2017/10
No.1381. 巻頭言 2. ICBEN2017に参加して 3. デシケータ 4. 物質の機械インピーダンスを測定する技術の開発
<骨董品シリーズ その103>
デシケータ
名誉研究員 山 下 充 康分厚いガラスで作られた広口瓶のような不思議な形の容器が出てきた。重い。
これは「デシケータ」という防湿容器で、中にはカメラやレンズなどの光学機器が入っていたが、小林理研では本来コンデンサマイクロホンやロッシェル塩などの保管に用いていた(図1)。
図1 デシケータ
孔のあいた中板の下に乾燥剤を入れ、密閉することで容器内を乾燥状態に保つ底の部分にシリカゲルの様な乾燥剤を入れて使用する。外気を遮断して乾燥状態を保つために重い蓋と本体との間は擦りガラスになっていて、ここにワセリンやグリースが塗られていた。
音響計測には1インチや1/2インチのコンデンサマイクロホンが不可欠であった。JISで標準マイクロホンとしてI 形(1インチ)、II 形(1/2 インチ)の構造・寸法が規格化されていたが(JIS C 5515:1981 年制定 2013 年廃止)、当時のマイクロホンは湿気により電気ノイズや振動膜の張力変化などが生じたため、マイクロホンヘッドをこまめにデシケータに収めたものであった。
図のデシケータには遮光ガラスが使われているが、必ずしも遮光性能は問わず様々なデシケータが研究室に転がっていた。実験に先立ってデシケータの重い蓋を開けてマイクロホンをおもむろに取り出し、実験を終えると再び蓋を持ち上げてマイクロホンを戻すという一連の作業には苦労させられたものである。
今日ではマイクロホンは小型軽量化が進み、従来の1インチや1/2インチに加えて1/4インチや1/8インチの コンデンサマイクロホンが活躍しているが(図2)、あわせてマイクロホンの素材も改良され、以前ほど湿気を恐れることはなくなった。とはいえ繊細な計測機器であることには変わりがなく、小林理研では現在、電動の湿度調節機能を備えたキャビネット型デシケータを使用している。こちらは開閉も容易で実験前後の苦役とは無縁 である。
図2 1〜1/4 インチマイクロホンヘッド
(提供 : リオン株式会社)