2007/4
No.96
1. 研究者の倫理観考 2. 4th Joint Meeting of ASA and ASJ, inter-noise 2006報告 3. 空中聴音器

4. オープン補聴器リオネットロコ

   
      <会議報告>
 4th Joint Meeting of ASA and ASJ, inter-noise 2006報告

山 本 貢 平、吉 村 純 一、杉 江 聡、
大久保 朝直、児 玉 秀 和、土 肥 哲 也、横 田 考 俊

○ 4th Joint Meeting of ASA and ASJ
 日米音響学会のジョイントミーティングは、1978年に第1回が開かれて以来、今回が4回目の開催となる。会場はハワイのホノルルにあるシェラトン-ワイキキホテルであった。会期は2006年11月28日から12月2日の5日間であった。日本音響学会とは少し分類は異なるが、およそ14の分野セッションが組まれていた。主なものとして、海洋音響(水中音響),生物音響,建築音響,音楽音響,音響教育,音響技術,騒音,物理音響,心理・生理音響,信号処理,音声,構造物振動・音響などであった。小林理研からは山本がこの会議に出席したが、同じ場所でそのあと開かれるinter-noise2006にも出席するために、途中参加となった。会場周辺には日ごろ音響学会の研究発表会で見かける研究者を多数見かけた。事務局の発表によれば講演申し込み総数は1,600件あまり(日本からは約500件)、参加者総数は1,950名余り(日本人は約600人)とのことであった。

 出席したセッションは「屋外騒音の伝搬と予測」と名づけられたもので、私とUSAのKeith Wilson (US Army Cold Research Laboratory)がオーガナイザとチェアーを務めた。朝7:30スタートのセッションには少々閉口をしたが、関心のある研究者が多数つめかけた。伝搬問題は最近のコンピュータの高性能化を反映して、波動数値解析で論じられることが多くなった。特に、音の長距離伝搬では媒質の流れのシミュレーションに加えて、音響的シミュレーションが総合されるようになって来たのには目を見張るものがある。

 日米音響学会のジョイントミーティングでは、これまでもそうであったと聞いているが、毎夜様々な催し物が開かれていた。30日の夜には日米音響学会会長主催のレセプション、12月1日の夜はバンケット、2日の夜には日本音響学会主催のディナーである。バンケットでは食後に表彰式が延々と行われ、時差ぼけで眠い頭を悩ました。しかし、最終日のディナーでは、日本音響学会が創立70周年の古希を迎えたこと(鈴木陽一会長)、一方、アメリカ音響学会が77年の喜寿を迎えたこと(Anthony A. Atchley会長)などが披露され、お互いに祝福し、和気あいあいのうちにジョイントミーティングが終了した。   (所 長 山本貢平)
会場の窓から外の風景

 

○ inter-noise 2006
 引き続き同じ会場で、第35回となるinter-noise 2006が12月4日から6日の3日間の予定で開催された。 Closing Ceremonyでの報告によると、13会場において約640件の口答発表、42件のポスター発表があり、44カ国からの参加者は1,100人を越える大規模な学会となった。同じ会場で開催された,私の初めての国際学会参加であるinter-noise 84が、6会場で25カ国からの298件の発表であったのと比較すると隔世の感がある。当所からは所長と私、後にそれぞれ会議報告をしてくれる若手の所員を含めて7名の参加であった。

 Opening Ceremonyでは過去34回の開催地と実行委員長とともにinter-noiseの歴史が紹介され、84年から始まる私の参加経験とその頃の年齢を思い出し、懐かしく感じた。会期中は、朝8時からDistinguished Lectureがあり、興味ある話が聞けそうであったが、自分の発表準備と時差ぼけが災いして、いずれの日もTechnical Sessionの始まる時間に会場入りとなった。

 参加したセッションは、Track Organizerを仰せつかったNC (Noise Control Material)の一連のセッション(固体音・床衝撃音,マフラー・吸音材料,建物構造の側路伝搬音,透過損失)のみで、会場が狭いせいもあり、常に満員で立って聴く人も多くみられた。初日はOrganizerをお願いしたカナダNRCのNightingale氏と座長を務め(隣に座っていただけ)、二日目は連名者の発表、三日目のSound Transmission Lossのセッションで自分の発表と、三日間とも同じ会場に居座ることとなった。

