2004/1
No.83
1. 謹んで新年のお慶びを申し上げます 2. inter-noise 2003 3. レコード盤収納用キャビネット 4. サーボ加速度計 LS-40C
       <会議報告>
 
inter-noise 2003

加 来 治 郎、土 肥 哲 也、平 尾 善 裕、松 本 敏 雄

 騒音振動に係る国際会議inter-noise2003が平成15年8月25日〜28日の3日間にわたって韓国の済州島で開催され、小林理研から五十嵐名誉顧問をはじめとして加来、吉村、松本、平尾、土肥の6人が参加した。ご存知のように昨年暮れからSARSが東アジアにおいて猛威を振るい、この会議も一時は開催が危ぶまれたが、7月の時点で終息を迎えたことにより予定通り開催された。しかし、その影響もあって欧米からの参加者が減少し、予定された委員会やテクニカルツアーの一部が中止になるなど9.11同時多発テロの後遺症のあった米国でのinter-noise2002と同様の状況であった。欧米人にとってはSARSの流行した香港や中国とほとんど患者の出ていない韓国との区別が出来ていないのかもしれない。ともあれ、一昨年に続いて日本が開催国に次いで参加者数でダントツの第2位を占めることとなった。

表 国別の参加者数(10名以上)

 会議の全般的な印象としては、一部にプロジェクタの不具合は見られたが概してスムーズな運営が行われ、ポスターや機器の展示会場のレイアウトなど今年我国で開催されるICA2004にとっても参考にすべき点が多々あった。韓国の研究者の発表については多くを聞いたわけではないが、ポスター等を見た限りでは、とくに我国の研究発表と内容やレベルの面で大きな差は感じられなかった。パソコンのDRAMで我国を打ち負かした底力を有する国であり、将来においては騒音振動の研究の分野でもよきライバルになるかもしれない。

 個人的な印象として五十嵐先生(1916年生)とPer V. Bruel(1915年生)のお二人について少しだけ述べさせていただく。五十嵐先生は、招待論文として我国がこれまでに実施してきた騒音に関わる政策を、主に航空機騒音を中心に発表された。内容とともにその流暢な英語は聴く人に少なからぬ驚きを与えたに違いない。聞けば今年チェコで開催予定のinter-noise2004でも招待講演の話が来ているとのことである。一方、世界的な計測器メーカのB&Kの創始者であるPer V. Bruelは、昨年が日本で言う米寿の満88歳である。いくぶん背は丸くなられたようにも見えるが、自社の展示ブースのセッティングを一人で黙々とされている姿を見ているうちにこれが技術者魂というものかと頭の下がる思いがした。

 最後に余談を少しだけ。帰国の日、飛行機までの時間を利用して風光明媚といわれる島の西南端の海岸へ出かけた。玄界灘に通じる海は綺麗であったが、海に突き出た崖のいたる所に開けられた穴のほうが気になった。日本語の多少話せる近くの食堂の女主人によれば、日本軍が掘った防空壕とのことである。何かひどいことでもしたのではと済まなげに尋ねる私に、そんな昔のことは誰も覚えてはいないよと笑い飛ばしてくれた彼女にお礼は言ったものの、それが本心であってほしいと祈りつつその場を後にした。

(理事/騒音振動第三研究室室長 加来治郎)

 

 

 会議が開催された済州島はハングル語で「チェジュド」と言い、朝鮮半島の最南端に位置している。福岡と同じ緯度であるにも関わらず1年を通じて温暖な気候で、海に囲まれた火山島であることから「韓国のハワイ」と言われ、韓国人のハネムーン地として有名だ。国際会議といえば長時間のフライトや時差にうんざりする印象が強いが、今回は成田空港からチェジュ空港まで僅か2時間半で時差もないことから、逆に海外に行った気がしなくなるほどであった。しかし、レジストレーションの際に各自にレインコートを渡されると、ここは日本ではないのだと実感した。案の定、会期中何度がスコールに見舞われた。

○ SARSの影響?
 会議から帰った今でこそ楽観的になれるが、会議の申し込み時にはSARS(重症急性呼吸器症候群)が韓国に近い中国、香港、台湾などで流行したことから、欧米人だけでなくアジア人の私も今回の会議が本当に行われるのか、またSARSに感染しないかという不安を抱えていた。参加者の中で、開催国の韓国と最寄りの日本がほとんどを占めるのは致し方ないが、欧米人の割合が少ないのはSARSの影響が少なからずあったのかも知れない。しかし、発表件数658件、参加者1032人(同伴者込み)であることを考えると結果的に通常のinter-noiseと変わらず盛況であったと考えるべきだろう。尚、会議の形式は通年とほぼ同様で78セッションの発表(11部屋)の他、朝のキーノート(9回)やポスター展示、企業の展示ブース(36社、46ブース、10カ国)などがあった。

