2005/4
No.88
1. 深田研究室50年の歩み

2. 超音波の光学的可視化

3. 鉛蓄電池(可搬型直流電源) 4. 第24回ピエゾサロン 5. 1/2インチ エレクトレットマイクロホンUC-57
        
 第24回ピエゾサロン

顧 問 深 田 栄 一

 平成17年2月4日に小林理研で第24回ピエゾサロンが開催された。東京工業大学精密工学研究所の中村健太郎助教授“光や光ファイバを用いた音の測定”の題で講演された。
  音を光で見ることが出来ないかという魅力的な設問がある。今回の講演はそれが可能であるという答えであった。また光ファイバを用いたマイクロホンの最新の技術も紹介された。
東京工業大学 中村健太郎助教授 講演
音圧を光学干渉計で測る方法
  音は空気の疎密を生じ、光の屈折率の変化Δnを生ずる。Δnは音圧pに比例する。光が長さlの音場を通ると、Δnlの光路長の変化が生じるので、これをレーザードップラ干渉計(LDV)で測ることが出来る。図1のように、LDVのふつうの使用法は固体壁の振動速度をレーザー光の反射と干渉で測るのであるが、固体壁を固定しておいてレーザー光を反射させ、途中の光路長の変化によるLDVの出力から音圧pを測定することが出来る。
空気の屈折率はn=1.0002765であり、音圧の絶対測定は難しそうであるが、校正したマイクロホンとの比較で、250Hzから27kHzの範囲で誤差は10−20%に過ぎなかった。
図1 光による音圧測定の原理
  図2は直径20oのランジュバン振動子からの28.2kHzの放射音場の二次元分布を、LDVで測り可視化したものである。医用機器のCTの手法を用いれば、音場の三次元的分布を現すことも出来る。
図2  放射音場の二次元分布
  光線をはりめぐらせて大きな受音面積を作ることも出来る。図3は廊下の両側に多数の鏡を配置して、レーザー光の受音面をつくったものである。2kHzの音の波長はλ=17cm であるので、横幅152cm(9λ)、縦幅123cm(7.2λ)の面積がある。この面には指向性があり、音の入射角が縦方向に8°、横方向に10°以内でないと感度がない。遠方で音源を横方向に動かすと、面の中央に来たときだけ音が聞こえる実験がビデオで示された。
図3 鏡を用いた大きな受音面
粒子速度を光のドップラ効果で測定する方法
  レーザードップラ干渉計によれば、固体壁を用いなくても、空気中の音場にある粒子の速度をドップラシフトによって測定することができる。しかし、レーザー光の奥行きの位置の分解能を得ることが難しい。そのために、光波長捜引法、光コヒーレンス法、パルスドップラ法などを試みた。後述するファイバブラッググレイチング(FBG)光ファイバを用いて、光源のコヒーレンス長を調整した結果、ハーフミラーと圧電PZTによる環状定在波との間隔3oの奥行き分解能の観測に成功した。また音響管のなかにポリエチレン膜を配置することで、定在波の存在を確認することが出来た。

光強度変調型マイクロホンアレイ
  図4の右図のように2本の光ファイバの間隙に振動板からでたシャッタを挿入すると、音圧に応じて2本の光ファイバ間の伝送光量を変調できる。図4左図は、縦横に8本ずつ並べた光ファイバの各交点に図4右図の強度変調素子を全部で64個配置した二次元マイクロホンを示す。横方向の光ファイバには光源が、縦方向の光ファイバには受光器が接続されている。光源を高速で操作すると、交点の素子の音圧を、受光器列でマトリックス的に読み出すことが出来る。二次元音場の変化を実時間で観測することが出来る。
図4 光ファイバマイクロホンアレイの構造
干渉型ハイドロホンアレイ
  光ファイバの光路長は周囲の圧力によって変化するので、伝播光は音圧によって位相変調を受ける。光ファイバ自体が音圧センサになる。図5の左図のようにマッハツェンダー干渉計の一つの腕に音圧が加わると、光路長が変調されるので、音圧に応じた干渉出力変化が得られる。
  このようなセンサをはしご型に配列すると、時分割型アレイを作ることも出来る。図5右図のA−Eの位置にそれぞれ左図のセンサを配置する。それぞれのセンサで光源から受光器までの光路長が異なるので、各センサA−Eでの音圧信号が時間的に遅れて得られる。

図5 マッハツェンダー型ハイドロホン

光波長変調型光ファイバ
  図6(a)は光ファイバ先端部に微小なファブリペロー共振器を設置したもので、共振によって鋭い反射スペクトルが得られる。また図6(b)は光ファイバのコアの屈折率を周期的に変調させたものでファイバブラッググレイチング(FBG)と呼ばれる。ブラッグ反射による鋭い反射スペクトルが得られる。どちらの場合も音圧によって、反射スペクトルの中心波長が変調される。

図6 光ファイバに特殊な加工をしたセンサ

  図7の左図はFBGファイバの反射スペクトルを示す。音圧が加わると、スロープのところで反射強度が鋭く変る。右図はチタンの振動膜にFBGファイバを結合したマイクロホン素子を示す。この素子を図5と同じように、同じ光ファイバ上に多数個配列することによってアレイシステムを構成することができる。
  光で音を測定することと、光ファイバで音を測定することの二つについて、最新の高度の技術について豊富な内容の講演であった。到底そのすべてを紹介することは出来ない。盛んな討論が行われたが、最後に山本所長が音響学会の中に光と音に関する研究会があっても良いと提案された。今後大きく発展する研究分野である。
図7 FBGマイクロホンの構造と原理
参考文献
中村健太郎、応用物理73,1433 (2004)
http://www-ueha.pi.titech.ac.jp/index-j.html

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