 今回も発表準備は現地入りしてからということになってしまい、原稿は10ページも書くものではないと後悔しつつ、当日の朝の5時までに32枚のスライドと発表原稿を作り上げた。このため、発表を聴いてくれた人に、目が回るようだった、と後で言われるほどめまぐるしくスライドが入れ替わることとなってしまった。終了後に建築音響の分野で著名なオーストラリアのJ. Davy氏からお褒めのコメントをいただき、セッション終了後にも発表内容について、Nightingale氏を含めて多少ディスカッションできたことが有意義であった。しかし、帰国後別の国際会議へのお誘いが届き、お褒めの言葉も多少興ざめしてしまった。

 会期中当会場では、ほぼ製品紹介に近い発表をする人、「社外秘」と英語と日本語が書かれたスライドで発表する人、小型のデジカメで発表画面を残さず記録する人など、学会発表の場とはいえ情報管理が求められる場であることをあらためて感じさせられた。  22年ぶり2回目のハワイ・ホノルルは、まるで日本にいるかのごとく暖かく我々を迎えてくれたが、着いた翌日から和食が恋しくなるのはなぜであろう。ビール好きの私には、どこのお店でもすり切れいっぱい入れてくれるのは嬉しいが、泡の無いビールは琥珀色のジュース?のように思えた。84年の同じ学会では、実行委員自らテクニカルツアーのバスのガイド役を務めるなどアットホームな大会運営が、私の強い印象として残っている。同じ開催場所であったためつい比較してしまうが、1,000人を超える参加者では望むべくもないことだろう。   (建築音響第二研究室長 吉村純一)
会場の様子

 

 この3月から国際線の航空機内への液体物持込制限が導入されたが、当時、同様な制限が米国行き便については既に適用されていた。そんなこととはつゆ知らず、その旨を空港で聞き大慌てであった。コンタクトレンズの保存液や目薬等、意外に液体を持っているのである。しかし、搭乗口まで行くと、小さな透明ビニールに入れれば問題なしということでひと安心。ちょっぴりドキドキのinter-noise 2006への出発であった。

 建築音響関係の発表は、主に“Waimea Canyon”という会議室で行われた。定員がおおよそ50名であったので、常に出入り口付近で立ち見が出るほどの満員状態であった。会議室全体に一体感があり有意義な議論が進められた。他のセッションも含めて、遮音や吸音関係の発表件数を数えてみると、床衝撃音、空気伝搬音遮断性能および吸音に関連した発表は、それぞれ概ね10件、30件および15件であった。その中から、私の発表内容と印象に残った数件を紹介したい。

 私は、乾式二重壁の中空部に多孔質材料やヘルムホルツレゾネータを挿入することによる低い周波数領域における遮音性能改善について発表した。レゾネータについていくつかの質問をされたが、上手く答えることは出来なかったものの、低い周波数での遮音性能改善におけるレゾネータの有効性を示すことが出来たと思う。

 これと関連して、Micro-perforated panel (MPP)を自動車のドアの中空内に設置することによって遮音性能を改善するという発表があった。MPPとは、直径1 mm以下の孔で構成された有孔板のことで、一般的な有孔板に比べて広い周波数範囲を高い性能で吸音できるという特徴をもつものである。この発表では、MPPの設置位置と遮音性能について数値計算を用いて詳細に検討されており、たいへん参考になった。また、MPPの吸音特性についても2件の発表があり、MPPが認知されつつあると感じた。

 次に、二重壁内にHeやCO2などのガスを充填した場合の遮音性能についての発表があった。以前から複層ガラスの中空内に同様なガスを充填した場合、空気に比べて大きく遮音性能が変化することは知られている。この発表では、ガスの物理特性(密度、音速)と遮音性能との関係を、シミュレーション計算を用いて考察し、二重壁内にガスを充填したアルミ箔の袋を挿入した実験を行っており、たいへん面白い内容であった。

 国内の研究会発表会に比べると音響材料に関しての発表が多く、私にとっては刺激的な日々であった。そして、最終日の朝の雨上がり、ふと空を見上げるときれいな虹。ちょっぴり幸せな気分になり帰路についた。   (建築音響第一研究室 杉江 聡)

 

 旅行代理店に書類を提出するまで、パスポートが切れていることに気づかなかった。10年前に同じハワイで行なわれたJoint Meetingに参加したときに作ったので、開催間隔を考えれば当然だった。再交付はなんとか間に合い、海外発表デビューの地を再び訪れてinter-noise 2006に参加した。

