2019/4
No.144
1. 巻頭言 2. ASEA-SEC-4に参加して 3. Tri-axial Groundborne Vibration Meter VM-56  
   

       <会議報告>
  ASEA-SEC-4に参加して


騒音振動研究室 室長  廣 江 正 明

 2017 年の EuroSteel 2017 に引き続き、前橋工科大学の谷口准教授の引率のもと、2018年の12月1日(土)〜6日(木)の日程で国際会議ASEA-SEC-4(The Fourth Australasia and South-East Asia Structural Engineering and Construction Conference:第4回豪州・東南アジア構造工学・建設会議,12/3 〜 5)に参加した。この国際会議は表1に示すように、2012 年から隔年1回のペースで開催されている。これまで第1回はオーストラリアのパース(2012年,テーマ:構造工学と建設における研究・開発・実践)、第2回はタイのバンコク(2014年,テーマ:構造工学と建設における持続可能な解決策)、第3回はマレーシアのサラワク(2016年,テーマ:基盤施設開発の為の統合的解決策)で開催され、今回再びオーストラリアで開催された。会議のテーマは「構造と構造工学間の情報伝達の合理化」である。会議が開催された12 月初旬のオーストラリアは正に夏真っ盛りで、かつクリスマス・シーズン。日々寒さが増していく日本と全く正反対の気候ながら、街中は日本同様クリスマスらしい華やかな装いでいっぱい。渡航中は天候にも恵まれ晴天続き。常に半袖シャツ姿で、長袖や上着がいらず過ごし易かったが、逆に帰国後は南半球との寒暖差の影響か、体調不良になって思わぬ苦労をさせられた。

表1  Australasia and South-East Asia Structural Engineering and Construction Conference の開催情報一覧(第1 回〜第4 回)

No.
Venu
Theme
Papers
1
Curtin University, Bentley Campus, Perth
Nov 28-Dec 2, 2012
Research, Development, and Practice in Structural Engineering and Construction
184 peer-reviewed papers;
38 countries represented
2
Kasetsart University, Bangkok
Nov 3-7, 2014
Sustainable Solutions in Structural Engineering and Construction
135 peer-reviewed papers;
29 countries represented
3
Curtin University, Sarawak Campus, Malaysia
Oct 31-Nov 4, 2016
Integrated Solutions for Infrastructure Development
77 peer-reviewed papers;
25 countries represented
4
University of Southern Queensland, Australia
Dec 3-5, 2018
Streamlining Information Transfer between Construction and Structural Engineering
79 peer-reviewed papers;
20 countries represented

 ASEA-SEC-4の開催都市ブリスベンは、オーストラリア連邦のクイーンズランド州の州都で、シドニーやメルボルンに次ぐ国内第3位の大都市である。地震とは無縁の土地柄のようで(正確には日本と比べると大地震の発生周期が非常に長いようで)、市街地の中心を流れるブリスベン川の際まで高層ビルが林立する近代都市であった。会議直前の数日、同行の谷口先生とブリスベン市内の鋼構造物を視察した。その際、ブリスベン川に掛かる有名な鋼橋「ストーリー・ブリッジ」をじっくりと見学した。谷口先生によればこの鋼橋は製作に手間を要するリベット構造であることや、橋脚の支持構造は石積のようになっており、上下荷重に強いが水平方向の荷重(地震時の荷重など)はあまり考慮されていない構造であることなど、イギリスの古い設計手法が踏襲された土木建築物とのこと(図1)。実際、ストーリー・ブリッジは150 〜 200 オーストラリアドル(日本円で\13,000 〜\18,000)でブリッジクライミングが楽しめる有名な観光施設でもある。筆者が高所恐怖症でなければ先生と一緒に橋の上に登って間近から更にじっくりと眺め、古い時代の土木建築物としての別の特徴を発見できたかもしれない。

図1  ストーリー・ブリッジの外観(360°カメラ撮影)

