2006/1
No.911. 謹んで新年のお慶びを申し上げます 3. 1st ISMA参加および Technical University of Liberec 訪問報告 4. レイリー板の復元 5. 4chデータレコーダ DA-20 <会議報告>
1st ISMA参加および Technical University of Liberec 訪問報告圧電応用研究室 児 玉 秀 和
1.会議報告
近年、Dr. W. K. Wilkie(NASA)らにより圧電性セラミックスファイバを2枚のプラスチックシートで挟んだシート状コンポジット(MFC)が開発された。このシートは曲げ応力に対する柔軟性を持ち、面に平行に分極が形成されているため面内伸縮に対して大きな圧電応答を生じる。後にこのシートは、Dr. T. Daue(Smart Material社)により製品化された。当研究所主催のピエゾサロンではこの材料を2度取り上げている。
このユニークな材料の応用に関する会議、“1st International Symposium on Macro Fiber Composite Application (ISMA)”がFraunhofer IKTS、NASAおよびSmart Material社により9月27日および28日の2日間、ドイツのドレスデンにあるVolkswagen, the glass Manufactureで開かれた。
参加者数93名、展示企業数14社そして発表件数は19件であった。参加者の所属する企業は地元のFraunhofer IKTSが最も多く、続いてNASA, Smart Material, Volkswagenの順に多い。日本人は私とSmart Material社日本法人の愛川氏だけであった。本会議ではアクチュエータおよびセンサ、振動減衰と音響及び形状制御、電気の4分野について研究発表が行われた。
図1 会議場 Volkswagen, the glass manufacture 図2 ISMA 会議場 我々は“A sound shielding control by a macro fiber composite sheet connected with a negative capacitance circuit”というタイトルで研究発表を行った。ここでは圧電共鳴法による電気機械結合係数kの評価とレーザードップラ計による音響加振の制御評価を報告した。発表内容の一部を紹介する。
図3にMFCの複素容量(C*= C’− iC”)の周波数特性を示す。20kHzにスパイク状の圧電共鳴が見られ、それ以下の周波数ではポリマーに起因する誘電応答を示す。測定データを計算式により再現し、結合係数k = 0.48を得た。
図3 MFC の圧電共鳴の一例 図4に、負性容量回路による湾曲MFCの振動制御を示す。周波数帯域40〜230Hzで振動速度を1/20(26dB)減衰させることが出来た。
本会議では、人工衛星や航空機などの航空宇宙分野の大型構造物の振動制御およびヘルス(劣化)モニタに関連する研究発表が活発に行われたことが印象深い。その他、基礎研究として、歪み−電圧曲線の解析、絶縁破壊試験、耐水性試験などが報告された。またMFCの圧電気によるエナジーハーベスティング技術に関する発表も幾つか行われた。
図4 負性容量回路による制御の一例 最終日には、パネルディスカッションが行われた。MFCのアプリケーションを開発するにあたり、高電圧と回路、動作温度範囲及び周波数範囲、環境対策が主たる課題として挙げられた。MFCは従来に比べて圧電性が大きなコンポジット材料であるが、エネルギーの大きな機械振動を、航空宇宙という過酷な環境の下で制御することが求められているだけに解決すべき課題は多い。
2.共同研究報告
学会参加の後、9月29日から10月7日にかけて、チェコ共和国リベレッツにあるリベレッツ工科大学を訪問した。リベレッツはチェコ北部のドイツとポーランドの国境に近い工業都市である。デンソーの工場があるため日本人は多い。昔から織物工業が盛んであり、大学にはTextile学部が設けられている。ここでは高分子繊維に関する研究が盛んに行われている。機械、建築、経済といった学部もあるが、最近ではMechatronics and Interdisciplinary Engineering Studiesという境界領域を専門に扱う学部が設立された。この学部には2000年より2年間、当研究所に在籍したDr. Mokryが所属している。
図5 Technical University of Liberec 筆者は、Dr.Mokry等と負性容量回路の自動化および圧電セラミックスと組み合わせた振動制御に関する研究を進めている。今回は筆者が作成した負性容量回路をDr. Mokryの研究室に持ち込み、回路説明、動作確認実験及び振動制御の予備実験を行った。
また筆者は、学部設立10周年記念講演として、“A study of ferroelectricity and structure on Vinylidene Fluoride copolymers”というタイトルで、圧電高分子の構造と物性の関係を紹介する機会を与えて頂いた。これは筆者が東京理科大学の古川研究室に在籍していたときに行われた研究である。またPh. D. 学生を対象として、先に述べたISMA会議で発表した負性容量回路によるMFCの音響特性の電気的制御について、補足説明を交えて講義する機会も与えて頂いた。
図6 Dr. Mokry の研究室にて 3.おわりに
1st ISMA参加およびリベレッツ工科大学訪問では多くの方々に大変お世話になった。ドレスデンでは、Prof. Shoenecker (Fraunhofer IKTS), Dr. KunzmannとMirs Heppt (Smart Material社)の計らいで施設見学の機会を頂いた。リベレッツではDr. Mokryご夫妻をはじめとして、Ph. D. 学生のSuruka氏には大変親切にして頂いた。A. Richter教授、J. Erhart教授、D. Lukas教授およびO. Jirsak副学長にはご多忙中にもかかわらず、格別な取り計らいをして頂いた。ここに厚く御礼を申し上げたい。