 2日目の朝、遮音壁に関するセッションで、先端改良型遮音壁の性能評価法について発表した。似て異なる評価法がCEN/TSとして発行されているため、欧州の研究者からどのような反応があるのか、以前から気になっていた。セッションの座長はそのCEN/TSをまとめたメンバーの一人だったが、発表後に好意的なコメントをいただき、ひとまず安心した。また、性能評価結果を応用した騒音予測計算法の中で大いに参考にしている論文の著者と、直接話すことができた。彼の論文の方法では単純壁しか扱えないので、予測対象遮音壁を拡張できることについて感謝のコメントをいただいた。

 ハワイは2年前にも私用で訪れており、今回で3度目の渡航であった。観光への興味は完全に失せていたので、自分の発表以外の時間もほとんど会場で過ごし、道路騒音と屋外騒音伝搬に関する発表を中心に聴いた。

 韓国の研究者から、日本や欧州の道路騒音予測法を参考に、独自の予測法を構築中との発表があった。走っている車は日本とほぼ同じなので予測法を踏襲したいが、日本に少なく韓国に多いコンクリート舗装の扱いが課題とのことだった。香港では幹線道路沿いの高層住宅に関する騒音予測と対策手法に関する大きなプロジェクトが終わったばかりらしく、関連する発表が数件あった。プロジェクトの報告書を受け取ると、字体は少し違うが「騒音」「環境影響評価」らしき漢字が目次に並んでいた。東アジア同士の親近感を覚えた。

 屋外騒音伝搬における気象影響に関する発表が、欧州の研究者から数多くあった。数値解析や可視化の技術は先進的であると感じた。日本では幹線交通に近い住居は不動産価値が高いのに対し、欧州の都市計画では基本的に幹線交通を住居地域から離しているという印象がある。もしそうなら、日本の騒音予測では遠距離伝搬の気象影響は考えなくてもよいし、逆に欧州では気象影響なしには騒音伝搬を考えることができない。騒音予測の需要の違いが、研究のお国柄として現れるのかもしれない。   (騒音振動第一研究室 大久保 朝直)

 

 本学会では、セッションAN3: “Physics of Active Noise and Vibration Control”で“Sound Shielding Control of Curved Piezoelectric Sheets Connected with Negative Capacitance Circuits”を口頭発表した。ここでは圧電性ポリフッ化ビニリデン(PVDF)シートと、それより電気機械結合係数が5倍大きなPZTファイバーコンポジットシートについて、負性容量回路による遮音性能制御の特性を比較し、結合係数の大きなPZTシートでは周波数特性を含めたコントロールが容易であるという実験結果を示した。圧電材料による制御では高電圧が必要になることが多く、ここでも質疑応答で消費電力に関する質問があった。

 本セクションで興味深い発表を幾つか紹介する。我々の他に、圧電シートを用いた音・振動制御について、Joshua Lee氏(Boeing Phantom Works, USA)による報告が“Finite Element Analysis of Active Structural Acoustics Control using Smart Foam”というタイトルで行われた。ここで取り上げられたスマートフォームは質量層(鉄板)ポリウレタンフォーム、そしてPVDFシートで構成される。音を放射する板の上にこのフォームを乗せ、放射音の低減を図る。制御周波数帯域は100Hzから500Hzで、放射音圧と制御電圧の周波数特性を評価している。

 また、Yohko Aoki氏等(University of Southampton)は16枚の三角形の圧電セラミックスアクチュエータを制御対象パネルの周囲に備え、速度フィードバックコントロールによるアクティブダンピングを行った。100Hzから700Hzの周波数帯域で共振ピークを18dB減衰した。

 このように、圧電材料を用いた音・振動制御においてアクチュエータの形状を工夫することによって面全体から放射する音を効率よく減衰させる研究が印象強い。   (圧電応用研究室 児玉秀和)

 

 低周波音についての発表は、2つのセッション(Low-Frequency Noise and Infrasound I, II)で行われた。低周波音の研究をしている者として、同じ会場に1日居れば16件の低周波音についての発表が聞けるというタイムテーブルは、前回のinter-noise 2005で低周波音のセッションがなかったことを考えると有意義だと感じた。

