2019/4
No.144
1. 巻頭言 2. ASEA-SEC-4に参加して 3. Tri-axial Groundborne Vibration Meter VM-56  
   

 
  水が世界を結ぶ   


  理事長  山 本  貢 平

 それは夏の終わりのとても暑い日だった。場所はローマ・コロッセオ近くの路地裏。私たちはオープンカフェ風のレストランで夕食をとろうとしていた。メニューを見ながら料理名を指さして、イタリア人ギャルソン(給仕)に注 文していくまではスムーズだったが、問題は注文の最後に起きた。私たちはワインに追加して水が欲しかっただけなのである。「ウォータ(Water)プリーズ」。ギャルソンは首を傾げている。分からないとの表情と身振りをした。何度繰り返しても「ウォータ」が通じないのである。ちなみにドイツ語の「ヴァッサ(Wasser)」も通じない。「人類にとって最も重要な水を意味する英語」が通じない国があるなんて考えられなかった。ようやくスペイン語の「アグア (Agua)」を試すと通じたらしく、彼はにっこりした。イタリア語では水を「アクア(Acqua)」というらしい。ウォータとアクアには関連性がないのか?

 数年後の秋、千日回峰行と呼ばれる僧の荒行が記録映画としてテレビ放映されていた。最も過酷な行は「堂入り」と呼ばれ、真言を唱えながら断食・断水・断眠・断臥を足かけ9日間行うという。終に修行僧は生死の境界をさまよい、彼の瞳孔も開き始める。それでも補助者に支えられながら御堂を出て井戸に水を汲みに行く。この行為を「閼伽汲み」 というらしい。「閼伽」は「あか」と読み、サンスクリット語で水を表す「アルガ(Argha)」の音写である。とりわけ仏前に供える功徳水のことを「閼伽」というらしい。つまり日本の「あか」もイタリアの「あか(アクア)」も水を 表す。そしてこれらの語源はおそらく同一だったのだ。ではウォータの語源は何だ?

 さらに数年過ぎたある冬のこと。千葉工大の教授と居酒屋で酒を飲んでいた。アルコールの強い酒が話題となり、ロシア人はウォッカという蒸留酒を好むという。そして、彼はこのウォッカ(Vodka)という名前には「水」という意 味もあると説明した。ウォッカが水だって? その音はウォータに似てないか? 例えば「カ」にストレスを置いて破裂音的に発音すると「ウォーカ」から「ウォータ」に聞こえる。一方、口を大きく開けて「オ」を発音し、「カ」を 「クア」と発音すると「アックア」と聞こえるではないか。ここでつながった。「アクア」は「ウォッカ」を介して「ウォータ」に関連付けられる。すなわち「アクア」と「ウォータ」とは同根なのだ。

 極東の日本と地中海のイタリアおよび欧州のいくつかの国で、水を表す言葉の語源が共通なものであった。紀元前10 〜 20 世紀、インド・ヨーロッパ語族のアーリア人が、西アジアの地からイラン高原をへて、北インドやペルシャ・ 地中海・ヨーロッパに移動したと歴史が語ってくれている。そんな遠い昔の人々が生活の中で使っていた言葉の中で、人類の生命維持に欠かせない「水(アクア)」が、現在も世界をつないでいるというのは感動的ではないか(後日談が ある。アジアとヨーロッパをつなぐトルコでは水は「すい(Su)」。チュルク民族はアルタイ語族だった)。

 

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