2017/7
No.1371. 巻頭言 2. Wind Turbine Noise 2017 3. オージオメータ AA-M1A
<会議報告>
Wind Turbine Noise 2017
建築音響研究室 横 山 栄風車騒音に関する国際会議であるWind Turbine Noise 2017 が日本のゴールデンウィーク中、5月2日(火)〜 5日(金)の4日間、アムステルダムから約60 km南のオランダ第2の都市ロッテルダムで開催された(写真1)。 オランダといえば、世界遺産「キンデルダイク=エルスハウトの風車網」をはじめとする風車群が有名であるが、スキポール空港からロッテルダムまで移動する列車の車窓にも何基もの風車を見ることができ、オランダらしい田園風景を楽しむことができた。会議はロッテルダム中央駅からほど近い街の中心部に位置する会議場や劇場が併設されたDe Doelenで開催され(写真2,3)、小林理研からは横山が参加した。
写真1 ロッテルダムの街並みWind Turbine Noiseは2005年にベルリンで第1回が開催され、その後、2年に一度のペースで回を重ねており、今回で第7回目を迎えた。今回の会議にはこれまでで最多の世界27ヶ国から参加があり、アルゼンチン、チリ、インドなどからの発表もあった。会期中、前回とほぼ同じ195名の参加者があり、依然として世界的に関心が高いことが伺えた。ただ、発表件数はポスター発表13 件 を含め76件で、93件であった前回と比較すると少なかったようである。主要国からの参加者数は、ドイツ38名、イギリス24 名、オランダ21 名、ベルギー18 名、デンマークおよびフランス各14 名、カナダ12 名、アメリカ9名 で、日本からは6名が参加し、ポスター発表を含め5件の発表が行われた。会議は前回同様、4日間の会期中、3日目にパラレルでセッションが組まれたのを除き、一つの会場で行われ、各セッションの後にはそれぞれ30 分程度の質疑応答時間が設けられ、毎回、非常に活発な議論が交わされた(写真3)。
写真2 会場のDe Doelen, Rotterdam 写真3 発表会場の様子私はWind Turbine Noise 2013,2015 に引き続き、今回が3回目の参加であったが、今回の会議で非常に印象的だったのは、会議の全体的な意見として、風車騒音が低周波音問題だとする主張がほとんど見られなかった事である。2010 年に初めてLow Frequency Noise 2010 に参加した時には、風車騒音に含まれる低周波音による健康被害を訴える主張や、その科学的根拠を示そうとする主張などがいくつも見られていたが、今回の会議では、風車騒音が(超)低周波音による問題だとする科学的エビデンスは得られていない事に反論する主張はなく、本学会の創設者の一人であるGeoff Leventhall 氏(イギリス)は「音響分野の専門家でない人々の間で風車騒音が低周波音の問題だという誤解が生じている」事が原因だとした。また、Frits van den Berg 氏(デンマーク)も「専門家でない人々に対し風車騒音の問題をいかに正しく説明するか」といった国家的な取り組みを紹介した。
また、もう一つ印象的だったのは、前回の会議で8件の発表を行った日本の研究グループが多くの参加者に Japanese Teamとして認識され、その研究成果も認められて、風車騒音に関する先進諸外国の複数の講演者による発表の中で研究成果が引用されていたことである。ア メリカのOld Isaac氏は日本における社会調査の結果をカナダやスウェーデンにおける調査結果と比較しており、また、イギリスのPerkins Richard 氏は我々のAM 変調音(Swish音)に関する実験結果をイギリスのサルフォード大学の実験結果と比較して紹介していた。昨夏、組織委員会のGeoff Leventhall 氏、Dick Bowdler 氏(いずれも、イギリス)およびJean Tourret 氏(フランス)らから今回の会議での発表を期待されて参加することができ、再会を喜び合えたことも、2013年に初めてWind Turbine Noise 2013 に参加した当時には到底想像できない状況であり、大変、光栄であった。さらに、 Frits van den Berg 氏、Mark Bastasch氏(アメリカ)、 Sabine von Hunerbein 氏(イギリス)らとも前回会議に続く再会を祝すことができたことも嬉しかった。
私は、今回、会議3日目午後のLow Frequency & Tones (低周波音・純音)のセッションで風車騒音に含まれる純音成分に関する聴感実験について発表を行った。私を含めて4件の発表があったが、純音に関する発表は2件だけであった。風力発電施設から発せられる純音性騒音に対して、特にヨーロッパ諸国ではペナルティを制定している国や地域が多く、近年、対策が進んできたためか、今回の会議での発表は少なく、もう1件は対策事例に関する内容であった。日本では、会期後の5月下旬に環境省水・大気環境局がようやく「風力発電施設から発生する騒音に関する指針」を定め、その中で「残留騒音 +5 dB」という指針値が示され、風車騒音に含まれる純音成分がアノイアンスを高める可能性が示されているが、ペナルティに関する記述はなく、引き続き、諸外国の検討事例も参考に、測定法および心理的影響に関する検討を続けていく予定である。今回の会議では、このガイドライン策定について環境省の島田氏がポスター発表を行い、各国の参加者から関心を集めていた。我が国では、2000 年頃からの風力発電施設の急激な増加に伴い、そこから発生する騒音等について、健康影響に関する懸念や不快感の原因となること等が指摘されており、平成 25 年度に環境省が水・大気環境局長委嘱による「風力発電施設から発生する騒音等の評価手法に関する検討会」を設置した。ここで、風力発電施設から発生する騒音等を適切に評価するための考え方について検討が進められ、ようやく今年5月にガイドライン制定となった。 また、これに併せて「風力発電施設から発生する騒音等測定マニュアル」も作成されたところである。
今回の会議では、騒音問題のほか、初めてシャドーフリッカー(晴天時に風力発電設備の運転に伴い、風車の翼(ブレード)の影が回転して、地上部に明暗が生じる現象)に関するセッションも組まれ、4件の発表が行われた。招待講演では、世界各国のシャドーフリッカーに関する規制基準値が紹介され、日本では規制基準値は定められていないものの、世界のガイドラインに多く見られる年間30時間あるいは一日30分を上限とする規制値に倣い、環境影響評価の際には、居住地域については「年間30時間を上限とする」案が示されていることも紹介された。
会議3日目の終了後には、ロッテルダム港を擁する世界屈指の港湾都市ロッテルダムらしく90 年前の外輪船“De Majesteit”の船上ディナークルーズでバンケットが開催された(写真4)。3時間あまりの港湾クルーズの間、大型外航船が次々に行き交う様子は、圧巻であった。ロッテルダム港は16 世紀ごろから大西洋貿易の隆盛とともに発展し、2004 年に上海港とシンガポール港に抜かれるまでは、世界一の貨物取扱量を維持していたそうで、船上では街の中心部以上の活気を感じることができた。また、ロッテルダムの中心地は、オランダの他の都市に比べて近代的なビルが立ち並び、キューブハウスと称される個性的な形態をしたマンション(写真5)が有名であり、街歩きも楽しかった。
写真4 バンケット会場の De Majesteit 写真5 キューブハウス4日間の会議は、Dick Bowdler 氏の閉会挨拶で閉じられ、次回のWind Turbine Noise は2019 年春頃に開催される予定であることが伝えられた。それまでに我々もさらに新しい知見を蓄積し、発表できるように準備したい。 また、今回、ドイツやスウェーデン、アメリカでは心理的影響や健康影響に関する大規模なプロジェクトの概要 が紹介されており、また、インドやチリ、アルゼンチンでは風車騒音の調査研究を始めたという報告もあり、次回以降の会議で研究成果が発表されることが期待される。