2016/ 1
No.131
1. 巻頭言 2. 岡小天特別賞とバイオレオロジー 3. 呼び出し電話 4. 多点監視用パーティクルセンサ KA-05
 

      <技術報告>
 多点監視用パーティクルセンサ KA-05


リオン株式会社 環境機器事業部 開発部  細 川  勉

1.はじめに
 多点監視用パーティクルセンサKA-05 は、主に無菌製剤製造の製薬会社や再生医療研究等の環境モニタリングにおいて、空気中に浮遊する微粒子の粒径と個数濃度の測定を目的とした多点センサである(図1)。
 医薬品の製造及び品質管理基準は、各国間で相互認証 を進める動きの中、PIC/S(医薬品査察協定および医薬品査察共同スキーム)が中心的存在となり品質基準の標準化が進められている。欧州主要国を始め、米国、日本も加盟している。
 PIC/S GMPガイドラインでの環境モニタリングは試料体積1 m³ 以上の採取が管理グレードにより必須、または推奨として求められている。現在、欧州はEU-GMP で、日本は「第十六改正日本薬局方」(JP)が公示され、 環境モニタリングが求められている。
 医薬・製薬市場ではセンサ多点システムと呼ばれる 1つの制御系で多数のセンサを動作させクリーンルーム等を管理する方法を用いることがある。センサ多点システムとしてリオンではKA-02 等を代表とする流量 2.83 L/min のセンサをラインナップとして揃えているが、現場では吸引量の多い多点パーティクルセンサへニーズが傾いており、流量28.3 L/min の多点監視用センサが主流になりつつある。
 本製品は、既存製品KC-31/32 と合わせた医薬・製薬市場への対応を充実させるために開発をしている。

図1 KA-05

2.概要
 KA-05は空気中に浮遊する微粒子の粒径および個数を光散乱方式により測定する。測定可能な粒子の最小直径(最小可測粒径)は0.5 μm であり、粒径区分は2段階(0.5 μm以上、5.0μm 以上)で、定格流量は 28.3 L/min である。
 リオン多点システム用インタフェースに対応しており、このインタフェースを通してセンサ多点システムに接続することができる。また、オプションで2系統のD/A コンバータインタフェースを搭載可能であり、4-20 mA のアナログ出力を有するので計測・制御装置への直接接続が可能である。システム概要を図2に示す。

図2 センサ多点モニタリングシステム 接続例

 

3.製品の主な特徴
3.1 各法規への対応
 PIC/S GMPガイドラインAnnexT、EU GMP及びJP では0.5 μm 以上と5.0 μm 以上の粒径が管理粒径として定められており、KA-05はこれら2つの粒径区分を有する。
 日本薬局方では、医薬製品を作るための条件の一つと して空気清浄度の最大許容微粒子数を規定しており、粒径0.5 μm 以上の浮遊微粒子数をコントロールすることとしている。表1はクリーンルームのグレードと最大許容微粒子数を示した表である。
 なお、粒径5.0 μ m 以上の浮遊微粒子数は定期的に測定し、傾向分析を行うことによって環境の劣化を早期に発見するための有効な管理項目である。

表1 グレードの分類

グレード
許容空中浮遊微粒子数(個/m³)
非作業時
作業時
大きさ
0.5μm 以上
5.0μm 以上
0.5μm 以上
5.0μm 以上
A
3520
20
3520
20
B
3520
29
352000
2900
C
352000
2900
3520000
29000
D
3520000
29000
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3.2 流量の大流量化
 クリーンルームの空気清浄度評価の規格にISO 14644-1 がある。空気清浄度評価は1 m³(= 1000 L)における 粒子の上限濃度で規定することになっている。  実際に1 m³ 以上の試料空気をサンプルする場合、こ れまでのKA-02 等の定格流量2.83 L/min タイプでは、 354回の測定を行うことになり、約6時間の測定を行う ことになる。対してKA-05 では定格流量が28.3 L/min と10 倍に大流量化しているので測定時間はこれまでの 1/10 の約36 分となり、モニタリングの確度を高め、早期に異常検知ができる。

3.3 多点監視システムへの接続
 通常のパーティクルカウンタはセンサ部、操作部、表示部、吸引ポンプが本体内にあるオールインワンタイプであるが、KA-05はセンサ部のみの製品であり、測定の ための操作部、表示部及び吸引ポンプを持たない。そのため、KA-05の制御は多点監視システムの中心となるソフトウェア(RP モニタEVO)から行われ、測定結果もコンピュータ上に表示される。これによりコンピュータ 上に複数の測定ポイントの測定結果を一度に表示することができる。

3.4 外部ポンプ1台で複数台のKA-05 と接続
 KA-05は 3.3 で述べたように試料空気をサンプルするための吸引ポンプを内蔵していないため、外部ポンプ (別売品)に接続をする必要がある。KA-05 を分岐用のアウトチャンバー(別売品)及び大流量の外部ポンプに接続することで、外部ポンプ1台につき最大4台の KA-05 を接続することができる。
図3 オリフィス

図4 流速- 圧力 特性

 

3.5 オリフィスによる流量制御
 ほとんどのパーティクルカウンタは自動流量制御機能を搭載しており、圧力センサを用いて流路の圧力値を常に一定に保つようフィードバックをかけることで流量制御を行っている。これは流体系とポンプが1対になっているため可能であるが、KA-05のような1つのポンプに対して多数のセンサが接続するセンサ多点システムの場合は、圧力によって一定流量を得る流量制御が一般的であり、KA-05ではアウトレットにオリフィスを内蔵して流量制御を行っている(図3)。

 オリフィスとは空気の流れの絞り機構の一種で、孔 (オリフィス径)のある板状の機構である。オリフィス径の大きさとオリフィス径の上流側と下流側で生じる圧力差を利用して流量を測定することができ、一般的には流量計やノズルなどに用いられている。
 圧力差がある条件を満たすとオリフィス径を通過する流速は音速で一定となり、流量も一定となる(図4)。


 KA-05 の流量制御は、− 60 kPa(ゲージ圧)以下の 真空源に接続することでオリフィス径を通過する流量が 28.3 L/min ± 5 % となるようにオリフィス径を設計し ている。
 なお、KA-05 は最大でチューブ長5 m のサンプリングチューブを接続可能な仕様であり、サンプリングチューブ を接続しても定格流量を得られるように設計をしている。

3.6 設置しやすい構造
 清浄度管理された環境下ではセンサ多点システムのレ イアウトによりセンサの設置場所の要望は異なってくる。
 KA-05 ではDIN レールへの固定が可能な構造とし、 壁掛けでの設置をすることが可能である。また、オプションでスタンドを用意し、卓上への設置も可能とす ることでシステムのレイアウトに応じた多様な設置を提案できる 。

3.7 耐薬品性の向上
 バイオクリーンルームでは機器の除菌をするために過 酢酸系除菌剤をワイパーに染み込ませて拭き取りを行うことがある。このため機器には耐薬品性を持たせる必要 がある。KA-05の筐体はステンレス製とすることで過酢 酸系除菌剤への耐性がある構造としている。また、拭き取りを容易に行えるように凹凸が少ないデザインとして いる。

4.おわりに
  近年の医薬・製薬の話題は再生医療であり、設置案件 も再生医療に関連した案件の割合が多くなってきている。このような状況の中、ニーズに合ったKA-05を市場投入することができた。今後の再生医療の発展に役立てれば幸いである。

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