2003/4
No.80
1. ニュース刊行20年に際して 2. 間伐材を用いた吸音性遮音壁の開発 3. 音 叉 4. 新型振動レベル計 VM-53/53A
      <骨董品シリーズ その47>
 音 叉

理 事 長 山 下 充 康

 1989年10月(小林理研ニュース26号)の骨董品シリーズ(その8)で音叉を取り上げた。音響関連の骨董品を展示した「音響科学博物館」の入り口には3本の音叉を組み合わせてデザインされたプレートが掲げられている(図1)。音響科学と音叉は古来緊密な関係を保っているようである。前稿で紹介したように、音叉はイングランドのジョージI世の軍楽隊がトランペットの音程合わせの道具として発明したものと言われている。1711年のことである。その当時は乾し草を積み上げるのに農夫が用いていたような鉄製の熊手(フォーク)を利用していたとのこと、そのために[Pitch-Fork]とか[Tuning-Fork]と呼ばれることになったらしい。金属のフォークが常に固有の特定なピッチの音を発することに気付いた一兵卒の発案によるものと言われている。U字型に曲げられた金属の根元に取手を取り付けただけの単純な道具ではあるが、安定した固有周波数で振動する音叉の態様は今日でも時計の発振子をはじめとして多方面で利用されている。音響科学博物館には様々な種類の音叉が所蔵されている。平均率音階の各音のピッチに該当する一連の音叉セット(図2)は工学分野よりも音楽教育に使われたものであろうか。図3の寸法の大きい音叉は太平洋戦争の末期に鋼が不足したためにアルミニュームで作られた珍しい音叉である。図4の音叉は振動端に薄い金属片が取り付けられていて、二つの金属片が光線を小刻みに遮断する仕組みに作られている。電磁オッシロスコープの写真式記録紙上に一定間隔の時間信号を刻むための装置に利用された音叉で、時計として使われた音叉の一例である。

図1 音響科学博物館の看板
 
図2 木箱入り音叉セット
 
図3 アルミニューム製の音叉
 
図4 光スリット付きの音叉

 今回紹介させていただくのは木のブロックに固定された二つの音叉で、表面が錆で覆われているものの、錆を擦り落とすとC、C#、D、D#、E・・・などの音程記号を読み取ることができた。振動部に半固定の錘がネジで取り付けられていて、これを上下に移動させることによって任意の振動に設定することができるように工夫されている。音楽の教材用に使われていたものであるやに推測する。

図5 可変音程音叉の全体図
 
図6 半固定部分と刻まれた文字の拡大図

 演奏のたびに自分で音程を設定しなければならない弦楽器や管楽器の奏者たちは演奏に際して基本となる音を「調子笛」や「音叉」を使って、いわゆる調律という作業を行わなければならない。楽器店では音叉がメトロノームや調子笛と一緒に販売されているのを目にするが、近年ではこれらの道具が電子化されて小型で精度の高い物になっている。とはいえ、古来、音程合わせの基本として使われてきた音叉は小型で携帯に便利であること、取り扱いが容易であること、堅牢であること、動作が安定していること、などの点で今なお多くの演奏家たちに愛用されている。ピアノの調律にあたっても基準となるA(440Hz)の音を音叉で聞き取って作業を進めている。また、音叉は一旦振動を始めると、減衰が小さくて、音が長時間継続することも特長である。

 音叉の材料が金属であるために温度の影響を受けて固有の振動数が微妙に変化するので、厳密なピッチを要求する演奏家や調律士たちは音叉の取り扱いに極めて慎重である。耳に近付けて音を聞いたり、音叉を、親板、棚下など楽器の外装部に当てて音を大きくして聞く方法、自分の耳の後ろの骨の部分に押しつけたり、歯で噛んだりして、音叉の音を聴く工夫をしている。クローム鍍金された音叉が楽器店で売られているので、これをペーパーウェイトとして使えば、卓上に洒落た雰囲気を醸し出してくれるようである。

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