2013/4
No.120
1. 巻頭言 2. 第25回中華民国音響学会学術研討会 3. カ ウ ベ ル 4. 光散乱式気中粒子計数器 KC-31/KC-32
   

    <技術報告>
 光散乱式気中粒子計数器 KC-31/KC-32

リオン株式会社 環境機器事業部 開発部   齊 藤 光 秋

1.はじめに
 近年、医薬・医療関連業界は再生医療に関する活発な動きを示し、2012年10月にはiPS細胞に関して京都大学 山中教授がノーベル医学・生理学賞を受賞した。また、製薬業界においても、業界規模の売り上げは年々増加傾向にあり、アジア向け市場も高成長を遂げている。これら、様々な研究や実験、生産の背景には、厳重に管理徹底されたクリーンな環境が必要であり、それを保持するさまざまな技術が要求される。
 また食品業界においては、相次ぐ食品偽装問題や食中毒事件などを受け、食品の安全性に対する関心が高まっている。食品の高度衛生管理手法として導入が進められているHACCP (Hazard Analysis and Critical Control Point) は、原材料の入荷から製造・出荷までの全工程において、危害の発生を防止するための重要管理ポイントを継続的に監視・記録する方法であり、実施にあたっては空気清浄度が管理されたクリーンな環境が必須となる。
 本稿では、主に医薬品製造環境及び食品製造環境での空気清浄度管理を目的として開発した可搬型の光散乱式気中粒子計数器KC-31 / KC-32を紹介する(図1)。
図1 KC-31(左) / KC-32 (右) 概観

2.概要
 KC-31 / KC-32は光散乱式気中粒子計数器の必要要件を定めたJIS B 9921:2010およびISO 21501-4:2007に適合した、空気中に浮遊する微粒子の粒径および個数を光散乱方式により測定し、粒子個数濃度を求める装置である。KC-31 / KC-32ともに測定可能なもっとも小さい粒子の直径(最小可測粒径)は0.3 mであり、定格流 はKC-31が28.3 L/min、KC-32が50.0 L/minである。粒径区分はKC-31 / KC-32ともに6段階(0.3 m以上、0.5 m以上、1.0 m以上、2.0 m以上、5.0 m以上、10.0 m以上)であり、計数値の表示は測定時間および測定体積での累積値の表示と各粒径区分ごとの差分値を表示できる。また体積当たりの濃度に換算した値を表示でき、これらは測定中でも切り替え可能である。
 電源はACアダプタ又は内蔵バッテリ(最大2個搭載)から供給され、バッテリはリチウムイオン電池を採用する。KC-32はバッテリ1個の場合に3.5時間、バッテリ2個の場合に7時間の連続動作が可能で、KC-31はバッテリ1個で6時間、バッテリ2個で12時間である。

3.製品の主な特徴
 KC-31 / KC-32の主な仕様を表1に、また特徴を以下に示す。
表1 KC-31 / KC-32 主な仕様
仕様
KC-31
KC-32
粒径区分
6段階:0.3、0.5、1.0、2.0、5.0、10.0μm以上
定格流量
28.3 L/min
50 L/min
最大定格粒子濃度
28000000 個/m3
16000000 個/m3
体積換算
1L、28.3L、1000L、換算なし
測定値表示
累積値、差分値
表示部
5.7インチタッチパネル液晶
表示言語
日本語、英語
動作時間
バッテリ1個:約6時間
バッテリ2個:約12時間
バッテリ1個:約3.5時間
バッテリ2個:約7時間
寸法
203 mm(H)×260 mm(W)×266 mm(D)(突起部を除く)
質量
約5.5 kg(バッテリ1個搭載時)

(1) 大流量に対応したセンサを搭載
 医薬品製造環境の清浄度管理ではある決められた体積を測定する必要がある。この測定にかかる時間を短縮するために大流量を吸引する微粒子計数器が求められていた。
 本器はこれまでにない大流量を吸引するため、従来のセンサ設計を大きく見直す必要があった。吸引流量の増加に伴いセンサを通過する粒子の速度が高速になると、粒子の検出が困難となる。そこで大流 の吸引での粒子検出が確実にできるようにレーザダイオードとレンズから構成される照射系、フォトダイオードと受光レンズから構成される検出系を新規に設計し、最適化を行った。

(2) 自動流量制御機能
 KC-31 / KC-32では自動流量制御機能を搭載している。自動流量制御はセンサインレットに付ける負荷によらず、吸引する測定試料の流量を自動的に一定に保つ機能である。この機能は流路内の圧力を常時監視することで、ポンプの制御回路にフィードバックを掛けて流量が一定となるようにコントロールする。
 この機能により本器から離れた場所を測定する場合に最大10mのチューブを接続しても流量を保ち、安定した測定を行うことができる。

