2026/4
No.1721. 巻頭言 2. 6th Joint Meeting ASA and ASJ報告 3. 強震計測装置 SM-31/ 地震警報記録装置 SM-48
<会議報告>
6th Joint Meeting ASA and ASJ 報告
杉 江 聡、横 山 栄、
岩 永 景 一 郎、新 田 龍 馬、牧 野 裕 介第6回日米音響学会ジョイントミーティング(以下、ジョイントミーティング)が、2025 年12 月1日(月)から5日(金)までの5日間にわたって、米国ハワイ州ホノルルにあるHilton Hawaiian Village Waikiki Beach Resort で開催された。なお、このジョイントミーティングは、第189 回米国音響学会研究発表会とも位置づけられている。小林理研からは、杉江、横山、岩永、新田、牧野(裕)の5名が参加した。この内の何人かは発表だけではなく、セッションオーガナイザや座長も務めた。
ジョイントミーティングは、第1回が1978 年に始まり、1988 年、1996 年、2006 年、2016 年と約10 年毎にハワイにて開催されている。日本からの発表数は、第1回では187 件、第4回では505 件(全発表数1616 件)、第5回では602 件(同2050 件)と回を追うごとに増加している。今回の全発表数は、プログラムによれば1700 件以上と書かれており、第5回に迫る発表数であった。日本からの参加者数は、正確な数値はわからないが、私の印象では全参加者の4割程度ではなかっただろうか。
スペシャルセッションは、15 分野において71 のテーマが挙げられ、驚くほどの多さである。従って、8時前から始まり、終わるのが18 時近くまでという1日をかけての非常に長いセッションもあった。ハワイの日の出は東京の冬と似ていて、この時期は7時少し前であり、暗いうちに起床し、早朝の匂いを満喫しつつ会場に向かい、セッションが終わり会場を出る頃には外はすでに薄暗いという毎日であった。発表会場は、数十人程度の小さな部屋もあれば、100 名以上を収容できる大きな部屋もあった。やはり、マイクを使わずに話せる程度の大きさの方が、発表、特に質疑はしやすいと感じる。慣れない英語が聞き取りやすいだけではなく、質問者の表情や気持ちも感じやすく応答しやすい。
質疑を含めた発表時間は、招待講演が20 分、一般講演が15 分であり、会場間での時間同期はされておらず、聴講しようと思っていた発表の時間をうっかり間違えることもあった。発表時間と質疑の時間配分も国内のように厳密に管理されてはいなかった。しかし、私の聴講した中で質疑がないという発表はほとんどなかった。発表会場の雰囲気も、国内の研発に比べると活発で、研究計画だけの発表であっても、活発な質疑が交わされていた。午後の最初のセッションでは、お昼をとりながら聴講している参加者もおり、米国らしい非常にフランクな雰囲気の中でセッションが進んでいった。
私は、建築音響のセッション「Recent Trends and Perspectives on the Use and Characterization of Acoustic Materials(音響材料の最近の傾向と展望)」のオーガナイザを、井上尚久先生、Melanie Nolan 先生及びNing Xiang 先生とともに仰せつかった。声かけが功を奏したのか、1日のスロットに入れるために他のセッションに移したものがあるほどで、27 件発表の大きなセッションとなった。米国音響学会のプログラム編成で驚いたのは、オーガナイザは講演申し込み終了日の翌日には発表順と希望の日時を事務局に伝えなければならないという点である。欧米と日本との時差があるので、調整にどうしてもタイムラグが生じてしまったのを覚えている。座長は、Nolan 先生が来られなかったため、午前中はNing Xiang 先生と井上先生が、午後は私と井上先生で担当した。井上先生には、1日中司会進行をして頂き感謝の言葉しかない。
ハワイでの時間は非日常にもかかわらず、毎朝つけるTV からは同じ渋滞情報と天気予報、外に出れば快晴の毎日、まるで周期信号のようにきっちりと繰り返される。このミスマッチが、なぜか心地よい5日間であった。
(理事/ 建築音響研究室長 杉江 聡)
