1990/1
No.27
1. 温故知新 2. NCB曲線(Balanced Noise Criterion Curves)の応用 3. 蝋管式蓄音機 Edison Standard Phonograph 1903 4. 音響測定器に関する規格の動向 5. ディジアナ表示で小型軽量な新世代の振動レベル計VM-51
      
 温故知新

所 長 山 下 充 康

 故きを温ねて新しきを知る。論語の一節である。

「過去を辿り、それを十分に消化した上で未来に対する新しい思考、方法を見つけるべきであること。現在は過去なくしては存在せず、かといって過去だけにとらわれていては新しい世界は展開しない。また過去を無視し去って、ただ新しきに着くのも、また失敗を招く」、と説いている。

 今年は当研究所が設立されて五十周年にあたる。今日の小林理学研究所を支える大きな礎は、理工学の研究に携わりながら、半世紀に及ぶ時の流れの中で培われてきた数々の成果の蓄積に他ならない。活発な研究活動が現在の研究所を特徴付けているが、目まぐるしく進歩する科学技術や多様化する社会的な要求への対応に追われるあまり、ややもすると研究者としての本来の使命がおろそかにされることに気付かずにいるのではないかと懸念される。

 数年前から、このニュースの紙面に「骨董品シリーズ」を掲載しているが、これらの古めかしい計測機器や実験器具などを手にするたびに感じるのは、素朴で、使い勝手こそ良くないが、真に科学する心が生み出した品々であることである。ここ数年、計測機器や実験装置は飛躍的に性能を高め、膨大なデータもコンピュータによって実に手際良く処理されるようになったことは、大いに喜ばしいことである。しかし、処理は容易になったものの、そのために本質的な課題が解決しているかと言うと必ずしもそうではない部分がある。処理に追われて、解決を忘れてしまってはならない。使命を終えて、実験室の棚の片隅に埃を被って休んでいるこれらの骨董品を見ると、そんな事を考えさせられる。

 今では引退したそれらの実験器具などを、応接室の一角にガラス棚を置いて、保管を兼ねて展示することにした。設立以来五十年の間には戦災や戦後の混乱期があったために、行方の分からなくなった品々が少なくないが、現存するものだけでも将来に残しておきたいと考えている。

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