2019/4
No.144
1. 巻頭言 2. ASEA-SEC-4に参加して 3. Tri-axial Groundborne Vibration Meter VM-56  
   

     <技術報告>
 Tri-axial Groundborne Vibration Meter VM-56


リオン株式会社 音響振動計測器開発課  永 井   篤

1.はじめに
  2018年秋に、Tri-axial Groundborne Vibration Meter VM-56及びオプション製品 Waveform Recording Program VX-56WR、1/3 Octave Real-time Analysis Program VX-56RT を海外市場向けに発売したのでここに紹介する(図1)。
図1 VM-56 外観図

 VM-56は、欧州、東南アジア等で参照されている振動測定規格に準拠した計測器であり、振動源周辺の建物に伝搬する振動や建物内の人体暴露振動を測定するものである。
 なお、VM-56 はJIS C 1510:1995、JIS C 1517:2014 に定められた振動レベル計とは異なるものである。

2.製品概要
2.1 Tri-axial Groundborne Vibration Meter VM-56
2.1.1 本体
 VM-56 は、DIN 45669-1:2010-09(測定範囲、周波数範囲のみ)[1]、ISO 8041:2017[2]及びオランダのガイドラインSBR:2010 part A・B[3]、[4]に適合する。これらの規格を元にして作成された、振動測定規格や測定ガイドラインを参照する海外の環境コンサルティング企業、建設会社、採掘会社向けの振動計である。
 日本国内の環境振動測定は、例えば振動規制法の場合、敷地境界線の振動レベルと振動規制法で規定した規制基準を比較する。規制値を超えた場合、事業者は振動源に対して何らかの処置を取らなければならない。
 一方で、欧州、東南アジアでは、振動を受ける構造物の内部やその壁面、敷地内で測定し、各国振動測定規格に規定されている規制値と比較する。建物への損傷を評価する場合は、速度波形の絶対値の最大値(PPV、Peak Particle Velocity)と卓越振動数(D.F. 、Dominant Frequency)を用いる。XYZ 軸のPPV およびD.F. の値が規制値を超えていないか監視する。
 PPV に対する規制値は公共施設や産業施設に対するもの、住居に対するもの、文化的に重要度の高い特定建造物に対するものの3区分ある。
 図2は、測定したPPV およびD.F. の値と公共施設や産業施設に対するものの規制値を見比べたものである。1 Hz から10 Hz の帯域で規制値を超えた振動が確認できる。
図2 短期振動に対する規制値とPPV - D.F. グラフ

 VM-56 はコンパレータ機能を備えており、測定者が設定した閾値をPPV およびD.F. の値が超えたときにコンパレータ信号を出力し、外部機器の制御ができる。例えばパトランプ等を接続することで規制値を超えたことを瞬時に知らせることができる。本機能を用いて、測定者は規制値を超えた場合に、工事の中断や振動源の停止等の処置を行うことができる。
 建物内の人体暴露振動を評価する場合は、周波数重み付けした速度波形の30 秒間の実効値(KBFT)や補正加速度実効値(Acc.)、最大過渡振動値(MTVV)、振動暴露量値(VDV)などを用いて評価する。
 ドイツの振動測定規格DIN4150-2:1999[5]に準じた評価をする場合、KBFT から算出するエネルギー平均値(KBFTr)や、総測定期間の最大値(KBFmax)を規定値と比較し評価する。
 建物内の人体暴露振動を評価する場合、ISO 2631-2に規定されている周波数重み付けWmを行った、Acc.を用いて評価する。クレストファクタ(C.F. 、Crest Factor)の値によっては、MTVV やVDV も保存し評価する。
 VM-56 は、建物への損傷を評価するPPV と建物内の人体暴露振動を評価するKBFT、Acc. を同時測定することができ、“建物への損傷”と“建物内の人体暴露振動”を一度の測定で評価することが可能である。
 VM-56 で測定した結果は、CSV 形式のファイルに保存される。弊社Web サイトから無償ダウンロードできるExcelマクロを用いることで保存されたファイルからグラフ作成が簡単に行える。
 VM-56 は、USB 又はRS-232C を経由して、通信により評価値の取得や設定の変更、測定の開始・停止の切り替えができるため、振動の環境モニタリングシステムに組み込むことができる。
 VM-56 の仕様を表1に記載する。        

