2025/10
No.170
1. 巻頭言 2. inter-noise2025 3. 振動分析計 VA-14

      <会議報告>
  inter-noise 2025


騒音振動研究室  土 肥 哲 也、横 田 考 俊

 inter-noise2025(第54 回国際騒音制御工学会議)が、南半球最大の都市であるブラジルのサンパウロで8 月24 日から27 日まで開催された(写真1, 2)。ブラジルでの開催は、2005 年のリオデジャネイロ以来2回目である。当所からは土肥と横田の2名が参加した。クロージングセッションにおける報告によれば、本会議の参加登録者は671 人であった。この人数は、2024 年のフランスのナントでの開催された時の1,874 人や、2023年に日本の幕張で開催した時の1,272 人に比べてかなり少ない。国別の参加者比率は、開催国のブラジルが56 % と半数を超えており、続いて中国と日本が各5%、韓国が4%、アメリカとイタリアが各3%、ドイツ・カナダ・フランスが各2% と続いていた。なお、オープニングセッションでは日本からの参加者は28 人と報告されており、会場内でそのほとんどの日本人参加者にお会いすることができたことが例年と違う今回のinternoiseの印象的な出来事であった。日本人参加者が少ない原因は、現地の治安が良くないこと、移動時間が飛行機の乗り継ぎを含めると片道約30 時間以上かかる点、今年は12 月にアメリカのハワイで日米ジョイントミーティングが開催予定であることなどが考えられる。

写真1 会場のワールドトレーディングセンター
写真2 会場入口
 今回の会議における発表件数は431 件で、その内訳はブラジルが39 %、中国が8%、日本が7% と続いていた。発表者の内、口頭発表者は317 人と例年に比べて少ないこともあり、3日目の最終日の午前には全ての発表セッションが終了した。そのため3日目の午後にはテクニカルツアーが開催され、サンパウロの中心部を訪れることができた(詳細は後述)。ポスター発表(36 件)は、紙ではなく液晶ディスプレイを用いたePoster という形式を採用しており機能的で新鮮だった(写真3)。オンライン発表(73 人)は、オンライン参加者・会場発表者の収録録画を開催後にweb で聴講する形式であった。国際騒音制御工学会は、コロナ後の現在においてもオンライン発表の機会を残すように強く推奨しているが、実行委員側の手間・費用等を考慮するとこの方式にならざるを得ないようだ。
写真3 液晶ディスプレイによるePoster
 口頭発表のセッションは2つのフロア、合計11 の部屋に分かれており、多くの部屋ではプロジェクター投影でなく大型液晶ディスプレイが使用されていたのが新鮮だった。研究発表の内容は多岐にわたっていたが、いわゆる「空飛ぶ車」に代表される電動飛行機に関する発表が増えてきたことは明確で、筆者が大阪・関西万博で体験した「未来」が近づいていることを実感した。また、「音響ブラックホール」や「3D プリンタ&数値解析&音響メタマテリアル」といったトピックの研究発表が多く見られたのも近年の研究動向といえよう。クロージングセッションの最後では、2026 年はオーストラリアのアデレード、2027 年はイタリアのパドヴァでinternoiseが開催される予定であることが報告された。

自身の発表
 筆者は、屋外における低周波音モニタリング時に測定結果に混入される風雑音を簡易に検出可能な測定・分析方法について発表した。大型のウインドスクリーンの中に2つまたは3つのマイクロホンを配置して1/3オクターブバンドの音圧レベル差を求めるだけのシンプルな測定方法である。ウインドスクリーン内に生じる風の速度分布により、風雑音が測定対象音よりも大きい場合は各マイクロホンで観測される「風雑音」の音圧レベルに差が生じるため、測定結果に風雑音が混入していることが自動判別できる。あるブラジル人の技術者が発表内容に興味を持って下さり、今後議論をさせて頂くことになった。彼のネームカードにはミドルネームとしてT(田中)と記載されており、祖母が日本人であると教わった。いわゆる日系3世である。日本とブラジルの歴史的な関係をinter-noise の場で再認識することができた。

