2009/7
No.105
1. 巻頭言 2. 板ガラスの音響透過損失の測定 3. 風 鈴 4. 自動聴力検査システム
   

    <技術報告>
 自動聴力検査システム オージオメータAA-47/AA-47コントローラAB-31

リオン株式会社 計測器技術部  野 中 隆 司

1. はじめに
 企業健診や健診センター等で実施される聴力検査は、大学病院や開業医の耳鼻科で実施されている検査と異なるため、使用する機器にも特殊な機能や操作性が要求される。今般、企業健診や健診センター向けに、集団自動聴力検査システムの構築が可能なオージオメータAA-47、およびAA-47の動作を外部から制御するコントローラAB-31を開発したので、その概要と特徴を報告する【図1】。

図1 AA-47およびAB-31

2. 製品の概要
 AA-47は、オージオメータのJIS規格であるJIS T1201-1:2000のタイプ4に適合したオージオメータであり、単体でも聴力検査を行うことが可能である。ただし、基本的にはAB-31と組み合わせて、集団自動聴力検査を行うことを意図した製品である。
 一方、AB-31は市販のパソコンにAA-47を制御する専用ソフトをインストールした製品である。AA-47とAB-31の接続にはLANを使用し、スイッチングハブを介して1台のAB-31で5台までのAA-47を制御することができる【図2】。

図2 設置例

 AA-47をAB-31と組み合わせて使用する場合、AA-47は検査士側ではなく被検者側に設置されることも多い。このため、聴力検査室のジャックパネル部に取り付けることが可能な構造となっている。この場合、AA-47は「オージオメータ」というよりも、集団聴力検査システムの「被検者端末」に近い役割を担う【図3】。

図3 AA-47を聴力検査室に取り付けた状態

 一般的な聴力検査の場合、検査士が検査周波数やレベルを切り替えながら音を提示し、被検者の応答を見て聴こえの程度を測定する。これに対し、AA-47とAB-31の組み合わせによる聴力検査システムでは、専門の検査士を必要とせず、一般的な聴力検査の手順を模擬したアルゴリズムに従って自動的に被検者の聴力を測定する。
 本システムで実施できる検査は、「(自動)選別検査」と「(自動)域値検査」である。
 選別検査は、ある一定の大きさの検査音を提示し、それが聴こえたか否かを判定する検査である。一般的な定期健康診断では主にこの検査が行われ、検査音が聴こえなかった被検者は「所見あり」と判定され、さらに詳しい検査を受ける等の手続きが取られる。
 域値検査は、耳鼻科等で行われる聴力検査と同様に、その被検者の聴こえの程度を数値(聴力レベル)で求める検査である。企業健診や健診センター等で域値検査が実施される場合、その目的は施設ごとに異なると考えられるが、例えば、前述の選別検査で「所見あり」と判定された被検者について、引き続き簡易的に聴力レベルを測定するような使われ方も想定される。
 選別検査、域値検査とも、検査の種類や周波数、マスキングのON/OFF等の検査条件を、あらかじめAB-31からAA-47に対して設定する。各AA-47に対して、検査条件を個別に設定することが可能である。また、すべてのAA-47を同じ検査条件に設定したい場合、1台のAA-47に対して設定した条件を他のAA-47に対してコピーすることも可能である。
 検査のスタート、ストップ、一時停止、再検査スタート、データクリアといった操作は、基本的にAB-31(検査士側)からコントロールする。検査中は、設定された検査条件に合わせ、AA-47のファームウエアに組み込まれた自動聴力検査のアルゴリズムに従って検査が進行する。検査中は、検査の進行状況や測定された結果が逐一AB-31へ送られる。検査が終了すると、AB-31に送られた検査データは、付属のサーマルプリンタでプリントアウトするか、またはRS-232-Cインタフェースによりホストコンピュータ等へ転送することが可能である。
 同時に複数の被検者の検査を行う集団自動聴力検査システムにおいて、各被検者の検査の進行状況や応答の様子などを一ヶ所で同時に確認できることは、非常に重要な機能となる。本システムでは、それらの情報が逐一AA-47からAB-31に送られるようになっており、AB-31のモニターでほぼリアルタイムに確認できるようになっている【図4】。

図4 AB-31の表示画面

 従来製品では、検査音の提示やそれに対する被検者の応答の様子を直接確認することができず、検査が正常に進行しているかどうかを知ることができなかった。本システムではその点を改良し、すべての被検者について検査音の提示と被検者応答をモニターできるようにした。検査の状況を常に確認できるようになったことにより、自動で測定された検査結果に対するユーザーの信頼度もさらに増すものと思われる。
 検査中、何らかの理由により被検者に対してメッセージを発信したり、あるいは被検者から検査士へ話しかけたりすることが必要な場合がある。このための機能として、本システムはトークオーバ(検査士→被検者)およびトークバック(被検者→検査士)の機能を備えている。検査士は、AB-31に付属されているスピーカボックスに接続したトークオーバ用のマイク、被検者はAA-47本体に内蔵されたトークバック用のマイクを使って通話する。それぞれの音声信号の通信には、AA-47とAB-31間のデータ通信用のLANではなく、専用のアナログ回線を採用している。
 本システムは検査士や専属の検査担当者を全く必要としない、いわゆる「無人検査」にも対応している。この場合、各被検者は聴力検査室に入室した後、各自に割り振られたID番号をカードリーダ、またはAA-47のテンキーから入力し、検査をスタートさせる。検査が終了すると、検査終了と検査室からの退出を促すメッセージが流れ、AB-31へ検査データが転送された後、自動的に次の被検者の検査開始前状態に設定される。

3. 製品開発のポイント
 AA-47ならびにAB-31の開発にあたって最も重視したのは、従来製品に対してお客様から寄せられた様々な要望を、いかに反映させるかという点であった。選別検査にしても域値検査にしても、検査自体は極めて一般的かつ基本的なものであり、検査手順についても「選別聴力検査法」(日本耳鼻咽喉科学会)や「聴覚検査法」(日本聴覚医学会)等に定められている。ただし、企業健診や健診センターで実施される集団聴力検査システムの場合、“使い勝手”という面では施設ごとに多様な機能や仕様が求められる。前述の「検査音の提示と被検者応答のモニター機能」のほか、以下のような点についてお客様からの要望を盛り込んだ。
 ・検査条件の複数メモリー【図5】
 ・検査条件の切り替え操作の簡略化
 ・手動による再検査機能の追加
 ・文字および音声によるメッセージ内容の切り替え
 ・コントローラ(AB-31)側の視認性の向上  等々

図5 AB-31の検査条件設定画面

4. おわりに
 ここで紹介したAA-47とAB-31による集団自動聴力検査システムが、企業健診や健診センター等の現場で広く使用され、信頼できる製品としてお客様に認めていただけることを願っている。本製品の開発において、「お客様の声を製品に反映する」という点を最も重視したわけであるが、当然のことながら本製品に対しても、お客様から様々なご意見や要望等をいただくことになると思われる。今後も、お客様の声を聞くという姿勢を忘れず、より良い製品の開発に努めたいと思う。

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