1993/10
No.42
1. 文化会館ホールと騒音 2. 閑話九題 3. 骨董品展示室の開設 4. ドライプロセス用
パーティクルカウンタ
  
 骨董品展示室の開設

所 長 山 下 充 康

 蔵書の整理のさいに書庫の奥から発見された名著、ヘルムホルツが1862年に刊行した「音感覚」をこのニュースの誌上で紹介したのが1987年(昭和62年)の新年だった。それがきっかけになって、音響研究に関連する旧い計測機器などを手に入れては「骨童品シリーズ」で紹介しているうちに、いつの間にか相当数のアイテムが集まってしまった。

 研究室の片隅や備品倉庫の棚では挨を被っていたこれらの機器類ではあるが、クリーンアップすると実に見事な風格を見せてくれる。昔の教科書や参考書でしか見たことのない実験機具や伝説的な音響分析装置など、丁寧に使い込まれた痕跡が残るこれらの骨董品は先輩諸兄からの貴重な遺産である。これらを無造作に保管しておくとただのガラクタとして捨てられてしまう危険性がなきにしもあらず。うす汚れて今では実用に供し得るような代物ではないが、現代の計測機器では見ることのできない見事な工夫や仕掛けに驚嘆させられる。

 これらの名器を大切に残したい、そんな思いから研究室の一つをこれらの骨董品の展示室に供することにした。

 研究所本館の階段を二階へ昇ると正面が理事長室で、その左隣の部屋が展示室である。窓面を除く壁に沿って大きなガラスケースを並べて、その中に展示品を収めた。

 このニュースで紹介させていただいた機器類はもとより、数々の骨董品が整然と展示されている。音響に直接的な関係が薄いけれど、実験に不可欠だった機器類。例えば大小のカメラ、木製の乾板フィルムマガジン、8m/mカメラ、沢山のレポ−トを書き上げたであろうタイプライター、竹製の計算尺や手回し式計算機、波形記録機の電磁式オッシロ、ポータブル蓄音機、初期のテープレコーダ、機械式のペンレコーダ、……。

 有難いもので、このニュース誌上に連載してきた[骨董品シリーズ]を読まれた方がご自分の手元にこんな物があったのでと言って珍品を寄贈して下さることも少なくない。それらの品々も展示させていただいている。

 いつの頃からか、旅先で買い求めたと思われる音の出る各国の民芸玩具が、厳めしく冷たい感じのする機械類に混ざって置かれ始めた。

 骨董品の展示室は応接室や会議室への通り道に位置している。誰かが展示室の入り口に

 [みにみに博物館 おとのどうぐたち]

と書かれた可愛らしい木の看板をぶら下げてくれた。

 「展示物に手を蝕れないで下さい」などとヤボは申し上げません。機会があればぜひお立ち寄りいただき、古の名器たちに触れたり音を聞いたりしていただきたく存じます。

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