表1 VM-56 仕様表

測定チャンネル数 3チャンネル(XYZ)
測定範囲 振動加速度:0.0003 m/s2 〜 10 m/s2
PPV:0.03 mm/s 〜 100 mm/s
変位(0-peak):0.01 mm 〜 10 mm
周波数範囲 0.5 Hz 〜 315 Hz
設定可能な
周波数重み付け
加速度:Wb , Wd , Wm
速度:KB , Hv
DIN に準じた
測定量
速度波形の絶対値の最大値:PPV
卓越振動数:D.F.
重みづけ振動量の最大値:KBFmax
30 秒区間のKBF 値の最大値:KBFT
ISO に準じた
測定量
補正加速度実効値:Acc.
最大過渡振動値:MTVV
振動暴露量値:VDV
クレストファクタ:C.F.
SBR に準じた
測定量
重みづけ振動量の最大値:veff,max
30 秒区間のveff 値の最大値:veff,max,30
その他の
測定量
変位(0-peak):Disp.
PPV の3 軸合成:PVS
最長連続測定時間 200 日(瞬時ストアOFF の場合)

2.1.2 加速度ピックアップ
 ピックアップは加速度ピックアップPV-83Dを付属しており、人が感じる低い周波数から発破振動を考慮した 高い周波数まで対応している(0.5 Hz〜315 Hz)。また、 DIN plate VP-54Dを取り付ければ、DIN45669-2に準じ た設置ができ、共振周波数を上げることが可能となる。 L-bracket VP-54L を取り付ければ建物の基礎部分にセンサを設置することができ、基礎部分が受ける振動を測定することができる。
 ピックアップ上蓋中央には水準器を取り付けているため、壁面への取り付け時や地面設置時に水平位置を確認しやすい(図3)。
図3 加速度ピックアップ PV-83D (VP-54D、VP-54L 使用時)

 

2.2 Waveform Recording Program VX-56WR
 VX-56WRは、VM-56に加速度波形の収録機能を付加 するためのオプションプログラムである。
 加速度波形は、リニアPCM のWAVE 形式(サンプ リング周波数2 kHz、量子化ビット数16 bit /24 bit)で保存される。測定中の加速度波形を収録することができ、連続で最大約1ヶ月の収録が可能である。
 後述の分析ソフトAS-70GV で読み込むことで、各種評価量の算出や、1/3オクターブバンド分析、FFT分析が可能となる。

2.3 1/3 Octave Real-time Analysis Program VX-56RT
 VX-56RT は、VM-56 に1/3 オクターブ実時間分析機 能を付加するためのオプションプログラムである。
 1/3 オクターブバンドのフィルタは、IEC 61260-1: 2014 Class1 に適合している。
 測定する周波数バンドは1 Hz から315 Hz(全26バンド)まであり、VM-56は周波数重み付けWb、Wd、Wm を掛けられる他、測定者が各バンドに対して任意の重み付けを掛けられる“ユーザーウエイト機能”を備えている。
 測定現場で1/3 オクターブ分析ができ、分析結果は振動源の特定や振動イベントの抽出に用いることができる。

2.4 Waveform Analysis Software for Groundborne Vibration AS-70GV
 AS-70GV は、VX-56WR で収録したWAVE ファイルを読み込み、コンピュータ上で詳細分析をするための専用ソフトであり、波形処理ソフトウェアAS-70シリーズの1つである。
 収録データに対して、レベル化処理、FFT 分析、オクターブ・1/3オクターブ分析で詳細分析ができる上に、 VM-56 で設定できる周波数重み付けを変更して再演算することが可能である。再演算を行うことで、測定規格に合わせた周波数重み付けの選択や振動源に合わせた周波数帯域制限の変更ができる。測定者は設定ミスによる 再測定が少なくなる(図4)。
図4 AS-70GV 分析画面

3 . おわりに
 VM-56は、DIN 45669-1:2010-09(測定範囲・測定周波数のみ)、ISO 8041:2017 、SBR:2010 Meten en beoordelen van trillingen part A・B に適合しており、 海外の振動測定規格に準じた測定ができる振動計である。建物への損傷を評価するPPV や建物内の人体暴露振動を評価するAcc. 等を同時測定ができる。また、各種オプション製品によって詳細分析を行うことができ、システムアップすることでモニタリングシステムに組み 込むこともできる。
 VM-56 は弊社では初となる、PPV を測定できる振動計である。開発には海外ユーザーやディストリビューターの意見を多く反映し、ユーザーにとって使いやすく、かつ、ディストリビューターがシステムアップしやすいように工夫した。その工夫が使用者の満足につながれば幸いである。

参考文献
[1] DIN 45669-1, Mechanical vibration and shock measurement− Part 1: Measuring equipment
[2] ISO 8041-1 First edition 2017-05 Human response to vibration − Measuring instrumentation− Part 1: General purpose vibration meters
[3] SBR Richtlijn A Meet−en beoordelingsrichtlijn. Schade aan gebouwen 2010
[4] SBR Richtlijn B Meet − en beoordelingsrichtlijn. Hinder voor personen 2013
[5] DIN 4150-2, Vibrations in buildings− Part 2: Effects on persons in buildings

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