 発表者の内訳は、日本が最も多く6件、次いでアメリカが3件、デンマークとノルウェーが2件、韓国・中国・フィンランドが1件であった。日本からの発表が多く、次が主催国のアメリカであることは会議全体の比率を考えれば想定内といえる。むしろ筆者は広大なアメリカでどのような低周波音問題があるのだろうという疑問を持っていたが、アメリカからの3件の発表すべてが空港や軍事基地周辺での低周波音を対象としていたので納得した。

 発表内容は、低周波音についての聴覚閾値や生理影響などについての報告が最も多く、他には長距離伝搬や建具のがたつきの発表も何件か見られた。筆者が報告した高速鉄道によるトンネル微気圧波の内容は、このセッションではかなり異質なものとして受け止められたと思うが、国土の狭い日本独特の低周波音問題を改めて伝えたことに意義があると勝手に確信している。

 印象に残った報告を2点ほど挙げる。

1.フィンランドのKari Saine氏等は、低周波音のガイドラインの必要性について議論しており、その中で各国から出されている人的影響に対するガイドラインにはばらつきがある点を指摘していた。ちょうど産総研の倉片憲治氏から聴覚閾値のばらつき評価についての発表があり、興味深かった。なお、発表後の質疑応答では「ガイドライン」の定義についての議論が活発に行われ、法的拘束力のある基準値、アセスメントなどに使う推奨値、感覚閾値などの違いについて各国の情報がやりとりされていた。低周波音の基準値で法的拘束力がある国は現在のところ台湾だけのようである。世界的には低周波音についてのガイドラインを決める方向にあるとこの会議から感じたが、その値が決まるには時間がかかるだろう。

2.アメリカのDaniel H. Robinson氏等の発表は、航空機騒音によるがたつきについて簡単な物理モデルにより建具の揺れ易い周波数を求め、現地実験で確認している。その中で、がたつきの発生状況を、建具の加速度の周波数分析結果などで整理すると対応関係が分かり易くなる報告が印象に残った。

 なお、セッションの最後で山梨大の山田伸志先生から次回のLow frequency 2008(2年に1度ヨーロッパを中心として開かれる低周波音に関する国際会議)が日本で行われる旨が報告された。   (騒音振動第三研究室 土肥哲也)

 

 屋外における音の伝搬に関して2件の発表を行った。今回が初めてのinter-noise出席であり、また屋外音響伝搬に関する英語発表も初めてであった。

 3日間の会議において、屋外音響伝搬に関しては3つのセッションと1つのDistinguished Lectureが2日目の夕方から3日目にかけて行われた。会議前半は、航空機騒音など様々なセッションを回ったが、内容を理解し勉強すると言うよりも、自分の発表までに英語に耳を慣らして質疑応答に備えなければと言う感が強かった。

 屋外音響伝搬のセッションでは、長距離伝搬実験の報告が非常に多いという印象を受けた。これまで海外の論文等を読み、近年は実測よりも計算手法の開発に主眼がおかれているという印象を持っていた。しかし今回の会議では、計算手法に関してはすでに開発が終わり、計算に必要な気象パラメータのデータ収集および予測計算の妥当性の検証へと段階が進んでいるという印象を受けた。気象パラメータについては、非常に大規模なシステムによるデータ収集が行われており、また、高精度の気象予測手法の適用によるモデル化も検討されていた。気象予報を基に気象条件に合わせた音の伝搬量を予測するという考えも紹介された。

 私の発表に関しては、2件目のPE法とFDTD法を組み合わせる計算手法についての発表が、会期中2回目の発表のため多少落ち着いて説明ができ、関心を持ってもらえたと好感触を得て終えることができた。  会議終了後、さらに2日間ハワイに滞在した。オワフ島1周観光、ワイキキビーチでの海水浴、トロピカルカクテル等々、十分にハワイを堪能することができた。

 今回はinter-noiseの直前にジョイントミーティングが10年ぶりに開催されたが、前回開催された10年前はちょうど私が音響の勉強を始めた年であった。思い返せばその時は、まさか10年後に自分がハワイで発表するとは思ってもおらず、研究室の先生・先輩方が皆ハワイに行っているのを良いことに、国内旅行を楽しんでいた。今回は、10年後にまたハワイで発表出来るようがんばらなければという気持ちで帰途についた。   (騒音振動第二研究室 横田考俊)

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