2026/4
No.1721. 巻頭言 2. 6th Joint Meeting ASA and ASJ報告 3. 強震計測装置 SM-31/ 地震警報記録装置 SM-48
良識ある研究者の育成
所 長 廣 江 正 明「千里の馬は常に有れども伯楽は常には有らず」。唐の時代の文人である韓愈が書いた「雑説」の冒頭の一節で、「優れた才能の持ち主(名馬)も、それを見抜く人(伯楽)がいなければ、活躍できない」という意味です。韓愈は「雑説」の中で名馬と伯楽の関係になぞらえ、為政者(当時の権力者)に対して、優れた才能の人材を発掘し、適切に育成して登用することの重要性を訴えています。
さて、活躍といえば、第25 回オリンピック冬季競技大会(2026 /ミラノ・コルティナ)における日本人選手らの素晴らしい活躍が記憶に新しいところです。今大会は、日本が冬季オリンピックに参加した第2回大会(1928 年)以降で最も多くの日本選手が表彰台に立つ大会となりました。オリンピック選手のように高い能力を持つアスリート(名馬)も、その才能を見出し、彼らの能力を最大限に引き出す指導者(伯楽)の存在が重要だといえます。例えば、フィギュアスケートのペアが日本人として初めて表彰台の一番高い場所に立った出来事は、その劇的な逆転劇から国内外の多くのメディアで取り上げられましたが、その偉業の背景には、彼ら自身の努力に加え、2人の才能を見抜き、結び付け、育て上げた指導者の存在があります。加えて、トレーニング等の練習環境の整備や選手らに対するサポート体制の充実など、適切な育成環境が提供されてきたことが活躍に繋がった要因の一つでしょう。スポーツ領域における優れたアスリートの発掘とその継続的な育成が少しずつ形となり、幾つもの華が咲き始めているようです。
ところで、理工系分野においても優れた才能をもつ人材の発掘と継続的な育成が喫緊の課題であり、科学技術を担う人材育成の一環として博士人材育成の取組みが始まっています。明治期以降、日本は科学技術を原動力に成長してきましたが、自国優先主義の台頭と技術覇権競争の激化が進む昨今、社会課題は多様な要素が絡み合った複雑な問題となり、単純な問題解決はもはや困難となっています。そのため、複雑化した社会問題に挑み解決へと導く高度な専門知識や課題解決能力を有する博士人材(名馬)の育成が不可欠なのです。
これまで小林理研が携わってきた騒音・振動を中心とした基礎及び応用研究の社会課題への適用も、技術的側面からの視点だけでなく、社会音響学的な視点も持ちながら、実行していく時代だといえます。社会情勢に適応できる優れた人材の育成は一朝一夕にはできません。それぞれの研究者の適性を見極めながら、継続的な育成環境(研究支援)と実社会での活躍の場を提供し続けることが肝要ではないでしょうか。
世に埋もれた名馬を見抜く眼力をもった「伯楽」とまではいきませんが、「馬」のように広い視野と遠くの音を聴き分ける聴力で、未来の小林理研を支えていく良識ある研究者の育成に最善を尽くしたいと思います。