図1 会場のHilton Hawaiian Village Waikiki Beach Resort
図2 発表会場と発表風景2025 年11 月末、冬の羽田空港を発って10 時間後、約20 年ぶりに常夏のホノルル空港に到着した。東京と同じように時間が流れているはずなのに、そこにはいつも日常の忙しさを一瞬で忘れさせるような独特な空気感がある。学会はダイヤモンドヘッドを臨むワイキキビーチに面した高級リゾートホテルで5日間にわたり開催された。
図3 ポスター発表会場今回は、ここ数年、日本でも欧米にならって積極的に取り組み始めた騒音職場における聴覚保護に関連して、日本における聴覚保護具のフィットテストのトレンド(Session: Hearing Protector Fit Testing)と、認定こども園における保育者の音響ばく露と聴力保護に対する意識調査(Session: Soundscapes and Community Noise)、また、共著で楽器演奏者の音響ばく露と難聴対策(Session: Perceptual Studies in Architectural Acoustics)について発表した。フィットテストのセッションは17件中15 件が米国側からの発表で、フィットテストの歴史、米軍における複数人同時フィットテストの試行、新たな方法の提案、規格化の動向など、内容は多岐にわたり非常に活発な議論が行われた。ただ、ネイティブスピーカ同士の議論の輪に入ることはできず、必死に議論に耳を傾け続けた。そんな中、日本におけるトレンドについて発表したところ、アジアの状況を知ることができて非常に興味深かったとのコメントを頂くことができ、英語で発信することの意義を実感した。また保育者や演奏者の音響ばく露については、音源が騒音ではないために、普段、聴力保護の観点から注目されることが少ない職場の環境について、音環境全体を評価するのでなく、個々のばく露や音響性難聴防止に着目した点に関心を持って頂くことができた。講演終了後、バークリー音楽大学やボストン建築センターで教授職を歴任されたK. Anthony Hoover 先生からぜひ発表資料を送って欲しいと賛辞を贈って頂けたことは大変光栄であった。
5日間のジョイントミーティング参加を終えた後、英語漬けの心地よい疲れを感じつつ、20 年前と変わらず美しく沈みゆく夕陽を眺めながら、ふと、過去と現在(表1)、そして未来の国際学会に想いを馳せた。今回のジョイントミーティングに限らず現在の国際学会における公用語は英語で、英語を母語としない私達には大きなハンディキャップである。しかし、最近では、自動翻訳がかなり使えるようになって、うまく日本語を書けば、少しの修正で済むくらいに訳してくれるし、発表会場での英語での質問も準備をすれば、手元のモバイル機器に日本語でリアルタイムで表示できる。恐るべき進歩である。近い将来、きっと国際学会でも参加者それぞれが自国語で話し、互いに会話ができるようになるだろう。10 年後の第7回ジョイントミーティングは一体どんな景色になっているだろうか?今後、AI が進化するより早く英語が上達する自信は持てないまま、科学技術の発展を祈りつつ帰国の途に着いた。
(騒音振動研究室 横山 栄)
表1 国際学会における発表様式の変遷
年 発表様式 原稿配布 プログラム 英訳 公用語 携帯通信 1996 OHP 紙 紙 辞書(紙・電子) 英語 (PHS /携帯)* 2006 PPT CD 紙/CD 辞書ソフト 英語 携帯 2016 PPT CD/USB 紙/CD 翻訳ソフト 英語 携帯 2026 PPT DL DL AI 英語 スマートホン * 国内限定私は2日目の「Machinery Noise and Vibration」セッションにおいて、“Reduction of transmitted infrasound in a residential house via active vibration control of window rattling: A field experiment.”という題目で発表を行った。本発表では、超低周波音によって引き起こされる窓や室内建具のがたつきに対し、実際の家屋を対象に能動振動制御(Active Vibration Control)を適用した実験結果を報告した。会場は収容人数約50 名の比較的小規模な部屋であったが、立ち見の聴講者も見られ、関心の高いセッションで発表することができて光栄であった。質疑応答では2件の質問をいただき、拙いながらも何とか議論を行うことができ、海外発表や英語でのコミュニケーションが少しずつ身についてきたことを実感した。
