1.はじめに
半導体や電子部品、医薬品の製造工程では、製品に対して微小な異物が混入することを防ぐため、クリーンルームなどの清浄度が確保された環境が求められる。この清浄度管理に気中パーティクルカウンタが使用される。近年の半導体市場の拡大に伴う工場の増設やCOVID-19 パンデミック以降のワクチンの安定生産のため、クリーンルームなどの清浄度を必要とする需要は拡大し、パーティクルカウンタを使用する機会も増えている。
長年、多数のお客様に使用いただいたハンドヘルドパーティクルカウンタKC-52 に対し、ユーザビリティを向上させた後継器のハンドヘルドパーティクルカウンタKC-52A を開発したので、製品の特長や新機能についてここに紹介する。
2.製品の概要
新たにリリースしたKC-52A は、ハンディタイプの気中パーティクルカウンタである。図1はKC-52A の外観である。KC-52A は従来製品と同様に、光散乱式気中粒子計数器の必要要件を定めたJIS B 9921:2010 およびISO 21501-4(ISO 21501-4:2018/Amd:2023 仕様の校正は工場オプション)に対応している。表1は基本製品仕様である。測定可能な最小粒径は従来機種と同様の0.3 μm である。測定可能な粒径区分に10.0 μm 以上のレンジを追加した。本体にバッテリを搭載し、満充電状態で約7 時間以上の連続測定動作が可能である。
清浄度管理以外に本器は発塵源の調査に使用される。設定した値の整数倍を計数する毎にビープ音を鳴らすオーディオ機能を使用することで、発塵源を聴覚的に探すことが可能である。
3.製品の主な特徴
KC-52A の特徴は以下の(1) から(5) の内容となっている。
(1)大画面のLCD と操作性、視認性を向上させる画面デザイン
LCD は4.3 インチWVGA(480 × 800)のタッチパネル付きのフルカラー液晶を採用した。従来製品より画面サイズが大きくなり、解像度が高くなったことから、ボタンや文字の表示が高精細で視認性を向上させた。
次の3つの観点を考慮し、画面デザインを刷新した。
- ユニバーサルデザインから、多様な色覚に配慮したカラーユニバーサルやコントラストを採用し、より多くの人が利活用できる。(図2参照)
- 操作性は、使用者が直感的に操作できるUI を意識し、設定用ボタンにトグルスイッチやプルダウンを採用し、使用者が迷うことなく操作できる。(図3参照)
- 帽子・マスク・ゴーグルを着用するクリーンルームの現場では、画面が見えづらいため、文字のサイズや背景のコントラストの調整、十分な余白を設けることで、ボタンの色を識別しやすく、文字を読みやすくする。
(2)スムーズな操作感
目的に合わせて、使用者がタッチパネルで測定条件や 本体の設定を行うため、処理時間の短縮が求められる。従来製品と比較してKC-52A は起動時間、各画面の 遷移時間やボタンの処理時間が低減した。そのため、使用者が本体を起動させ、設定を行い、測定を開始す るまでの一連の操作時間が短縮され、軽快な操作性を実現させた。
(3)持ちやすさの向上
クリーンルームの空気清浄度規格(ISO-14644-1)では測定対象のクリーンルームの面積に応じて必要な測定点数を定める手順となっている。その定められた手順に沿って測定をする際にパーティクルカウンタを持ち、測定ポイントを移動して、測定を繰り返す。この時、ハンディタイプの気中パーティクルカウンタの重さや形状は使いやすさの点で重要となる。
重さは、内蔵バッテリやポンプ等の内部部品の配置や構造を見直し、従来製品に比べ軽量とした。
形状は持ちやすさを追求し、片手でも快適に本体を持ち運べる形状とした。また、両手で本体を持ち、画面操作が可能な形状も両立させ、自由な持ち方に対応するデザインとした。
万一、機器を滑らせてしまうことがあっても、ハンドストラップを取り付けることで、落下を未然に防ぐ
ことができる。
(4)多様な使い方に対応するオプション品
KC-52A の用途を広げるオプション品を紹介する。