 市内観光的な話題はここまでにして本題に移ろう。開催場所、University of Southern Queensland の Springfield Campus はブリスベン市内から在来線で約30 分の距離にあり、最寄り駅から徒歩15 分、周辺には駅隣接のショッピングモールしかない、正に大学の為に造られたような場所であった。大学に向かう路線(SpringfieldLine)沿線も宅地が時折見えるくらいで、街らしい街もなく、昔の学園都市線といった雰囲気であった(図2)。今回、ASEA-SEC-4 で騒音・振動分野の成果「粒子速度計測を用いた制振対策による騒音低減効果の評価」を発表した。参加前から分かっていたことだが、当然、土木・建築系の学会に自分の発表に適したセッションがあるはずもない。谷口先生と色々相談はしたが、最終的にセッションは「その他」で申し込んでいた。結果、「建物構造と振動」というセッションに無理やり押し込まれていた(多分、制振 → 振動制御 → 構造振動 → 建物振動という牽強付会であろう)。


プレゼンテーション(12/4 午後)


ランチタイム
左から谷口先生、筆者、坂野先生(関西大)

図2 会場のUniversity of Southern Queensland(Springfield Campus)にて

 ここで、どうして土木と建築が一緒に学会を開催しているのかと訝る方がおられるかもしれないので少し説明をしておこう。日本では構造設計や基準等は土木と建築で別々に議論されることが一般的であるが、国際的には土木と建築は一緒に取り扱われている。EuroSteel 2017の中に EUROCODE というセッションがあったが、EUROCODEとは土木・建築に係る欧州構造基準のことである。このように欧州では土木と建築は一括りで取り扱われ、既に欧州域内における構造基準まで構築されている。2018 年、2017 年と2回の国際会議に参加したことで、鋼構造物を始めとする土木・建築分野における日本と欧米諸国との隔たりを感じるとともに、欧米との組織(力)の差を垣間見た気がする。
 ところで、今回参加したASEA-SEC-4 はEuroSteel 2017 と比べて参加者総数が極端に少なかった(過去のASEA-SEC 開催状況から前回も同様に少ないことが分かるが)。これは谷口先生によると、会議全体を見渡してインド・台湾・日本やオーストラリアからの参加者が目立つ反面、中国からの参加が極端に少なく、それが総数の少ない要因の一つではないかということであった。近年、inter-noise やWESPAC 等の騒音分野の国際会議でも中国からの参加者数が上位になることが少なくないが、中国が国際会議ASEA-SEC でもその盛況さを左右しているようである。
 さて、先述のとおり筆者は「建物構造と振動」セッションの中で「制振対策による騒音低減効果の評価」について発表したが、土木・建築分野では非主流の話題で、座長からの質問以外に大した質問は出なかった。これ自体は予想されたことであるが、他の発表も同様に質疑応答が少なかったことは意外だった。このセッションには谷口先生をはじめ、土木関係の先生が多く聴講していたが、建築分野の発表であったため質疑応答に加わり難く、結果的に盛り上がりに欠けるセッションとなったのかもしれない。

 以下は本国際会議中に開催された9つのセッションで、[ ] 内の数字は日本人の発表者数/全発表者数である。

  ・ 建築、建築工学及び複合材料 [5/8]
  ・ 舗装と社会基盤(インフラストラクチャ)[1/8]
  ・ コストとプロジェクトの管理及び建設 [0/8]
  ・ コンクリート建材 [6/7]
  ・ コンクリート及びプレストレスト・コンクリート[2/7]
  ・ 建物構造と振動 [3/6]
  ・ コンクリートの力学特性 [5/6]
  ・ 地盤工学及び基礎工学 [4/5]
  ・ 建築、遅延解析及び紛争解決 [0/7]

 構造工学と建築の国際会議は、ASEA-SEC(Australasia and South-East Asia:豪州と東南アジア)の他に、ISEC(International:全世界)とEURO-MED-SEC(European and Mediterranean:欧州と地中海)がある。次回の ASEA-SEC-5 の開催時期や場所はまだ決まっていないが、世界大会ISEC-10(第10回国際構造工学・建設会議)が2019年の5月下旬に米国イリノイ州シカゴで、EURO-MED-SEC が2020 年の6月下旬にキプロスで開催されることが決まっている。今年開催されるISEC-10が同分野における卓越した研究成果が一堂に会する素晴らしい会議になることを期待したい。

図3  プロジェクションマッピングが施されたブリスベン市庁舎(360°カメラ撮影)

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