会議全体を通して、私の研究分野に近い「Active Control」関連の発表は十数件と少なめであった。一方で、「Low-frequency sound」や「Infrasound」を扱う研究は豊富で、ソニックブーム、ロケットのジェット騒音、さらには山火事検知のための炎から出る音など、日本音響学会ではあまり目にしないテーマごとに1セッションが構成されていた。ロケット打ち上げの直近における計測事例や、山火事を再現した燃焼試験ができる半無響室など、米国ならではの研究スケールの大きさや、国ごとに抱える音響的な社会課題のトレンドを肌で感じることができた。昨今では日本においても山火事が増えてきていることや、リニアモーターカーや空飛ぶクルマなど新たな音源への対応も求められていく中で、国際的な動向を把握しながら国内トレンドにも目を配る重要性を強く感じた。
4日目には「Materials and Devices for Noise Control」セッションでSession Chair を務める機会も得た。進行に関して入念に準備を重ねたものの、実際には共同Chair の方に助けられる場面が多く、私の役割といえば発表者交代時のPC やマイクの設定などばかりで、さながら裏方スタッフのようであった。前述の「英語に慣れてきた」という自信は早々に打ち砕かれ、まだまだ研鑽が必要であることを思い知らされた。
滞在中は物価の違いにも驚かされた。名物のポケ丼(Poke Bowl:海鮮丼)をテイクアウトし、ビールを1缶飲むだけで3,000 ~ 4,000 円ほどかかる。特に、Opening reception やSocial event といった交流イベントで提供されるアルコールが1杯約2,000 円であったことには目を見張った。イベントでは、ビール片手に談笑する米国参加者と、お皿だけを手にしている日本参加者の対比が印象的であった。約10 年後に再び開催されるであろう次回のジョイントミーティングでは、Session Chair を堂々と務められる英語力と、価格表を気にせず乾杯できる日本円の力、その両方が向上していることを切に願っている。
(騒音振動研究室 岩永景一郎)
図4 企業展示会場私にとって海外の学会参加は今回が初であったため、参加者の中でも一際緊張していたと思われる。行きの便では国際学会で役立つ英語の音声をイヤホンから繰り返し聴き続け、あまり眠れないまま時差19 時間の開催地に降り立った。所員と馴染みのある参加者と揃って会場にて事前受付を済ませ、ワイキキを散策していたところで持病の腰痛が悪化し、その日はホテルで休養することになった。
1日目、下見をしていたにも関わらず海側と陸側のルートの違いから建物周辺で迷い、少し息を上げながら入場したホールは、常夏の外気に汗ばんだ肌を緩やかに刺す冷気に満たされていた。参加者へと通達されていたアロハシャツ推奨というメールを受けて用意した薄手では、発表に聞き入る会場にくしゃみを響かせてしまいかねなかった。会場用のジャケットは必須に思えたが、中にはアロハに短パンという偉丈夫もいた。実に健康的で、見習いたいと思った。
会期を通して、自分も発表する建築音響のセッションを聴講した。海外特有の建築様式に関する音場調査や、国内でも関心が高い音響メタマテリアル、建材として注目されているCLT 等の内容を、未熟な英語力を最大限に動員して自らの糧とするように努めた。活発な議論に感心しつつ、加熱するネイティブスピーキングに目を回すこともあった。
