2013/4
No.1201. 巻頭言 2. 第25回中華民国音響学会学術研討会 3. カ ウ ベ ル 4. 光散乱式気中粒子計数器 KC-31/KC-32
<骨董品シリーズ その86>
カ ウ ベ ル
理事長 山 下 充 康放牧されている牛たちの首に掛けられているのがカウベルである。雪を頂いた山々が聳える広々とした緑の牧草地にカランカランと鳴り渡るカウベルの音はいかにも牧歌的な風情を感じさせる。カウベルの本来的な目的が何なのかは定かではないが、放牧された牛の場所を特定するには便利な音信号であったことであろう。
図1 象ベル 図2 象使いの絵葉書カウベルの本体は金属で作られていて、内側に吊られた金属の舌が外側の金属の殻を叩くように作られている。象の首にぶら下げられていた木製の枠に括られた金属の鳴り物(図1)をタイで手に入れたことがあったが、これは象使いが自分の好みで取り付けた物であろう(図2)。ラクダの首にぶら下げたという木製のベル(図3)も飼い主の趣味で括られた物と考えられる。木製なので木魚のような音がする。カランコロンと音を鳴らしながら象やラクダが路を行く風景は「音風景」として楽しいものであったに違いない。
図3 ラクダ用の木製ベルカウベルはスイスの土産物として売られているが、実用的というよりもインテリアとしての役割か楽器としての役割が主になっている。ハンドベルというのがあるが、カウベルをハンドベルに利用した楽器がここに紹介するカウベルセットである。セットは細かく音程が規定されていてc, d, e, f, g, a, h, c(ド、レ、ミ、ファ、ソ、ラ、シ、ド)のオクターブ(ピアノでは白鍵)とc#, d#, f#, g#, a#の半音(ピアノでは黒鍵)、大小のカウベル全13ケがセットになっている(図4)。図中の特に大きいのはエーデルワイスの刺繍が施されたベルトに取り付けられていてインテリアとして使われたものである。
図4 1オクターブのカウベルセット
中央はインテリア用カウベル規定の音程を厳密に発するために、どのカウベルにも胴の部分に削り取った痕や、重さを増すための錘を付加された痕が残されている(図5)。おそらく個々のカウベルごとに音を確かめながら丁寧に手造りされたものであろう。1オクターブしかないので音域は限られているが、楽器として十分に役立つものであろう。
図5 カウベル本体の調音用の傷13ケのカウベルは音響科学博物館のガラスケースの一角に並べられている。これらの音はカウベルに特有のくぐもったような音で、いかにも牧歌的な音色である。玩具と言うよりも立派な楽器になっている。これらのカウベルの寸法は、一番低音のcは高さが約8.5 cm(把手除く)、口径約7.0 cm、高音のcは高さが約5.0 cm、口径約4.0 cmである。
小さな寸法のカウベルが小さなコーヒー店のドアチャイムとして使われているのを目にしたことがある。来客によるドアーの開閉をカウベル特有の落ち着いた音がコーヒーの香りが漂う店内に心地好く響きわたっていた。