2026/7
No.173
1. 巻頭言 2. 低周波音の体験装置 3. 流体力学式液中粒子計数器 PT-01F

      <技術報告>
  流体力学式液中粒子計数器 PT-01F


リオン株式会社 微粒子計測器事業部 開発部 先端技術開発課   田 渕  拓 哉

1.はじめに
 近年、半導体製造工程における超純水や薬液ラインの粒子管理では、歩留まりや稼働率の向上を図る際に、液体中の微粒子の大きさや個数の情報だけでなく、例えば気泡やフッ素樹脂、金属などの組成情報を知ることが欠陥や生産装置不具合の原因追究・改善の近道となる場合があり、市場からの要望が高まっている。
 当社では流れ場粒子追跡法(Flow Particle Tracking:FPT)を用いた「流れ場中における粒子の物性推定手法」を基に、世界初※ 1となる「流体力学式液中粒子計数器PT-01F(製品型式:PT-01FA2)」を2026 年4 月に発売したので、製品の特長や用いられる技術についてここに紹介する。
※ 1 流れ場における粒子の物性推定を可能とする製品として(2026 年3 月末現在/ リオン調べ)

2. 製品の概要
 本製品は、これまでリオンが蓄積してきた光散乱技術を基盤とし、新たに開発したFPT 法を用いることで、流れ場中での微粒子の大きさや個数、屈折率の計測を実現する。また、FPT 法によって得られる粒径は幾何学的寸法に近いものであることも大きな特徴であり、光散乱相当径による粒子個数濃度分布を測定する従来の光散乱式液中パーティクルカウンタ(LPC)を進化させた新しいコンセプトの微粒子計測装置である。
 表1にPT-01FA2 の主な製品仕様を、図1に外観を示す。
 本製品は主要な測定モードであるDC モード(拡散係数相当径+屈折率を求める)に加え、従来の測定原理を用いて光散乱相当径を求めるLS モードを備える。測定場面に応じて使い分けることが可能。

表1 PT-01FA2 の主な仕様
図1 PT-01FA2 の外観

3. 測定原理
 FPT 法を用いた粒子測定原理について解説する。
 図2に示す通り、センサ部は従来のLPC とほぼ同じでレンズ群を用いて整形したビームを、フローセルを流れる試料に照射し散乱光をディテクタに集光し観測する構成となっている。LPC はディテクタにフォトダイオードを採用しているが、本製品では粒子位置の詳細な座標の情報を得る必要があることから高画素イメージセンサを用いている点が異なる。

図2 センサ部構成

3.1. 拡散係数相当径の測定
 リアルタイムに測定することで得られる粒子のブラウン運動による移動量から 式(1)に示す拡散係数を求め、式(2)に示すStokes - Einstein の式によって粒径を算出する1)。LPC で用いる光散乱相当径と比較して、粒子の物性(密度、屈折率)に依存しないため幾何学的寸法に近い粒径を得ることが可能である。

 図3にセンシング領域における粒子の挙動を模式的に示す。粒子はブラウン運動しながら液体の流れに乗って移動する。
 ディテクタ側から粒子の挙動を観測することで液体の流れ成分を除外したブラウン運動量の情報を得ることが可能である。図4にディテクタ側から見たブラウン運動の様子について模式的に示す。
 拡散係数相当径は粒子の移動距離(a,b,c,d)の平均二乗変位(L)、変位時間間隔(t)から粒子の拡散係数(D)求め、液体の温度(T)、粘度(η)の情報から拡散係数相当径(DP)を求める。

図3 センシング領域における粒子の挙動(模式図)
図4 ブラウン運動の様子(模式図)

3.2. 屈折率の算出
 本製品のもう一つの特徴である屈折率は、レイリーの散乱式を逆展開することで求められる。あらかじめ屈折率が既知の標準粒子(ポリスチレンラテックス粒子:屈折率1.59、以下PSL 粒子)にて粒子の散乱光強度と粒径の関係を校正しておき、得られた拡散係数相当径、粒子の散乱光強度、溶媒の屈折率から粒子の屈折率を求めることができる。PSL 粒子の測定例(屈折率マップ)を図5に示す。
 横軸は粒径、縦軸は屈折率を示している。溶媒の屈折率にあたる部分は紫色の線で表現され、粒子の頻度に応じて色分けされるようになっている。
 計算で求めることが出来るのは相対屈折率(溶媒の屈折率と粒子の屈折率の比)であるため、粒子の屈折率の解は二つ得られる。このため屈折率マップは溶媒の屈折率を境にほぼ上下対象の形状となる。このグラフより粒子の物性を推定するが、解のどちらを正とするかは、試料中に含まれる可能性のある物質(生産プロセスに由来する物質)を基に、ユーザが推定する。

図5 測定例(屈折率マップ)

4.測定事例
プロトタイプ器による、組成の異なる粒子を評価した結果を下記に紹介する。測定に用いたのは純水中に分散させたPSL、コロイダルシリカ(SiO2)、金コロイド(Au)の試験用粒子で、粒径はそれぞれ55 nm、70 nm、20 nm である。測定結果を図6に示す。この組み合わせは粒子の屈折率の違いから得られる散乱光量がほぼ同じになる条件となっており、LPC(純水中のPSL 粒子で校正)で測定すると粒径の弁別が困難である(すべて55 nm 付近の粒径として算出される)。
 一方、拡散係数相当径の中央値はそれぞれ、PSL 粒子が約57.7 nm、SiO2 粒子が約75.9 nm、Au 粒子が約20.1 nm となり、FPT 法を用いた装置では異なる粒径として測定することができていることがわかる。

図6 拡散係数相当径による粒径識別

5.製品開発の背景
 本製品に用いているFPT 法による粒子計測技術の一部は、国立研究開発法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の委託業務である超先端材料超高速開発基盤技術プロジェクト/ 先端ナノ計測評価技術開発、ならびに国立研究開発法人 産業技術総合研究所、キオクシア株式会社、リオン株式会社の共同研究よって得られた成果である。その後、国内でフィールド評価を行い、製品化に至っている。

6.おわりに
 幾何学的寸法に近い粒子径や物性情報の把握は半導体業界の注目も高く、これらの情報をインラインでリアルタイム測定を可能にすることで異常の早期検出が可能となる。
 研究で得られた成果をISSM ※ 2 2018 で共同発表した論文「流れ場中の個体粒子の幾何径および物性情報が得られる計測装置」2) がBest Paper Award を受賞したことからも業界の注目の高さがうかがえる。また、先行して実施したフィールド評価からも本装置に期待する声を多くいただいている。
 FPT 法による粒子計測技術は取組み始めて日が浅く改善点も多いが、ユーザ要望に耳を傾けながら産業界に貢献できる製品を開発していく。
※ 2 International Symposium on Semiconductor Manufacturing

参考文献
1) “Nanoparticle Size Determination Using Flow Particle-Tracking,” Anal. Chem., 2018, 90, 4182–4187.
2) YE-O-68 : Takuya Tabuchi : Real Time Measurement of Exact Size and Refractive Index of Particles in Liquid by Flow Particle Tracking Method

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