新装された模型実験室
所 長 山 下 充 康
騒音振動第二研究室 山 本 貢 平
このニュースの創刊の誌上で縮尺模型実験について紹介したのは5年前である。その間、いくつもの基礎的な音響実験や特定の地域を対象とした騒音予測のための縮尺模型実験が行われてきた。
この部屋は10m×20mの床、模型の搬入搬出用の大きな扉、さらに模型製作室が付属するなど、道路交通騒音や鉄道騒音と言った大規模な模型実験を主な目的として建設されたものであるが、平滑な床面を持った広々とした空間は騒音伝搬特性、各種機器からの音響放射特性などの解明には絶好の実験室として多目的に使われている。
壁と天井の吸音処理は厚さ50mmのグラスウールを使った簡易なものであるが、縮尺模型実験では比較的高い周波数が取り扱われるので、この程度の吸音材料でも、実用面での支障はない。
これまでにこの実験室で得られた騒音予測や騒音対策などに係る研究成果は多数におよぶが、計測技術やデータの処理方法の急速な進歩に伴っていくつかの改善すべき点が生じてきた。
夏から冬にかけて、ほぼ6箇月の予定で改装工事を行って、このほど完了したので、新装になった実験室を紹介させていただく。
これまで、音圧レベルの測定装置などの実験機器は実験室の片隅に置かれ、模型やマイクロホン、音源などを目の当たりにしながら作業を進めてきた。測定の対象物とマイクロホンの位置関係を直接監視しながらデータを採取することが出来ることは、現象の把握に便利な部分が多かった。
以前はメータに指示される音圧レベルを手で書き取っていたが、コンピュータによるデータ処理に移行しつつある。これに伴って測定機器類は従来に比べて、種類が増えるとともにキイボードやフロッピイディスクなどのように極端に埃を嫌うものが使われるようになってきた。そうなると模型を出し入れしたり、工作をしたりする実験室の片隅にそれらの測定機器を置いておくことは好ましくない。
今回の改装の一つは、実験室と計測機器室の分離である。実験室の長手方向の壁面に隣接して計測機器室を建造した。実験室全体を見渡すことが出来るように広いガラス窓を設けて、二階の高さに計測機器室を位置づけた。
写真1の中央に白く見えるのは、実験室側から見上げた計測機器室のガラス窓である。
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写真1. 実験室側から計測器室のガラス窓(中央の白いところ)
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新設された計測機器室の外観を写真2に示した。
マイクロホンコードの引き込みや音源制御用のターミナル、空調機器制御盤などを二階部分に集中配置してある。
ガラス窓越しに見下ろす模型実験室は放送局のテレビスタジオのような風景である。前号でグルノーブルのC.
S. T. B. を紹介したが、そこの模型実験室も二階から大きなガラス窓を通して実験室を見下ろすかたちに造られていた。C. S.
T. B. のパンフレットに乗せられていた計測機器室の様子を写真3に紹介しておく。奥に見える白い部分が実験室側の窓である。
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写真3. C.S.T.Bの計測機器室(パンフレットから)
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もう一つの改装は実験室内の温度と湿度を制御するための空調設備の新設である。
写真1に太いダクトが見られるが、これらは新設された空調設備の一部である。外気の気温が-2℃から+33℃の条件で室内温度を25℃±2℃に保つことが出来る。なお必要に応じて室内温度を0.1℃ステップで20〜30℃の範囲で自由に設定することが出来るようになっている。室内湿度は45%±5%に保たれる。
このように室内の温度と湿度とを制御することは、実験値の再現性、反復性を実現するために不可欠である。特に実験が長期にわたる場合にはデータの信頼性を保つために、室内の空気の条件が変化することを避けなければならない。
実験室の容積はほぼ1800m3であるから、空調設備は容量の大きい強力な機械を設置した。また、実験室内の上下方向を含む4箇所に温湿度センサーを配し、計測機器室で監視できる様にした。これらにより、温度、湿度を一定に保つ自動制御が可能となっている。
従来はこのような設備が無かったために、データのチェックに非常に苦労を要した。特に気温の低い冬場にはデータが不安定になるので、その調整に骨を折った。というのは、実験を進める内に、不可解な異常伝搬が観測されるのである。原因は照明に用いていた天井の白熱灯で模型の表面が暖められ、微妙な温度勾配が生じることにあったのだが、それが解るまであれやこれやのディスカッションが交わされ、一時は不思議現象と言われるまでになっていたのである。
主な改造点は以上の二つ、すなわち、計測機器室新設と空調設備である。
大型の模型実験室が建設されたのが、昭和55年の秋だった。それから8年間が経過して、今回の新装により実験の作業能率や信頼性が大きく向上したものと考える。見学に訪れられた方々にはガラス窓から模型全体を見渡して戴けるようになった。機会があればぜひお立ち寄り願いたく、お待ち申し上げる次第である。
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付図 模型実験室の平面図
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付図 |
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空調機械室は実験室に隣接して建設されたが、振動が実験棟に伝わるのを防止するために構造的に独立させた |
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