前回のジョイントミーティングからの約10 年間で生じた大きな事件の一つとして、COVID-19 の大流行が挙げられる。感染症のもたらした変革には、対面方式ではなくビデオ通話を利用した会議、在宅勤務が増加したことによる集合住宅における音環境への意識などあるが、それらに関する発表もいくつかあった。かくいう私も、飛沫感染防止用の卓上衝立による会話のしづらさを改善するための、低域共鳴透過による電力に頼らない透過音の向上手法について発表した。私の発表は2日目の午後、終わりから3番目という配置であり、音響材料や特性に関するセッションであった。午前がアメリカ主体、午後が日本主体のスケジュールだったため、比較的ホームの雰囲気の中で番を迎えることができ、度を越さない緊張を保ちつつ落ち着いて練習通りの発表ができたと思う。惜しむらくは、いただいた質問に滑らかに応対できず、回答に合わせて用意していたサンプル音声が今ひとつ活かせていなかったことだろうか。この反省を是非とも次に繋げたい。研究発表・聴講以外にも、この出張では良い体験が得られた。私は舌が肥えているわけではないが、食べることが好きであり、スパムむすびや定番のロコモコ丼にアサイーボウルとワッフルなど、財布と相談しつつ満喫することができた。お茶と思って買ったArizona Green Tea の砂糖の量に驚かされたのもいい思い出だ。泳ぎこそしなかったが、磯の香りのしない澄んだ海辺を歩くだけでも心が洗われる思いだった。
COVID-19 が拡まり、一時期はオンライン開催が当たり前になっていた研究発表会だが、約10 年に1度という大会に現地参加でき国際交流を行えたことをありがたく思う。
(建築音響研究室 新田 龍馬)
図5 ワイキキの夕焼け2024 年に入所して以来、小林理研の職員として国内外問わず初めての学会発表となる。そして入所前も含め、人生で初めて経験するジョイントミーティングである。約10 年に一度しか開催されないこともあり、一生のうちでもなかなか経験できないであろうと考えこの度参加を強く希望した。また私事になるが、開催される前週付で博士号を取得したため、これまでお世話になった国内外の研究者の方々に学位取得のご報告など行うことも目的の一つであった。
私は4日目に開催された交通騒音の測定・予測のセッションにおいて、音源の移動によるドップラー効果が、国内外の環境基準に用いられる高速鉄道の騒音評価値に及ぼす影響について発表した。現在営業されている新幹線などの高速鉄道において、スピーカーや車輪など表面の振動によって音を放射させる振動音源ではなく、車体などが風を切ることで発生する空力音の寄与が大きい。そのため、このような空力音源の移動が及ぼす影響について数値検討を行い、大学院在学中に発表した振動音源における検討結果と比較した。
自分の発表時間以外にも、開催期間中様々なセッションを聴講し、いくつかの行事に参加した。このうち日本の音響学会にない行事として、3日目に開催されたJAM Session を紹介する。特設ステージにPA セットやギター・ベースアンプ、ドラムセットやキーボード等が設けられ、参加者は各自持参した楽器等をステージに持ち込んでジャズやロック等の即興演奏を行う。演奏に参加しない人もビール等片手にステージで繰り広げられる他の参加者の演奏を楽しむ。米国音響学会研究発表会では恒例の行事であるらしく、前回のジョイントミーディング(2016 年)でも開催されていたとのことである。私自身打楽器やドラムを長年演奏していることもあり、実のところ一連の行事の中で最も楽しみにしていた。自ら名乗りを上げてドラマーとして演奏に参加することは勿論、楽器ができない他の参加者でもなるべく演奏に参加できるよう私物の小物の打楽器等もいくつか持参した。そして自分の演奏の際にはジャズを演奏することになり、舞台に備え付けられていたスタンダードナンバーがまとめられた本(通称:黒本)からステージに居合わせた参加者で2曲選んで演奏した。ところが私自身はジャズについて演奏経験どころか一連のスタンダードナンバー自体あまり明るくないため、自分の演奏が場違いになっていないか不安になりながらも何とか演奏し切った。不安はあったが、演奏後、一緒に演奏した方や観衆からも反響を頂くことができたのでやり切った甲斐はあったと感じた。その後も他の参加者によるセッションは続き、24 時をもってJAM Session は終了した。とても楽しかったので、ぜひ日本の音響学会の研究発表会等のイベントでも(準備等に課題はあると思われるが)行われると(個人的には)嬉しい。
(騒音振動研究室 牧野 裕介)
図6 JAM Session 開催風景
図7 ステージに設置されたドラムセット