リオネットシリーズに“聞こえ・安心・使い勝手の向上”という新たな価値を付加するのと同時に、ユーザーの操作が多くならないよう配慮した設計を行った。
 補聴器の操作やテレビ視聴などに不便さを感じているユーザーに対して、新しくなったリオネットシリーズが QOL の向上に少しでも寄与できれば幸いである。

参考文献
1) 内閣府政策統括官,“高齢者の日常生活に関する意識調査結果”,内閣府,2015,  
  https://www8.cao.go.jp/kourei/ishiki/h26/sougou/zentai/index.html

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