2025/ 7
No.169
1. 巻頭言 2. 騒音測定・屋外伝搬実験へのIoT の活用 3. ハンドヘルドパーティクルカウンタ KC-52A

 
  所長就任のご挨拶


  所 長  廣 江  正 明

 このたび4月1日をもちまして当所の所長を命じられ、小林理学研究所の運営に携わることになりました。新型コロナ感染拡大による急激な生活様式や社会活動の変化を経て、ようやく落ち着きを取り戻しましたものの、まだまだ予断を許さない社会情勢の中での船出となります。微力ではありますが、山本理事長ならびに当所職員とともに、小林理研の一層の発展をめざして努力してまいりますので、皆様の一層のご支援とご協力を賜われば幸いでございます。

 小林理学研究所は、今年、創立85 周年を迎えます。当所の設立目的は「理学の基礎及び応用を研究し、社会に貢献する」(定款第3条)ことであり、この目的の達成のため、「理学に関する調査研究」と「理学研究員の養成」に取り組み、現在の姿に至っています。この設立の趣旨を堅持しつつ、未来の小林理研を形作っていくという課題を如何に実現するか、所長としての責務の重さを痛感いたします。

 小林理研が産声をあげた20 世紀半ばから21 世紀初頭にかけ、急速な科学技術の発達に伴い、工業や産業が目覚ましい進展を遂げてきました。道路・鉄道・航空の公共交通機関は、人・物の移動を容易にし、国内や世界の各都市を結ぶ手段として大いに発達しました。工業技術の進展によって社会インフラの整備も進み、都市の中心地から離れた緑に囲まれた場所も多くの人々が住む生活圏に変貌し、また、中心市街地に超高層ビル群が林立する都市も大幅に増えました。加えて、医療技術の進歩は人間の寿命を著しく延ばし、先進国では人生100 年時代を迎える国も出てきています。このように、近年の科学技術発達は「ある意味で」快適で質の高い生活環境をもたらしましたが、その一方で、人間活動は食料やエネルギーの著しい消費、森林等の自然環境の破壊を引き起こし、地球規模の環境に大きな「影響」を与え続けています。科学技術発達の効用に『負の面』があり、それは後からひっそりとやって来るのです。

 現在、循環型社会や生物多様性が声高に叫ばれていますが、2020 年代に入っても『負』の影響は続いています。今後、環境に対する影響の抑制を一層推進する必要があり、その為の新たな科学技術が集中的に投入されることでしょう。しかし、そこにも『負の面』が存在することを忘れてはいけません。これまで小林理研が携わってきた音・振動を中心とした基礎及び応用の研究は正に環境に対する『負』の影響の抑制であり、その研究成果によって社会に貢献してきました。この使命を引継ぎつつ、新たな科学技術がもっているであろう環境に対する『負の面』を捉える視野を有し、静かに進行する『負』の影響に対処していこうとする良識ある研究者の育成が必須であり、未来の小林理研を形作っていく上での大きな目標です。

 ニーチェは「脱皮できない蛇は死ぬ」という言葉を残しています。小林理研が設立から80 数年の長い期間に亘って、設立の趣旨を見失うことなく、社会情勢に応じて変化し続けてきたことで、今日の脱皮した姿があるのだと思います。初心を忘れることなく、常に自身の殻を破り、成長を続けていくことを目指す所存です。

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