2014/10
No.126
1. 巻頭言 2. ICBEN2014を終えて 3. シンバル 4. タッチパネルを備えた多機能計測システム
   

      <骨董品シリーズ その92>
 シ ン バ ル


理事長  山 下 充 康

 ゼンマイで動くサルの玩具があった。ギヤに鉄片が触れてギャーギャーと大きな音(啼き声)をたてながら両手に持ったシンバルを鳴らす(図1)。その後ゼンマイ は小型モータに変わり、動きは複雑になった。身体を激しく揺すり、歯をむき出しながらシンバルを叩き合わせるのだから喧しかった(図2)。このシンバル猿はいつ の間にか姿を消したが、当時 Made in Japan の玩具として輸出品の花形だったものである。ジェームス・ディーンが主演した映画「理由なき反抗」や、地上に巨大UFO が飛来する「未知との遭遇」などでは脇役として登場したシンバル猿である。

図1 ゼンマイ式のシンバル猿
図2 モータ式のシンバル猿
スイッチを入れると歯をむき出してシンバルを叩く(右)

 今回はそのシンバルを取り上げた。今日の西洋シンバルはオスマン帝国から広まったものといわれ、今でも上等なシンバルはトルコ製とされている。高級なシンバルとなると板を叩き伸ばすのではなく、細い針金を螺旋状に巻いて皿状に仕上げられている。叩き伸ばした板より も針金を巻いて造られたシンバルの方が音色は良いらしい。トルコ・イスタンブールの路地を歩くと真鍮の板を伸ばすハンマーの音があちらこちらから聞こえてくる。 土産物のシンバルを造っているのであろう。

 シンバルは両手に持って叩き合わせるほか、ロックンロールジャズに使われるドラムセットではハイハットとして活躍している。向かい合わせに上下に固定された2枚のシンバルをロッドに取り付け、ペダルを使って様々な音を作りだす(図3)。

 2枚を叩き合わせるクラッシュシンバルだけではなく、1枚だけを使うシンバルもある。これはサスペンデッドシンバルと呼ばれ、吊り下げられたりロッドで支えられたりした一枚のシンバルを、マレットやワイヤーブラシで叩いたり弦楽器の弓でヘリを擦ったりして様々な音を作る。20世紀に活躍したハンガリー作曲家、ベーラ・バルトークが好んで使った楽器である(例えば「二台のピアノと打楽器のためのソナタ」)。

 図4は台北で求めたもので、丸い中国帽子(チャイナハット)のような形をしていて真鍮の板を叩いて造られている(図5)。中央に取り付けられた赤い紐を手首に掛けて叩き合わせるとジャーンと物凄い音で鳴る。クラッシュシンバルの一種であるが、これはヒンズー寺院 で仏具として使われた物らしい。

図3 ペダル式のシンバル 「ハイハット」
図4 台湾製のシンバル
チャイナハット状に隆起した中心部が特徴
図5 叩き伸ばしたハンマーの跡

 ここまで紹介させていただいたのは直径が30 cm程の円盤状の板であったが、大きさは様々なものがある。神楽などでは笛や太鼓に交じって手のひら大のシンバルを打ち鳴らす姿も見られる。

 さらに小型の直径5 cm程のシンバルはフィンガーシンバルと呼ばれる。これを親指と人差し指に付け、カスタネットの様に打ち合わせながら踊ることもある(図6)。カスタネットはスペインのフラメンコの踊り、フィンガーシンバルはトルコのベリーダンスなどで多く見られるが、カスタネットの木の打ち合わされる音に比べ、金属の小皿の打ち合わされる音だから小ぶりながらカチャカチャと刺激的な音である。

 いずれにせよシンバルは金属質な激しい音が放射されるので、用途や出番の多寡によらずどのような場面でも 存在感を放つ楽器である。

図6 フィンガーシンバル
紐を親指と人差し指(または中指)に通して叩き合わせる

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