(3) 光散乱式気中粒子計数器の規格に対応
 光散乱式気中粒子計数器の規格はJIS B 9921:2010およびISO 21501-4:2007に定められている。KC-31 / KC-32はこれらの最新規格に適合した製品であり、測定の信頼性を向上させている。

(4) ISO 14644-1、EU-GMP Annex1の評価に対応
 ISO 14644-1はクリーンルームの空気清浄度を評価する国際規格である。またEU-GMP Annex1は無菌医薬品製造環境の基準を定めており、その中に空気清浄度の判定基準がある。
 ISO 14644-1については本体にクリーンルーム空気清浄度評価機能を有し、搭載しているプリンタで評価結果を印字出力することもできる。またEU-GMP Annex1については本体の測定データから、専用アプリケーションソフトウェアを用いることで判定を行うことができる。
図2 KC-32測定例

(5) 医薬・食品環境での使用を想定した筐体設計
 医薬・食品関連の製造現場では作業場所全体の滅菌消毒を行うことが通常行われている。そのため製造現場内で使用する測定器にも滅菌消毒に関する耐薬品性能が求められる。
 KC-31 / KC-32は筐体材料にステンレス(SUS304)を採用して耐薬品性を高めている。また本器の拭き清掃を行う場合の作業のし易さを向上させるため、筐体表面の凹凸を失くし、フラットな形状に仕上げた。

(6) 視認性・操作性・持ちやすさ
 KC-31 / KC-32では5.7インチタッチパネル付カラーディスプレイを採用している。タッチパネルにより直感的な操作が行え、また大画 とすることで視認性の向上はもちろん、作業者が手袋などをしていてもタッチパネルの押し間違いのない、確実な操作が可能となっている。
 重量はバッテリ1個搭載時で約5.5 kgであり、業界最軽量である。また寸法についても業界最小を実現した(図2)。
 内部の部品配置を考慮し、筐体全体の重量バランスの適切化にも配慮して、女性でも扱いやすくなるよう努めた。

(7) 2ヶ国語対応
 KC-31 / KC-32は確実な計測を実施頂くために、要望の多い日本語対応をおこなった。
 KC-31 / KC-32ともに英語・日本語での表示切替が可能である(図3)。
図3 測定画面表示例
日本語(左) / 英語(右)

(8) 出力端子
 KC-31 / KC-32はUSB A端子、USB B端子、Ethernet端子を備えている。
 USB A端子はUSBメモリを接続することで本体内に記録されている測定データをコピーして取り出すことができる。また本体の操作手順を記録して取り出すこともできる。
 USB B端子はUSB仮想COMポートを使用してコンピュータとの通信が可能となっている。
 Ethernet端子は多点システムコマンド体系に対応しており、TCP/IPを使用することで遠距離からの本器制御が可能である。
 工場オプションで4-20 mAの電流出力にも対応し、生産工程の制御装置などで測定結果のモニタリングが可能である。

(9) パスワード設定
 KC-31 / KC-32ではFDA(米国食品医薬品管理局)の申請書類の電子記録/電子署名に関する規則である21CFR Part11への対応として3段階の権限(管理者権限、使用者権限、ユーザー権限)を用意している。管理者権限は全ての設定変更を行うことができる。使用者権限は測定条件などの一部の設定変更を、ユーザー権限は上位の権限によって設定された測定条件に従って測定を行うことができる。
 管理者権限、ユーザー権限へのログインはパスワードで管理されている。これによりデータの改竄や予期せぬ操作等を防止し、測定データを信頼性のあるものにする。
 また各権限の本体操作の履歴を「Audit Trail」として本体メモリに記録する。これにより操作手順の管理を行うことができる。

(10) 環境に配慮した設計
 環境にやさしい製品開発を目指し、設計段階から環境へ与える負荷を軽減するように開発を進めた。
・ 全ての部品でRoHS対応品を採用し、鉛フリーはんだによる実装を行った。(グリーン製品)
・ 未操作時にディスプレイバックライトを自動消灯するPower Saveモード機能や、非測定時のレーザダイオード・ポンプの自動オフ機能により、省電力を実現している。

4.おわりに
 医薬・食品業界では清浄度管理が法律や様々な規制によって取り決めがなされている。これからも様々な法律・規制に対応することはもちろん、ご使用いただくお客様の目線に立った、使いやすい製品を開発していきたい。

 

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