低周波音
 低周波音に関する発表は、10 件程度が様々なセッションに分散されており、筆者は会場の部屋間を走り回りながらそれらを聴講し、意見交換した。ブラジルのRibeiro 氏等は、家屋内における低周波音の遮音性能や室内音の測定結果を報告しており、部屋のモードに対応して57 ~ 72 Hz の低周波音を観測した事例などを示しており、発表後に私が取り組んでいる室内に吸音体を設置する方法などについて議論した。彼の報告によれば、ブラジルでは2022 年に600 万戸以上の住宅不足が発生したそうで、今後住宅環境が音響分野のトピックの一つになると感じた。同じくブラジルの Sharma氏は、超低周波音源の製作についてポスター発表をしており、当所で開発した装置などについて今後情報交換をすることになった。また、ブラジルのGonçalves氏は、ダクト内に生物模倣型音響共振器を取り付けることで低域の音の低減を検討しており、「低周波音」と「生物模倣」を組み合わせる着眼点が興味深かった。ブラジルでは今の所、特段の低周波音源はないとのことだが苦情は増えているようであり、現在進行中の経済成長に伴い騒音を含めた低周波音の調査・研究が増えていく印象を受けた。ブラジル以外の発表では、フランスのSawaf 氏らによる低域における聴覚閾値に関する実験結果、スロバキアのUrban 氏によるフィットネスセンターにおける衝撃性低周波音の測定結果などが興味深かった。また、日本の池谷氏(NEXCO 総研)らは、高架道路から発生する低周波音のシミュレーション結果について発表し、高架橋において路面形状対策により低周波騒音の低減効果が得られることや、高架橋上の防音壁による低周波騒音の存在などについて報告していた。

鉄道騒音
 南米では高速鉄道が運行されていないためか、関連の発表は少なかった。JR 東日本の橋場氏は、走行音のモニタリングと車輪切削のタイミングについて報告していた。これまでもレールや車輪の切削により走行音(転動音)が低減することは明らかにされていたが、走行音のモニタリングを継続的に実施することで、走行音の大きな編成・車輪を見つけて効率的に切削する方法を紹介していた。中国のZhang 氏らは、レール下のスラブ付近に空洞やダンピング材を施す方法について「音響ブラックホール」と称して報告していた。在来鉄道については数件の発表があり、フランスのMontoya氏等はスキール音についてのシミュレーション結果を報告していた。

 今回の学会参加は、往復移動に約3日間、現地滞在4日間という過酷な旅程であった。しかし、ブラジルの研究者等と対面で情報交流することができ、ブラジルが発展していく姿を想像できた事や、途中の乗り継ぎ地のドバイ空港から世界一高いビル「ブルジュ・ハリファ」を見たことは、オンライン参加では体験できない貴重な機会・経験であった。
(理事/騒音振動研究室長 土肥哲也)

