2008/7
No.101
1. 巻頭言 2. 弦の振動モードの実験装置 3. 第31回ピエゾサロン 4. 新型液中パーティクルカウンタ KE-40B/KS-42シリーズ
   

 
 音は多芸!

 

評 議 員  上 羽 貞 行

  「音で聞く」、「音を聞く」というのは、ごく自然な表現である。では、「音で動かす」、「音で見る」という表現はどうであろうか? 物理的にはれっきとした内容であるが、このような表現は初めて耳にするという方も多いのではなかろうか。

  「音で/を聞く」という場合にあっては、音圧という圧力変動で鼓膜を振動させ、この振動が液体を介して有毛細胞を刺激することにより、聴覚神経と脳により音の感覚を生じることを用いている。当然のことながら、主役である音圧は圧力変動であるから交流的である。

 一方「音で動かす」場合においては、音のエネルギー密度に応じた音響放射圧と呼ばれる直流的な力が主役である(注1)。例えば音場中におかれた板に働く音響放射圧を、板の回転角度あるいは傾きを測定することで、音のエネルギーの絶対値を測定法する方法があることはご存じの方も多いと思う。

 筆者らの研究グループは、平面状音響放射面からミクロンオーダーの狭い空隙を挟んで平行に置かれた平板状物体の間ではかなり大きな音響放射圧が働くことに着目し、この現象を近距離場音響浮揚現象と名付け、現象の解明とその応用であるガラス、シリコンウエーハなどの平板状物体の音波搬送アクチュエータの研究を進めてきている。これは音響放射圧で物体を浮揚させ、非接触で搬送する方法である。ではこのような放射圧で最大どの程度のものまで支えられるであろうか? これは狭い間隙にある音の媒質の体積弾性率で定められ、空気の場合およそ1平方センチメートル当たり1kgのものを浮揚させることが出来る。言い換えると音もそれなりに力持ちである。

 では、「音で見る」という機能はいかなるものであろうか? この機能を利用する装置としては、例えば光学的に不透明な物質の内部を調べる超音波探傷、水中で魚の集合状態を音波で調べる漁探、生体内臓器を調べる超音波診断装置などが典型例である。ここで挙げた例は、目の退化したコウモリが用いているエコーロケーションと同じで、音波パルスの伝搬時間と反射強度を映像化する方法である。「音で見る」方法は、音の波動性を利用するホログラフィーのような映像法を含め、一般に「アコースティックイメージング」と呼ばれ、現在でも血流分布、臓器の硬さ分布の映像化など、診断に有用な方法として盛んに研究されている。

 音は「聞く」という"芸"以外に、「動かす」、「見る」という"芸"があることに留意願えればと思う次第である。

(注1)一般に圧力は方向性のないスカラー量であるが、放射圧は伝搬方向に働くという方向性があるため、厳密にはベクトル量、応力である。フランス語では正確に音響放射応力として定義されている。

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