2006/7
No.92
1. 五十嵐 寿一先生の思い出

2. 河合平司先生を偲ぶ

3. スキャニング法による音響パワーレベル測定 4. 骨 の 笛 5. 第26回ピエゾサロン 6. 耳管機能検査装置 JK-05
       <技術報告>
 
耳管機能検査装置 JK-05

リオン株式会社 聴能技術部  野 島 康 生

1.はじめに
 耳管機能とは主に鼓膜によって外気と遮断された中耳内の換気機能および圧力開放機能を指す。この換気・圧力開放は耳管と呼ばれる管を介し鼻腔に行われる。通常では耳管は閉じて中耳は密閉された状態に置かれるので、航空機等への搭乗による周囲の急激な圧力変化を受けると中耳側の圧力は追従することが出来ず、鼓膜に張力の変化を与え圧迫感や音の聞こえに変化をもたらす。この様な時には嚥下(つばを飲み込む事)により耳管周辺の筋肉運動に伴って耳管が開き、中耳と外気圧との均衡が回復して圧迫感が解消される。耳管機能検査装置はこの様な嚥下に伴う耳管の圧力開放の過程を音響的、或いは圧力的に捉えて画面に表示し、医療現場に措ける耳管機能の検査をより簡潔に行うことを目的とした医療機器である。

図1 耳管機能検査装置 JK−05

2. 耳管機能検査
1) 音響法
 被検者に嚥下運動を行わせ、開放する耳管の様子を音響的に捉える検査である。音響法用スピーカにより被検者の鼻咽腔に提示されたバンドノイズは耳管を通過し中耳に達する。この時、被検者の外耳道にマイクロホンを取り付けたプローブを挿入しておき、被検者に嚥下を行わせると耳管が正常に開放すれば鼓膜を透過したバンドノイズレベルが上昇する。このレベル変化を経時的に記録、さらにその持続時間から耳管の開閉時間を測定する検査である。音響法での測定画面例を図2に示す。
2) インピーダンス法
 被検者の外耳道に装着したイヤホン及びマイクロホンにより、被検者にバルサルバ(耳抜き)をさせて耳管を開かせることで生じる中耳腔の圧力変化、および嚥下運動による圧力解消の過程を鼓膜のコンプライアンスの変化として検出することで耳管の状態を調べる検査である。インピーダンス法での測定画面例を図3に示す。

図2 音響法での測定画面例

図3 インピーダンス法での測定画面例

 3. 耳管機能検査装置  JK−05の構成
 本器は、音響法スピーカ、音響法・インピーダンス法用プローブ、鼻咽腔圧検出チューブと耳管機能検査装置JK−05本体で構成される。その詳細を図4のブロック図に示す。
1) 音響法スピーカ
 音響法スピーカは被検者の鼻咽腔に中心周波数7kHzのバンドノイズを与える装置である。被検者はスピーカ先端部を鼻孔に押し当てて鼻咽腔内にバンドノイズを導く。JK−05では新設計の音響法スピーカを採用し、当社従来製品よりも大きな音圧レベルが得られる。
2) 音響法・インピーダンス法用プローブ
 JK−05では当社従来製品で分離していた音響法とインピーダンス法のそれぞれの検査に使用するプローブを一体化し、検査に伴うプローブの交換を必要としない構成とし被検者への負担を軽減した。音響法・インピーダンス法用プローブの外観を図5に示す。

図4 JK−05 ブロック図

 

図5 音響法・インピーダンス法用プローブ

3) アナログ部
 音響法・インピーダンス法用プローブによって検出される被検者の外耳道音は、増幅器によって適正なレベルに増幅されA/D変換される。音響法で用いる中心周波数7kHzのバンドノイズはDSP(デジタルシグナルプロセッサ)により演算されたランダムノイズから生成し、アッテネータを備えた増幅器を用いて音響法スピーカから出力する。インピーダンス法用の226 HzプローブトーンはDSPにより作られ音響法・インピーダンス法用プローブのイヤホンから被検者の外耳道に出力される。インピーダンス法に用いる鼻咽腔圧は被検者の鼻腔に検出チューブを押し当て、本体内の圧力センサまでチューブにより導かれ電気信号に変換される。
4) 演算処理回路
 A/D変換されたデジタル信号は、DSPで音響法用の7kHzバンドノイズ検出処理、インピーダンス法用プローブトーン226 Hzの信号検出処理を行う。音響法では7kHzのバンドパスフィルタ、検波、を行いCPUに値を渡しdB値に変換する。インピーダンス法はプローブ内のイヤホンから226 Hzのプローブトーンを被検者の外耳道内に出力し、プローブ内のマイクロホンで検出されたプローブトーンのレベルが予め決められた一定値になる様にDSP内でAGCを構成して制御する。被検者の中耳と外界の間に圧力差が生じて鼓膜に張力の変化が有れば鼓膜の音響インピーダンスの変化としてAGC回路電圧変化が現れ、この値をCPUに渡しコンプライアンス値として表示を行なう。当社従来製品はこれらの処理をハードウエアにより実現していたが、JK−05では全てDSPによる演算処理とした。
5) 表示・及び操作
 DSPで演算した結果はCPUに渡され各単位系への変換が行われ測定値となる。測定値は変化をグラフ化し、見やすい形式にして液晶表示画面に表示を行う。各検査方法は独立した検査法の選択スイッチにより迅速に切換えが可能である。また各検査のグラフ表示は最大で45秒間まで保持され、検査後にロータリーエンコーダを用いて容易にスクロール表示し、必要な部分を内蔵のプリンタで印字する事も可能である。

4. 耳管機能検査装置 JK−05の特徴
 当社従来製品の耳管機能検査装置JK−04Aの後継機として、次の項目を主眼にして開発を進めた。

1)
耳管機能検査試験項目を音響法とインピーダンス法に絞り、本体価格を低く抑える。
2)
音響法スピーカと音響法プローブは新規に設計し、音響法スピーカは出力音圧を従来品よりも高くする事、音響法プローブはインピーダンス法プローブとしても兼用とする事。
3)
アナログ回路の大半をデジタル信号処理化し、性能の安定化と製造工数を削減する。
4)
関係機関との連携により、市場の要望を可能な限り製品に反映する。

5. 終わりに
 ここに紹介した、耳管機能検査装置 JK−05は、JIS T 0601−1:1999(医療機器−第一部:安全に関する一般的要求事項)適合に加えて、JIS T 0601−1−2:2002(第二節:副通則−電磁両立性−要求事項及び試験)に適合した医療機器として要求される安全性確保はもとより、本体の操作性の向上、データメモリ機能などを備え、今後この分野に大きく貢献するものであると考えているが、引き続き皆様のご意見を伺いながら、製品品質向上に勤めてゆく所存である。

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