2009/7
No.105
1. 巻頭言 2. 板ガラスの音響透過損失の測定 3. 風 鈴 4. 自動聴力検査システム
   

    <研究紹介>
 板ガラスの音響透過損失の測定

建築音響研究室 室長  吉 村 純 一

まえがき
 実験室におけるガラスの音響透過損失の測定を検討した多くの論文において、「誰もが同質の試験体を入手可能な板ガラスの遮音性能が、斯くも様々な結果として報告されるものか」と、測定結果に与える要因の多さが説かれている。板ガラスの遮音性能の測定では、ガラスの固定条件、試料寸法の差異などが結果に大きく影響することが知られている。このような背景から、2000年にISOに整合化されて改定されたJIS A 1416では、ガラスの測定条件が厳密に規定されている。しかし、実際の施工条件における遮音性能は不確定な要因の影響を受け、実験室の評価結果と異なることが少なくない。
 この要因を究明するため、サイズの異なる板ガラスの遮音性能に関する検討を「ディメンジョンスタディ」と称し、サイズの変化による様々な影響を検討1, 2)した。

1.試料寸法及び開口部調整壁
 試験対象には表1に示す7種類の板ガラスを選定し、表2に示す約0.9〜6 m2の6種類の開口部調整壁を製作した。図1に開口部調整壁の断面図の例を示す。

 
表1 試験対象ガラス構成
ガラス品種
厚さ (mm)
面密度 (kg/m2)
FL6
6
15
FL10
10
25
FL15
15
37.5
FL5+FL5 (PVB)
10
25
FL5+FL5 (遮音PVB)
10
25
FL4+A12+FL6
22
25
FL8+A12+FL8
28
40
FL: フロートガラス L: 合わせガラス A: 空気層

図1 開口部調整壁の断面図の例
表2 試料寸法
開口形式の略称
開口サイズ
開口総厚
(mm)
試料面積 (m2)
幅 (mm)
高さ(mm)
TOIS
1250
1500
420
1.875
TOFG
1250
1500
270
1.875
TOSW
930
930
270
0.865
TOR1
930
2150
270
2.000
TOMW
1600
2250
270
3.600
TOLW
3000
2000
270
6.000
試験開口には四周に10 mmずつのクリアランスを設けるためガラスサイズは幅、高さ共に20 mm小さい

2.試料の取付け条件
 実験室における試料の設置方法は、図2(a)に示すように、JIS A 1416: 2000の『5.2.2.3ガラスの設置』及び附属書2「ガラス測定用試験開口及びガラス固定用パテ」に規定される方法によることが多い。
 実際の現場ではシリコーンシーリングを固定材とした取付け方法がしばしば用いられる。そこで図2(b)に示すように、バックアップ材を介して、幅5 mm厚さ3〜5 mmのシリコーンシーリング材を充填する方法により、現場の取付けを模した設置方法により測定した。
図2 ガラスの設置方法
a: 実験室での設置方法
b: シリコーンシーリング材による実際の取付け方法を模した設置方法

3.音響透過損失の測定
 音響透過損失の測定には、JIS A 1416に規定されるタイプII試験室(室容積: 56.7 m3, 51.4 m3,試験開口3.65 m (w)×2.74 m (h))を用い、両室間に設置するカートリッジに開口部調整壁を設置した。音響透過損失の測定はJIS A 1416に規定される方法に準拠した。

4.総合損失係数の測定
 試料端部でのエネルギーロスを調べるために、板ガラスを開口部に取付けた状態で、図3に示す測定システムを用いて試料の総合損失係数 ηtotal を測定した。
 試料を硬質のゴムボールによって衝撃加振した際のガラス面に生じる振動の減衰過程を記録し、系の残響時間 TR を算出し、図中に示す式により総合損失係数を求めた。使用したデジタルフィルタの過渡応答により、1/3オクターブバンドでは概ね損失係数 η=0.15、オクターブバンドでは η=0.3 が計測限界である。総合損失係数 ηtotal は、試料の内部損失 ηint、放射損失 ηrad 及び端部の損失 ηbound の和として表される。

図3 試料の総合損失係数の測定システム

5.測定結果
5.1 試料寸法の影響
 大きい試料寸法で測定した場合に、各ガラスのコインシデンス周波数 fc 以上の周波数帯域で低めの値となるが、サイズの差による透過損失の変化は比較的少ない。測定結果を単一数値評価指標(Rw)によって評価し、試料面積との相関を求め図4に示す。いずれのガラス構成においても、面積の比が2倍以下であれば、Rwで評価した結果に3 dBを越える差は生じないことが確認された。

図4 4 試料面積と単一数値評価指標
各図中の波線は線形回帰直線を、また点線は試料面積が2倍で−3 dBとなる曲線を、TOFGを通る様に示した

5.2 支持条件の影響
 図2(a)及び(b)による支持条件における音響透過損失の測定結果を比較して図5, 6に示す。単板ガラスではコインシデンス周波数領域で大きな差を生じ、単位面積当たりの周辺長が短くなる小さい試料ほど試料の周端でのエネルギー損失の影響が大きいことを示している。
 合わせガラスは試料周端でのエネルギー損失に比べ内部損失が大きいため、支持条件による影響をほとんど受けない。複層ガラスはそれぞれのガラス厚が薄いため、遮音性能の高い高周波数帯域にコインシデンス周波数領域が生じており、二枚のガラスを固定する封着材のエネルギー損失の影響により、その落ち込みも比較的少ない。

図5 単板ガラスの支持条件の違いによる比較

図6 合わせガラス及び複層ガラスの支持条件の違いによる比較

5.3 試料の周端における吸収係数
 単板ガラスについて、4.に記した総合損失係数の測定結果を用い、試料の内部損失 ηint 及び放射損失 ηrad を端部の損失 ηbound より遙かに小さいとし、周端での吸収係数 α(Boundary absorption coefficient) を求め図7に示す。なお、端部の損失 ηbound と吸収係数は下式の関係にある3)

 ここに S は板の面積(m2)、c0 は音速(m/s)、 lk,αk はそれぞれ k 番目の周辺長(m)、吸収係数である。1000 Hz以上のコインシデンス周波数領域において、図2(a)の支持条件より(b)の方が遙かに低い値を示している。これを用いて異なる厚さ、大きさであっても、図5の音響透過損失の低下量を説明できる。

図7 総合損失係数の測定結果から算出した吸収係数の例

まとめ
 試料寸法が遮音性能に与える影響は、さほど大きくなく、むしろコインシデンス周波数領域で遮音性能が低下する要因(図5,6参照)は、試料の支持条件の影響が大きい。実際の施工条件での周端の損失の確保が重要である。

参考文献
[1] 吉村 純一,杉江 聡,豊田 恵美,「板ガラスの音響透過 損失の測定結果に与えるサイズ及び端部損失の影響」,日本音響学会建築音響研究会資料,AA2006-30.
[2] 吉村 純一,杉江 聡,豊田 恵美,「板ガラスの音響透過 損失の測定結果に与える周辺支持の影響」,日本音響学会 建築音響研究会資料,AA2007-30.
[3] L. Beranek, “Structure Damping,” Chap. 14 in Noise and Vibration Control Engineering Principles and Applications, edited by Leo L. Beranek and Istvan L. Ver (Wiley, New York, 2006).

 

 

 

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