1つ目がコミュニケーションドック(以下、ドック)である。ドックは背面部に複数の機能を実現する端子を有している。(図4左参照)機能について以下に記す。
図4 オプション品
左:コミュニケーションドック、右:キャリングケース
- KC-52A の複数の機能を同時に使用できる。測定中に外付けのプリンタで測定結果を印字しながら、シリアル通信も行うといった使い方が可能となる。
- ドックと多点監視ソフトウェアRP モニタ Evo10(別売)を用いることで当社独自の多点モニタリングシステムを構築できる。測定したい管理ポイント毎にパーティクルカウンタを設置して、遠距離から制御することで、各測定点の同時測定が可能である。(図5参照)
2つ目がキャリングケースである。本体および付属品のフィルタ、AC アダプタ等、測定に必要なものを同梱して持ち運ぶことができ、まとめることで、運搬の負荷を低減させている。(図4右参照)
(5)環境に配慮した設計
KC-52A の開発段階で環境負荷の低減を検討し、その一つとして梱包に使用する段ボールを環境へ配慮させた。それは、適切に管理された森林から生産された製品であることを表示するFSC 認証を取得したメーカの段ボールを採用したことである。これにより森林の管理活動を支援し、世界全体の森林保全へ繋がる活動につながる。
4.KC-52A からの新機能
KC-52A では以下の2つの新機能を搭載した。詳細について説明する。
(1)トレンドグラフの表示機能
今回、使用者が計数値や用途に合わせて確認可能なトレンドグラフ表示画面を追加した。(図6参照)従来製品からある各粒径毎の計数値表示と自由に切替えられる。トレンドグラフ表示画面では同じ測定条件で繰返し測定した場合、測定の終了毎に計数値をプロットする。本機能により、時間の経過に対する環境の変化をリアルタイムかつ容易に把握できる。
グラフのプロット表示は線形表示、対数表示から選択できる。空気中の粒子数が数個のようなクリーンな環境で使用する場合、対数表示させることで計数値の変化の確認が容易になる。他にも対数表示は急激に計数値が増加または減少する場合にも有効である。縦軸の最大値は複数のパターンから、表示させる粒径は画面右上のプルダウンから選択する。
(2)21CFR Part11 への対応の機能
米国食品医薬品管理局(FDA)の申請書類である電子記録/ 電子署名に関する規則の21CFR Part11 では、システムの使用を権限で管理することが要求される。この21CFR Part11 への対応として、権限設定機能とオーディット機能を追加した。
権限設定機能の権限は3段階あり、管理者権限、使用者権限、ゲスト権限に分かれる。起動後に任意の権限でログインでき、それ以降はログイン中の権限で操作する。権限によって操作範囲が制限されることで、誤った設定や操作を未然に防止でき、データの確実性が高まる。使用者権限は最大6人分まで登録できる。
また、電子記録に関する操作履歴を常時記録するオーディットトレイル機能は、操作履歴として「日時」、「権限」、「操作内容」を記録する。その記録内容を元に使用者は操作手順を管理できる。この記録内容は外部USBメモリへの出力、もしくは外部プリンタで印刷できる。出力した記録内容はソフトウェア上で日時や使用者によって操作履歴を明確に分けて表示、確認できる。
5.おわりに
ハンディタイプのパーティクルカウンタは本器のみで手軽に測定ができ、持ち運びも容易であることから導入が容易な製品である。そのため当社の微粒子計測器の中でも幅広い層のお客様に利活用される製品であり、粒子検出性能だけでなく、製品の使いやすさも重要な点となる。KC-52A ではユーザビリティの向上を意識し、画面デザインや形状、新機能を検討した。
COVID-19 の影響から社会全体の空気清浄への関心が高まる中、これからもお客様の様々なニーズに応えるような商品を開発していく。
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