○ 会場の雰囲気
 会場のICC(International Convention Center Jeju、図2)は外側ガラス張りの綺麗な建物で、ホテルがある中文観光団地(高級リゾート地)から近く、海に面している。そのため会議場に入るまではすっかりリゾート気分だが、会場に入ると中は展示ブースなどで活気がみなぎっていた。発表会場はジャンルに応じて100人以上入れる大ホールから20人程度の部屋まで分かれており、小さい部屋では満員となる場合も見かけられた。発表時間は発表12分、質問3分で、かなり厳しくタイムスケジュール管理されていたが、大概の発表者は時間内に言いたいことをきちんと報告していた。ここの数年の傾向通りOHPを使う人は少なくPowerPointを使う人が多く見られたが、プロジェクタとノートパソコンの相性が悪かったり、プロジェクタ自体の不調により発表開始が遅れることも見受けられた。1つのセッション内で発表者が別々のパソコンを使うと、このような接続の手間がかかりトラブルのもとになる場合が見られたため、なるべく発表会場にあるパソコンに全員がデータをコピーしておくことが望ましく、万一の際にそなえてOHPも用意しておくことも重要だと感じた。

図1 ホテル周辺のリゾート施設
 
図2 国際会議場(ICC)
 
図3 会場入り口

○ 私の発表
 3日目の午後に高速鉄道に関するセッションがあり、私は高速列車周りの圧力場についての数値計算結果を発表した。国際学会は3回目であったが、いざマイクを手に取るとやはり緊張し、前日までに覚えたはずの英語が頭の中から消えそうになった。それでも後半はなんとか調子を取り戻し、発表内容に関する質問も幸い簡単な内容であったため何とか無事答えることができた。

○ Banquetと閉会式
 3日目の夕方は我々が泊まっていたホテルの大ホールでBanquetが催され、満員の会場の中、韓国の伝統的な料理や踊りを堪能することができた。同じテーブルについていたアメリカ人は会議の後日本を観光してから帰る予定で、おいしい寿司屋やおすすめの観光スポットを聞いていた。韓国の済州島に来たら、最寄りの日本に寄ってから本国に帰るのが定番らしく、他のアメリカ人も同様の予定であった。しかし、日本人と韓国人を外見で見分けることは我々ですら困難であり、欧米人からすればまったく同じ民族に見えるに違いない。

 閉会式では、今回の参加者の人数などが報告され、実行委員長のHee Joon Eun氏が「SARSによる参加者の減少を気にしていましたが、大勢の人に参加して頂き本当にありがとうございます」と感謝の気持ちを述べていた。また、優秀なポスター展示には表彰や賞金が渡されていた。今後はポスター発表も悪くないかも知れない。

○ 最後に
 相変わらず自分の英語力のなさに憤りを感じる国際学会参加であったが、海外の発表者の熱心な姿に刺激を受けるとともに、自分や日本人の研究レベル、発表のテクニックが世界的にどの程度であるかといったことが分かり、非常に有意義であった。ちなみに閉会式の後、inter-noise2004の開催国チェコの食事が参加者に振る舞われた。焼肉も良いがチェコビールも悪くない。

(騒音振動第三研究室 土肥哲也)

 

 

 inter-noise2003には、一昨年のDearborn Michigan, USAで開かれたinter-noise2002に引き続きの出席である。ご記憶の方も多いかと思うが、一昨年はニューヨークでの同時多発テロ、昨年はSARS騒動の影響からか、アブストラクトの締め切りが何度となく延長されるなど、事務局の混乱振りが見え隠れしていた。それらの混乱を反映してか、一昨年はフルペーパーが400件あまりで参加者は600名あまり、今回は1000件を越えるアブストラクトが寄せられた中でフルペーパーは600件あまりと半減してしまったようで、セッションオーガナイザーの方々もいつもより苦労されたとのことである。参加者は、一昨年はUSA、昨年は韓国および日本からと、地元や近隣からの参加者が多く、ヨーロッパからの参加者が2年連続で少なかった。もしも日本からの参加者が少なかったら、一昨年よりも規模が小さくなってしまったかも知れない。そういった意味ではINCE-Jのメンバーの方々に敬意を表する次第である。

