2026/1
No.171
1. 巻頭言 2. ISE 20 参加報告 3. オージオメータ AA-H2

 
  名馬ブケパラスとAI


  理事長  山 本  貢 平

 新年あけましておめでとうございます。本年も引き続きどうぞよろしくお願いいたします。

 さて、今年の干支は「午(うま)」です。馬は古来より、人と共に駆け、運び、戦い、文化を築いてきた存在です。現代風に言えば、ZEV(Zero Emission Vehicle)でもあり環境にやさしいモビリティでもあります。そのモビリティは中央アジアの遊牧民たちにとって遠方との交通や交易に有用でした。また、戦闘や遠征にも使われました。このため、実り豊かな季節になると「天高く馬肥ゆる秋」という有名な言葉が使われますが、これは騎馬民族が馬を肥やして南下し、攻めて来ることを警戒した言葉といわれています。チンギスハーンが、中央アジア全域を短期間に支配できたのも、馬の機動力によると考えられます。馬(午)の年には機動力を発揮して難関を駆け抜けたいものです。

 ところで、馬には一見おとなしそうに見えても、扱いの難しい荒馬もいます。紀元前、若きアレクサンドロスが伝説の名馬ブケパラスを乗りこなした逸話は有名です(プルタルコス、アレクサンドロス伝)。彼は、誰もが手を焼いたその荒馬が、地面に写る自分の影を怖れていたことに気づきました。そこで馬の視線を太陽の方に向かせることで落ち着かせ、見事に乗りこなしました。観察と洞察、恐れずに向き合う勇気が世界を変える第一歩となりました。

 現代において、私たちが向き合う「名馬ブケパラス」は、進化したAI かもしれません。その力は人間が生み出した人工物であるにも拘わらず、影響力は計り知れません。時にそれは制御困難になるように思えます。間違った使い方をすると詐欺や犯罪を仕掛けてくるかもしれません。一方、正しい使い方をすれば強い味方になるでしょう。現在音響の世界において、AI は音声認識、環境音解析、聴覚支援、空間音響設計など多くの分野で私たちの研究を加速させています。その使い方には未知な面もありますが便利な機器(代替)として使われています。一方、生成AI の方はどのような言語で話しかけても内容を理解し、情報提供・文章作成・プログラミング・アイデア出しなど「考える仕事」を手伝ってくれます。さらに進化したものは、ロボットや自動車等に搭載されて、人間の五感に相当するセンサーから外部情報を採取・分析し、最適解を求めて身体に相当する外部機械を制御・操縦することも実現しています。人間のように記憶を忘れることがないので、無限に近い情報量を使って未来の予測を的確に行ってくれるでしょう。研究が進めば人間の感性情報(感情や主観)処理もできるようになり、Mike-AI やJulie-AI といった個性を持った友人の創出が可能です。時代を超えて過去の偉人-AI たちと会話できる日が来るかもしれません。

 2026 年は、「名馬ブケパラス」の本性と限界を理解して、それとの協働をさらに進化させ、人の安全と心の幸せを産み出すクリエイティブな研究を楽しむ年となることを願っています。

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