2002/4
No.761. 創立60周年記念施設の完成 2. 創立60周年記念施設建築音響試験室棟 3. レコード針収納箱 4. 第15回ピエゾサロン
6. 創立60周年記念施設披露式開催
第15回ピエゾサロン理 事 深 田 栄 一
平成13年12月12日に小林理研会議室で第15回のピエゾサロンが開催された。山形大学工学部物質科学工学科の増子 徹教授が“液体粘度温度依存性の歴史的考察”の題で講演された。
高分子の多くは、低温では硬い固体であるが、温度が上がると軟らかいゴム状になり、更に温度が上がると液体になる。高分子の物性研究や成型加工には、粘弾性やレオロジーが重要である。特に粘性の温度変化が最も重要であり、その基礎的研究には既に百年近い歴史がある。
増子先生は1913年から1988年までに発表された18個の粘性温度依存式について歴史的な説明をされた。その中でも重要な式は次の二つである。
1930年、Andradeの式
ln η=C+D/RT (1)
ここで、η:粘性率、C,D:定数、R:気体定数、T:温度
1955年、Williams, Landel, Ferry(WLF)の式
log(η/ηg)=-C1(T-Tg)/{C2+(T-Tg)} (2)
ここでTg:ガラス転移温度、ηg:Tgでの粘性率、C1,C2:定数多くの高分子は低温では硬くてガラス状であるが、ある温度以上では軟らかくゴム状になる。このガラス状からゴム状に変わる温度をガラス転移温度と呼んでいる。この温度以上では分子間の自由体積が増加するため粘性 率が小さくなる。このWLF式はC1=17.44, C2=51.6とおくと、多数の高分子に適用することが認められた。しかし温度範囲がガラス温度の上約100℃までに限られる。
1988年に増子、Magillはより広い温度範囲に適用できる次の式を提案した。
Log(η/ηg)=A[exp{B(Tg-T)/T}-1] (3)
A,Bは定数である。ηgはガラス温度Tgでの粘性率であり、ηg=1013[ポアズ]とおく。ガラス転移温度では粘性率が一定の値をもつと考える。グルコースや低分子量ポリスチレンなど14個の液体について広い温度範囲で粘性率の測定を行った。測定値と数式を会わせる事により、A,Bのそれぞれの平均値を求めると、A=15.29,B=6.47となり、これらの液体ではほぼ定数であった。
数式(3)は温度範囲によって数式(1)や(2)の形に変形することも出来る。ガラス温度よりも高い広い温度範囲で10-0.1ポアズから1013ポアズにおよぶ広い粘性率の変化を表すことが出来る一般式である。
増子先生がこの式を提案されてから約10年が経つが、その後新しい粘度式は現れていないという。高温度での粘度式は高分子加工などの応用でも重要であるが、最近は基礎的で地味な研究は流行らないそうである。大学院の講義のような雰囲気のなかで、ご自身の多年の研究成果を含めて、粘度式の歴史的発展の過程について拝聴することが出来た。
講演後の懇談では、一次相転移のこと、ガラス温度付近での緩和現象のこと、結晶の塑性変形のこと、粘度の分子論的解釈、原子間力顕微鏡を用いるナノレベルのレオロジーなど、高度な学問的討論が行われた。
日本レオロジー学会の会長である増子先生からレオロジーの基本である粘度のお話を伺うことが出来たのは幸運であった。
文 献
T.Masuko and J.H.Magill, A Comprehensive Expression for Temperature Dependence of Liquid Viscosity, 日本レオロジー学会誌16, p.22,1988
山形大学 増子 徹教授 講演