2020/1
No.147
1. 巻頭言 2. ISE 17参加報告 3. ICA 2019 4. コードレスオージオメータ
   

       <会議報告>
  ISE 17 参加報告


圧電物性デバイス研究室  児 玉  秀 和

 第17 回エレクトレット国際会議(17th International Symposium on Electrets)が、9月1日より6日までアイルランドのリムリック大学(University of Limerick)で行われた(図1)。リムリックは首都ダブリンから南西に200 km にある、アイルランド第3の都市である。市内中心にシャノン川が流れ(図2)、ISE 17 のスポンサーとなったAnalog Devices 社の工場がある。リムリック大学は市街から東に約5 km のシャノン川岸にキャンパスがあり、経営、芸術、自分社会科学、教育、工学、理学部を持つ総合大学である。1万人の学生が在籍し、さらに2千人の留学生を受け入れている。

図1 会場前にて
左からDr. W.C.Gan(Xiamen University Malaysia)、 古川特別研究員、筆者
図2 リムリック市街を流れるシャノン川

 ISE は電荷を注入した絶縁体の総称であるエレクトレットに関する、電荷の保持や移動といった現象の他、 高分子強誘電体や多孔質ポリマーエレクトレットの物理現象、これらのアプリケーションをターゲットとした国際会議である。この会議は、分野が有機デバイス材料の中でも圧電、焦電、強誘電に特化しており小規模ではあるが、専門性が高く先端の研究動向を把握することが出来る。第17 回会議はリムリック大学のDr. Tofail Syed が実行委員長を務められた(図3)。発表件数は総数100 件で、ポスター発表26 件、受賞および基調講演16 件、口頭発表33 件の他、今回新たに学生のためのショートプレゼンテーションが設けられ、25件の発表があった。この他に16 件のワークショップが行われた。

図3 口頭発表会場
開会の辞を述べるDr. Tofail

 小林理研からは、古川猛夫特別研究員がBERNHARD GROSS MEMORIAL LECTURE として“Piezoelectric polymers : diversity and in-depth understanding”を講演された。1980 年代初頭、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)の圧電性が注入電荷によるエレクトレットという説と永久双極子配向によるという2つの説で議論された。当時、古川先生は、さまざまな実験データから PVDFが永久双極子の配向だけでなく、高電場で反転するいわゆる強誘電性を持ち、これが圧電性発現の起源であることを突き止めた。その後もPVDFとその共重合体を中心に様々な高分子の圧電機構を解釈された業績が讃えられ、今回のメモリアルレクチャーに至った(図4)。

図4 古川特別研究員に授与されたBernhard Gross Memorial Lecture at ISE 17, Limerick 盾

 一般講演では安野研究員によるハイドロキシアパタイトのエレクトレット化と電荷保持の性質について“Charge storage observation in corona-charged Hydroxyapatite ceramics”というタイトルで報告した。児玉は古川先生との共著でポリフッ化ビニリデン(PVDF)の圧電性と電歪に関する研究として“Piezoelectricity and electrostriction of polyvinylidene fluoride”を報告した。他機関との研究発表も2件行った。まずXiamen University Malaysia(廈門大学マレーシア校)との共同研究としてPVDFの誘電緩和現象と強誘電分極反転の関係を議論した“Dielectric relaxation and polarization reversal of solvent-cast poly(vinylidene fluoride)”(児玉、 古川)、そして小林理研、ヤマハ、ユポ・コーポレーションの共同研究として高い圧電性を発現する多孔質ポリプロピレンエレクトレットとそれを用いた楽器用センサーとして“Porous polypropylene electret vibration sensors designed for electric acoustic guitars”(児玉、安野)を報告した。このように、小林理研は5件の研究報告を行い、高度な研究活動をアピールした。
 また、深田栄一名誉研究員も本学会で“Special Recognition from the International Symposium on Electrets”を受賞された(図5)。深田先生は1944 年から1963年の間小林理研に在籍され、木材や腱といった動植物材料の圧電性を御研究され、生体高分子や合成高分子研究の礎を築き上げた功績が讃えられた。

図5 左から深田名誉研究員、筆者、古川特別研究員

 9月4日には最近の学会では珍しく半日のツアーが催された。リムリック大学からシャノン川に沿って20 kmほど西にあるバンラティ城とその周囲を取り囲むFolk Parkと呼ばれる公園を訪れた(図6)。バンラティ城の起源は西暦970年、バイキングの trading campである。現存している城は1425 年頃にMacNamara 家により建設され、1475 年 North Munsterで最大のO'Briens一族の拠点となった。 Folk Park は正式には“Bunratty’s 19th Century Folk Park”という名称で、19 世紀の家屋や生活環境が再現されている。家屋は様々な種類の農家、漁師の家、民家が再現され、その中には伝統のアイリッシュ音楽を演奏し披露する民家もあった。アイリッシュ原産での超大型犬であるアイリッシュ・ウルフハウンドも飼育されている。
 ISE17では、小林理研は受賞講演、口頭発表、ポスター発表と積極的な研究活動を示し、基礎研究からコンシュマープロダクトまで幅広い成果をアピールした。次回会議は2021 年9月、中国の上海で行われる予定だ。

図6 会議主催のツアーで訪れたバンラティ城

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