1999/4
No.64
1. 20世紀と環境 2. 表面保護をした多孔質材料の吸音特性 3. 磁気録音機の元祖 ワイヤーレコーダ

4. 健康影響に基づいた騒音評価の方法

5. 第3回ピエゾサロンの紹介

  6. サーボ加速度センサ LS-10シリーズ
       <研究紹介>
 表面保護をした多孔質材料の吸音特性
建築音響研究室 杉 江  聡

1. はじめに
 防音パネルなどの吸音構造に用いられるグラスウールなどに代表される多孔質材料の表面保護には、繊維の飛散の防止や耐候性能を付加するためにフィルムが、外力による損傷を防止するために有孔板などが用いられる。

 一般的には有孔板とフィルムの音響特性はそれぞれ独立に扱うことができる。しかし、高架橋裏面などに防音パネルが設置される場合、有孔板とフィルムのそれぞれの音響特性の単なる重ね合わせでは説明できないほど吸音特性が変化してしまうことがある。それは、有孔板とフィルムが接触することにより、フィルムの動きを有孔板が阻害することによるものと考えられる。

 ここでは、有孔板のフィルムに対する音響的影響による吸音特性の変化の様子を解説する。

2. 表面保護をした多孔質材料の吸音特性
 100mm厚のグラスウール(32kg/m3)の上に、有孔板、フィルムを設置した場合の残響室法吸音率の測定結果を図1に示す。これより、有孔板のみを設置した場合、グラスウールのみの特性とほとんど変化はなく、フィルムのみを設置した場合はこれらに比べて、高い周波数領域で吸音率が小さくなっていることがわかる。よって、有孔板とフィルムを音響的に独立に扱うことができるとするならば、音響的に透明な有孔板をフィルムに重ねても、フィルムのみの特性とほとんど変化がないものと考えられる。ところが、測定結果はフィルムだけの場合に比べて、高い周波数領域で吸音率が著しく小さくなっていることがわかる。したがって、有孔板とフィルムとの間に何らかの音響的な作用が働いているのではないかと考えられる。 

図1 有孔板、フィルムの効果(残響室法吸音率)
3. 有孔板のフィルムに対する音響的影響
 そこで、吸音率波形のピークディップなどの微妙な変化を精度よく観測できる音響管による垂直入射吸音率を測定することによって、有孔板とフィルムの間の音響的な作用を検討する。

3.1. 測定装置および測定方法
 測定には内径100mmの音響管を用い、2マイクロホン法により垂直入射吸音率を計測した。管径から計算される測定上限周波数は、約2kHzである(測定結果の図中にある2kHz以上の値は参考値)。図2に示すように、安定した測定結果を得るために、フィルムが自重で多孔質材料と自然に接するような条件をつくるために音響管を鉛直に立て、剛壁部を下にして測定試料をその上に設置した。また、剛壁部は1mm単位で移動可能で有孔板とフィルムの距離を調節することができる。

 測定試料には密度32kg/m3のグラスウール(50mm厚)を使用した。有孔板には0.8mm厚のアルミ板を使用し、孔は60゜千鳥配列に開けた。フィルムとして、PVFフィルム(21μm)を使用した。 

図2 測定装置

3.2. 有孔板のフィルムに対する音響的影響
 まず、有孔板のフィルムに対する音響的影響を確認するため、図3のように有孔板と多孔質材料の間に設置するフィルムの位置だけを変化させて、吸音構造全体の垂直入射吸音率がどのように変化するかを検討した結果を図4に示す。 

図3 挿入されるフィルムの位置
 
図4 フィルムの位置による比較(垂直入射吸音率)
 結果より、有孔板とフィルムが接している場合の方が低域に吸音率のピークが現れ、高い周波数領域での吸音率が小さいことがわかる。この測定結果は、フィルムが有孔板の極めて近傍に位置する場合、有孔板の開口部付近のフィルムしか振動できなくなるため、実質的な吸音面積が小さくなっていることを示している1), 2)。よって、明らかに有孔板がフィルムに対して音響的な影響を及ぼしていることがわかる。  ところでフィルムだけが有孔板に接近するような状況は考えにくく、実際の吸音パネルなどでは多孔質材料をフィルムで包んでいることが一般的で、フィルムと多孔質材料は一体である。

 そこで、多孔質材料の上に敷いたフィルムと有孔板との距離が変化することによって、垂直入射吸音率がどのように変化するかを検討した(図5参照)。これより、有孔板とフィルムが近い方が高い周波数領域の吸音特性を低下させる結果となっている。特に、有孔板、フィルム、多孔質材料が完全に密着する場合(0mm)は著しく吸音率が減少してしまう。

 また、有孔板とフィルムの距離の増加と吸音率波形の変化の割合いとの関係に注目すると、距離が小さい場合(0mm、1mm、2mm)は、距離の変化に対する吸音特性のカーブの移り変わりが非常に急激であり、距離が2mm以上の場合では、その変化は比較的緩やかとなっている。高い周波数領域では、有孔板とフィルムとの距離をさらに大きくとると吸音率が大きくなることがわかる。 

図5 有孔板−フィルム間距離による比較
(垂直入射吸音率) 
4. まとめ
 有孔板、フィルム、多孔質材料で構成されている吸音構造体では、有孔板が与えるフィルムへの音響的影響に関して次のことがわかった。
 それら三体を完全に密着させることは著しい吸音率の低下を招いてしまうことになるため、有孔板のフィルムに対しての音響的影響を低減するために、有孔板とフィルムの間にある程度の距離を置く必要がある。
 高い周波数領域での吸音特性を低下させないようにするためには、多孔質繊維材と有孔板との距離をさらに大きくとる必要がある。

参考文献
 1)杉江ら「表面保護をした多孔質繊維材の吸音特性」
      日本騒音制御工学会講演論文集 317-320(1995)
 2)杉江ら「多孔質吸音材料の表面保護について」
      日本音響学会建築音響研究会資料 AA96-27(1996)

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