1990/7
No.291. 残響室・拡散音場・吸音率 2. HENRICIの回転ガラス球式波形解析器 3. 小型グローエンジンを用いたフィールド実験用点音源の試作 4. 音響インテンシティローブ SI-31
残響室・拡散音場・吸音率所 長 山 下 充 康
小林理学研究所の諸設備の中で、残響室は見学者に最も人気のある実験室である。とくに第一残響室は国内における初めての本格的な残響室として昭和30年に建設されて以来、その後いくつかの音響関係諸機関に設置された不整形残響室のモデルとされてきた。
513m3の容積を持つ第一残響室は主に残響室法吸音率の測定に供され、ここで得られた音響材料の吸音率データは膨大な数に及ぶ。残響室法吸音率の測定方法についての規格、JIS A 1409-1967の制定に当たっては貴重な資料を提供すると共に、ロックウール吸音材のJIS A 6303-1966、グラスウール吸音材のJIS A 6306-1967等の諸規格の制定に際しても、この残響室で測定されたデータが基礎資料として多数使用された。
従来、上記JISに従って残響室法吸音率の計測を実施してきているが、近年の社会的情勢は国際的規格への対応が要求され、その準備が急がれている。残響室法吸音率測定に関する国際規格である、ISO 354が1985年に制定され、今年は5年毎の見直しの年に当たっている。このISOに準拠するには、試験体の面積が残響室の容積によって規定されることから、第一残響室ではJISに基づく10m2から16m2としなければならない。
残響室法吸音率測定の前提は、定常状態並びに過渡状態における十分な拡散音場である。残響室での拡散性が十分に実現されているか否かについては、観測される残響曲線の形、残響時間の空間的分布の均一性、反復安定性を確認するとともに、空間相関技法やインパルス積分法、インテンシティ技法など、ここ数年の新しい音響計測技術を応用して、第一残響室の拡散性を再検討してきた。その結果、従来よりも広い16m2の吸音材料を設置しても、なお十分な拡散性を確保するためには、静止拡散板を適切な位置に設置することで対処するのが好ましいと判断した。現在、拡散板の材質や形状、設置位置などについて具体的な検討を進めている。
この結果に基づいて、小林理学研究所としては今後ISOにも準拠した、より信頼性の高いデータを提供することとしたい。
なお、吸音率の大きい材料については、面積効果に起因して算出結果が1を越えてしまうことが知られている。小林理学研究所が発行する試験成績書では、従来面積効果の詳細な検討に基づいた独自の補正を行ってきた。しかし、試料面積および設置位置の変更に伴い、この補正値は適用できなくなることから、表示方法の変更も予定している。
残響室法吸音率測定方法、表示方法の変更事項や実施時期についての詳細は、小林理研ニュース、その他でお知らせします。