 inter-noiseには今回で5回目の出席になるが、今回は初めて2年連続して出席したため、テーマの移り変わりを感じる事が出来た。私はApplication of the Sound Intensity Method to Noise Controlのセッションでの発表だったが、インテンシティをテーマとしたセッションはそれ1つしかなかった。また、音響インテンシティに関係する講演も数件しかなく、以前より少なくなってきているように感じた。それらに代わって、Nearfield Acoustical Holography and Inverse Boundary Element Implementations、Array Measurement Techniques for Noise Source Localizationのセッションに代表されるように、多数のセンサを用いた計測に関する講演が増えてきているようで、マイクロホンアレイを用いた計測を機械等の音源探査に適用した例のほかに、自動車、列車、航空機にいたるまで、様々な計測例が見られた。私の印象では、98年のニュージーランド以降こうした傾向が強く現れてきたように感じる。ある意味においては、考え得る騒音対策を実施し尽くされている現状では、単に音響パワーレベルなどを計測するだけではなく、より詳細で、より多くの情報を得る必要性が高まってきていることの現われではないかと考えている。したがって、このような計測はより複雑化・専門化することが必然となっているようである。しかし研究レベルでは致し方ないのかも知れないが、実用面から考えると「そこまでしないと駄目なのか」という印象を受ける。より高度な計測手法が一般化するには、もうしばらく時間がかかるのかも知れない。

 その他に、今回はこれまであまり目にしなかったSignal Processing and Condition Monitoring、Machinery Health Monitoringなどの機械振動に関するテーマのセッションも用意されており、活発な議論が行われていたのが特徴的だった。また、環境騒音に関しては、Noise Mapping and GIS、Noise Mapping and its Softwareなどのセッションにおいて、専門的な知識を有しない人々にも環境騒音に対する理解を深めてもらう手段として、視覚に訴える方法について活発な議論が行われていたことが印象的だった。

 会議期間中は、11のパラレルセッションとポスターセッションが並行して行われており、様々な分野の講演があった。当然のことながら、聞きたい講演が重なっていることも多い。inter-noiseに限らず国内の学会でもそうだが、「聞き逃してしまった」と後で気がつくことが多々ある。いつものことだが、「自分の発表の準備に追われるだけでなく、事前にプログラムに目を通す余裕を持たねば」と反省する次第である。

(騒音振動第二研究室 平尾善裕)

 

 

 私の関係する道路交通騒音の分野では、[Tire/Road Noise]が24件(口頭発表、ポスター発表含む)、[Noise Barriers]が19件、[Road Traffic Noise]が13件あり、これ以外にも自動車のパワーレベルや高架構造物音等の道路交通騒音に関連する発表があった。この中から私の発表も含まれる[Noise Barriers]のセッションで私の印象に残った発表を紹介する。

 このセッションは遮音壁関連の発表で朝から夕方まで1日かけて、ランチとコーヒーブレイクを途中に挟み、3つの時間帯に分けて17件の口頭発表があった。ChairpersonはベルギーのJean-Pierre Clairbois、香港のKai Ming Li、韓国のSung Soo Jungが交代で務めた。今回のこのセッションのキーワードを挙げるとするならば、「先端改良型遮音壁」、「アクティブ制御」である。我が国でも、様々な先端改良型遮音壁の研究が盛んに進められており、特に、最近はアクティブ制御を応用した遮音壁の開発が進められ、既に製品化もされている。今回は、韓国、香港、オランダから4件のアクティブ遮音壁に関する発表があった。境界要素法などの数値解析、模型実験や実物実験による結果をカラフルな図で示し、日本製よりも減音効果が大きいことを声高に説明していた。また、これらの発表の後の質疑応答の際にはかなり活発な議論が交わされ、アクティブ遮音壁にかける諸外国の並々ならぬ意気込みを感じた。

 もう一つ印象に残っているのが欧州の遮音壁の規格に関する発表である。現在、欧州では遮音壁等の道路交通騒音の対策施設についてその音響性能を実験室および現場で評価するための規格が制定されつつある。また、この規格には音響性能以外の耐久性や安全性等についても規定されている。私も以前、音響性能はもちろんそれ以外の性能についても考慮した新しい遮音壁を開発した経験があり、大変興味深く聞いた。

 最後に、私の発表であるが、吸音ルーバーの遮音性能の評価方法について実物モデルを用いて検討した結果を報告した。事前の練習の甲斐もあってか、与えられた時間で発表は無事終了した。2件の質問を受けたが、2つ目の質問には的外れの答えをしてしまった。ただ、セッション終了後に質問者のフランス人と発表内容について議論をすることが出来て、とても良い勉強になった。また、私の発表に興味を持ってくれた何人もの研究者と話をすることも出来た。これまでの国際会議とは違い、今回は外国の研究者とも交流が図れ、非常に有意義であった。次の機会(2004チェコ、2005ブラジル、2006ホノルル)はいつになるかとの思いを胸に、焼肉三昧で肥えたお腹を抱えながら、帰国の途に着いた。

(騒音振動第一研究室 松本敏雄)

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