2018/4
No.140
1. 巻頭言 2. 残響室法吸音率における空気吸収の影響に関する検討 3. JCSS校正証明書を標準添付した音圧フィードバック方式の音響校正器
   

     <技術報告>
 JCSS校正証明書を標準添付した 音圧フィードバック方式の音響校正器 NC-75


リオン株式会社 音響振動計測器開発課  黒 沢  雄

1.はじめに
 計量法における騒音計の検定に関する技術基準である、特定計量器検定検査規則が平成27年4月1日に改正された(以後、新検則と称する)。主な内容は日本工業規格 JIS C 1516 : 2014(騒音計−取引又は証明用)を引用したことであり、この規格は国際規格であるIEC 61672-1 : 2013、 IEC 61672-2 : 2013 と整合している[1]。これにより改正前の検則(以後、旧検則と称する)に比べて、騒音計に対する要求がより高い技術基準になるとともに、音響校 正器のみによる騒音計の校正方法に変更された。
 旧検則では、騒音計の内部電気信号による校正(内部校正)と音響による校正(音響校正)という、2種類の校正方法が存在していた。内部校正は騒音計の電気回路に対する校正を容易に実施できる一方で、マイクロホンを含んだ機器全体の校正はできない。音響校正はマイクロホンを含む機器全体の校正が可能であるものの、使用 する音響校正器は騒音計と1対1の関係であることが旧検則においては必須であり、複数台の騒音計を有する測定事業者には運用上のハードルがあった。新検則では音 響校正のみを認めた上で、音響校正器1台で複数の騒音計の音響校正を可能にした[2]
 音響校正は、指定の音圧レベル、周波数を発する音響校正器を騒音計のマイクロホンに装着し、騒音計の指示値と音響校正器で指定する音圧レベルの差を確認するこ とで実施される。校正例としては、騒音計の動作確認を目的とした騒音測定前後での実施、計測器の日常的な点検での実施が挙げられる。
 音響校正で重要なことは、測定値の基準となる音響校正器の信頼性を担保することである。音響校正器の規格で定義された要件を満たすだけでなく、国家計量標準と のトレーサビリティの確保、屋内外での使用を想定した製品設計、様々な種類のマイクロホンへの対応等の要求を満たす必要がある。
 当社では2001年より音響校正器NC-74を販売してきたが、検則の改正による音響校正の要求を踏まえ、従来品よりも更に高信頼、高品質を追求した音響校正器 NC-75(図1、図2)を開発したので紹介する。

図1 音響校正器NC-75
図2 NC-75 を精密騒音計NL-52 に装着した様子

2.製品概要
 NC-75は、IEC 60942 : 2017 class 1、JIS C 1515 : 2004 クラス1、ANSI/ASA S1.40-2006 class 1に適合する、公称音圧レベル94 dB、公称周波数1000 Hz の音響校正器である。精密騒音計の校正に十分な性能を備え、小型、 軽量で取り扱いの簡単な校正装置である。対応するマイクロホンは当社製及びIEC 61094-4 の寸法規定を満たす、 1インチ、1/2 インチ、1/4 インチマイクロホン(オプション)である。主な特徴は次の通り。
1) 音圧フィードバック方式の採用による音響校正の信頼性の向上
2) 現場測定を考慮した音響校正器の遮音設計
3) JCSS (Japan Calibration Service System)校正証明書の標準添付によるトレーサビリティの証明
これらの特徴に関しては次章以降で詳細に紹介する。

3.音圧フィードバック方式採用による音響校正の信頼性の向上
 音響校正器の信頼性にとって重要な要素の一つは、どのようなマイクロホンに対しても一定の音圧レベルを発生することである。音響校正器は一般的に次の要因で発生音圧レベルが変化することがある。
1) 騒音計の自由音場型マイクロホンを音圧校正した場合に発生する差
2) マイクロホンが持つ等価容積に起因する発生音圧レベルの変動
1) は音響校正器を用いた校正では取り除くことが不可能な要因であるが、2) に関しては音響校正器の動作方式によって取り除くことが可能である。
 NC-75のブロック図を図3に示す。マイクロホンは等価容積という剛体空洞の体積で表される音響インピーダンスを持ち、等価容積はマイクロホンごとに異なる値を持つ。音響校正器にマイクロホンを挿入したとき、この等価容積に応じて音響校正器のカプラ内の容積が変化するため音圧レベルも変化する。例えばマイクロホンの等価容積が大きいほど、音圧レベルが低くなってしまう。
 従来製品NC-74では、マイクロホンの等価容積の影響を極力低減するための工夫として、音響校正器内の音響カプラの容積を大きくしている。これにより相対的にマイクロホンの等価容積は小さくなるため、カプラ内部の音圧レベルが変化しても、その変化は音響校正器の規格内になるようにしている。しかしこの方法では等価容積の影響を完全に取り除くことはできない。
 そこでNC-75では音圧フィードバック方式を採用することで、等価容積の影響を取り除いた。音圧フィードバック方式とは、音響カプラ内で発生している音を基準マイクロホンでモニタリングし、カプラ内の音圧レベルが規定の大きさになるよう調整する方式のことである。これにより等価容積が異なるマイクロホンを校正した場合でも、その容積に応じた音圧レベルの調整が行われるため、適切な音圧レベルの維持が可能になる。