 inter-noise 初日、Plenary lecture の前に開催されたI-INCE 総会に、空港振興・環境整備支援機構の篠原氏とともに小林理研から土肥、横田の3名で参加した。また、オンラインから、今泉氏(産総研)、坂本先生(東大生研)、山内先生(九大芸工)、渡辺先生(電気大)が参加された。前半はオンライン参加者に音声が届かず、また後半ではinter-noise 2025 の実行委員会から報告が関係者欠席のためスキップされる等、いくつか波乱はあったものの、Director at Large for Asia-Pacific Region の選挙は無事に実施され、日本から推薦の山内先生が当選された。
 Technical Session では、主にAirport Noise、Urban Air Mobility (UAM) Noise、Outdoor sound propagation、Measurement Methods for Smart Cities and Noise Monitoring 等に参加した。UAM に関しては、評価指標を検討するための聴感実験やそれに使用するUAMの飛行音の可聴化、騒音予測モデルの検討などの発表があった。いずれの検討でもモデル化したUAM の音(音響特性データ)が使用されており、実際の音データがまだ入手できないことが共通の課題となっていると感じた。一方で、各発表のFuture works 等では、試験飛行ではあるものの徐々にUAM の実際の音が測定できる状況になってきていることが分かるコメントも多く見られ、今後、UAM の実際の音の分析やその結果を踏まえた検討が一気に増える予感がした。Outdoor Sound Propagation では、Noise Map の作成例が多く見られた。ブラジルからの発表では、ドイツの道路交通騒音予測モデルRLS-90 を使用した事例が多く見られた。ブラジルでは古くからドイツのモデルが使われており、現在もその流れでRLS-90 を使用しているとのことであった。このセッションで私は田んぼ上の音の伝搬について実験結果を示したが、海外の大規模農業に比べて日本の田んぼエリアは小さく、その周囲に騒音源と住居が隣接している点について説明を入れた方が良かったと後で感じた。Noise Monitoring では、Dynamic Noise Mapping に向けた測定方法やMEMSマイクロホンを用いた低価格の騒音計測デバイスなどの紹介があった。簡易デバイスの多点配置およびAI による音識別技術を用いたDynamic Noise Mapping について今後も多くの検討が出てくる可能性が感じられた。その一方で、時間変動と空間変動をともに表示するDynamic Mapping を最終的にどのように騒音評価につなげるかという議論には至っていないようであった。
 今回はブラジルからの発表が多く、他の地域で開催されるinter-noise では得られないブラジルの現状に関する情報が得られ、開催地を持ち回りにすることの効果が感じられた。ブラジルでは都市部の急速な発展により様々な問題が生じており、騒音問題もその一つとして、Noise Map の作成からAction Plan への落とし込みが進められている段階とのことであった。サンパウロでは朝夕の交通渋滞は大変ひどく、そのこともありヘリコプタの利用が多く、ビル屋上ヘリポートの数も多くなっているとであった。今後、ヘリコプタからUAM への転換が急速に進む土壌が整っていると感じた。
 今回の会議で印象的だったのは、Silent Lecture という発表(講演)形式である。半球ドーム状の大ホール(Golden Hall)に仕切りを設けず、半分を企業展示とポスター会場、残りの半分をOpening Ceremony や Keynote Lecture 等の講演会場として使用し、さらに、講演会場では3つの異なるTechnical Session を同時進行するという試みがとられた。講演会場に並べられた3枚のスクリーンにそれぞれのセッションのスライドが表示され、3人の講演者が各スクリーンの前で同時に発表を行い、参加者はヘッドフォンのチャンネルを希望のセッションに合わせて発表を聞くという方式であった(写真4)。大空間のホールで響きもあり、また企業展示等の雑踏もあったが、ヘッドフォンを通して発表を聞くため、クリアに発表者の声を聞くことができ、なかなか面白い方式であった。

写真4 3セッション同時開催(Silent Lecture)
 最終日のTechnical Tour では、市内のコンサートホールSala São Paulo の見学が行われた。このホールは、Concert Halls and Opera Houses(Leo Beranek 著)やHalls for Music Performance(Acoustical Society of America 編)にも紹介されているブラジルを代表するシューボックス型のホールである。旧駅舎の建物を残しつつホールに改築した建物で、駅舎当時の柱列を残してホール壁面が設計され、自由に高さを変えられるブロック状の吊り下げ式天井が特徴である。見学では、ホールの音響設計に関わった先生から駅舎の柱列を残す設計とした建設当時の話や、現ホール運営スタッフから天井ブロックの高さ調整の話などが聞け、大変興味深かった。
 今回はホテルと会議場との行き来程度であったため、南米の雰囲気を十分感じられたというまでには至らなかったが、Opening Ceremony やBanquet でのサンバやブラジルの音楽にのせたダンス、定番カクテルのカイピリーニャなど、限られた中でもブラジルの雰囲気を感じることができた。
(騒音振動研究室 横田考俊)

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