図3 音圧フィードバック方式のブロック図

4.現場測定を考慮した音響校正器の遮音設計
 音響校正を測定現場で実施する際、音響校正は音響校正器の音を基準として校正するため、外部からの騒音の影響を受ける場合がある。そのため当社の取扱説明書では、音響校正の実施前に騒音の影響がないことを確認するよう記載している。具体的には音響校正器が音を発する前後での騒音計の音圧レベル指示値の差が20 dB 未満である場合には、音響校正は非推奨としている。NC-75では遮音性能を担保するための様々な工夫を適用している。
 実際にどの程度の遮音性能を持つのか確認するため、無響室にて音響校正器NC-75と、現在販売されている市販の音響校正器の遮音性能の測定を実施した。音源には ピンクノイズを使用し、A特性サウンドレベル遮音性能で評価を実施した。
 遮音性能の測定結果を表1に示す。遮音性能が高いほど外部からの騒音を遮断しやすい、すなわち音響校正が可能な測定現場の範囲が広いことを示す。NC-75、A社製、B社製を比較したところ、NC-75の遮音性能が最も高い結果となった。C社製の音響校正器は遮音性能が低いものの、発生音圧レベルが114 dB と、NC-75 の発生音圧レベル94 dBよりも20 dB高い製品仕様となっている。これにより相対的に騒音の影響が受けにくくなっているものの、C社製音響校正器の遮音性能に発生音圧レベル差を含めても32.8 dB となり、NC-75 のほうが高い遮音性能であることが示唆される。

表1 音響校正器の遮音性能の測定結果

音響校正器
遮音性能
(AP、A特性) [dB]
NC-75
34.8
A 社製
24.5
B 社製
28.8
C 社製
12.8
※ただし発生音圧レベル114 dB

5.JCSS 校正証明書の標準添付によるトレーサビリティの証明
 JCSS (Japan Calibration Service System) とは計量法に基づくトレーサビリティ制度の略称である。この制度 は、NITE(独立行政法人 製品評価技術基盤機構)が事業者に対して、品質システムの運用方法、校正方法、不確かさの見積、設備などを審査した上で、JCSS校正証明 書の発行が可能な校正事業者に認定をするものである。当社は「音響・超音波」「振動加速度」の区分において校正事業者に認定されており、国家計量標準とのトレーサ ビリティを証明するJCSS 校正証明書を発行できる。
 前述のとおり検則の改正に伴い音響校正のみが認められることとなり、騒音計にとっての基準になる音響校正器にはより高い品質が求められる。一例として、環境省 が発行している騒音に係る環境基準の測定・評価マニュアルでは、音響校正器の校正に用いるマイクロホンの標準器は、国家標準へのトレーサビリティが確保されてい ることを推奨している[3]
 従来、JCSS 校正証明書は希望するお客様のみに提供してきたが、NC-75 は製品全数に対してJCSS 校正証明書を付属する。これにより公的な第三者機関によって認 められたトレーサビリティ体系によって、国家標準に結びついていることが明確になる。さらに校正証明書には ilac-MRA マークを付しており、国際的にも通用するものとなっている。

6. その他の特徴
 前機種のNC-74と比較し、NC-75は現場測定を考慮した工夫が追加されている。音響校正器を現場で使用する際に誤って落下しないように、NC-75では落下防止を目的として、ストラップを付属している。また1/2 インチマイクロホンアダプタ部にはロック機構を追加することで、アダプタのぐらつきによる校正の不確かさを低減し ている。音響校正器を保護するソフトケースは現場ですぐに音響校正が可能なようにするため、図4で示すようにケースの蓋を開けるだけでマイクロホンを挿入できるようにした。

図4 ソフトケース、ストラップを装着した様子 (ケースの蓋を開けた状態)

7. 終わりに
 IEC 60942 : 2017 class 1(JIS C 1515 : 2004 クラス1)に適合する、公称音圧レベル94 dB、公称周波数1000 Hz の音響校正器NC-75の紹介をした。音圧フィードバック方式を採用したNC-75は音響校正の品質を向上させただけでなく、現場測定を考慮した音響校正器の遮音性能を 持っている。またJCSS 校正証明書を製品全数に添付することで、国家計量標準とのトレーサビリティを証明した。本製品を含め、当社は今後もより高品質な計測器の提供をしていく所存である。

8. 文献目録
[1] 関野武志, “騒音計に関する計量法の改正の概要”, Vol.39, No.6 (2015).
[2] 大屋正晴, “騒音計・振動レベル計に関する計量法の検則改正の解説”, 騒音制御, Vol.39, No.6 (2015).
[3] 環境省, “騒音に係る環境基準の評価マニュアル”, 平成27 年10 月.

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