2003/4
No.80
1. ニュース刊行20年に際して 2. 間伐材を用いた吸音性遮音壁の開発 3. 音 叉 4. 新型振動レベル計 VM-53/53A
       <研究紹介>
 間伐材を用いた吸音性遮音壁の開発

建築音響第一研究室 杉 江  聡

1.はじめに
 これまでに植樹されてきた人工林が現在間伐期を迎えており、健全な森林を育成するために、平成12年度からの5年間で150万haの森林を計画的に整備する「緊急間伐5カ年対策」が実施されています。この計画を進めるために、間伐材の有効的な利用が促進されています。小さいものは割り箸、学童用机・椅子をはじめ、土木工事関係にも広く利用されています。その一例として、木製遮音壁への適用があげられます。

 ここでは、その遮音壁に比較的簡単な方法で、吸音性能を与え、防音性能をより向上させた木製遮音壁の開発について紹介します。

2.気柱型共鳴器を用いた木製遮音壁
 ここで紹介する遮音壁は、間伐材に圧密加工処理を施した断面形状が正六角形の棒状材料(幅約10cm)を積み重ねたものです。この処理により、材料表面は非常に硬いが、内部は生木のような柔らかさを保つことができ、曲げ強度が大きく、加工しやすい材料となります。

 しかし、この種の遮音壁はそのままでは吸音効果はほとんど期待できません。そこで、加工がしやすいという利点を活かし、図1に示すように棒状材料に様々な深さの穴(気柱型共鳴器)をあけ、数多くの異なる共鳴周波数をもつレゾネータを適切に配置することにより、良好な吸音特性をもつ遮音壁の製作を計画しました。

図1 基本タイプの概略図

 気柱の共鳴とは、穴内(片端が閉じている管)に定在波が発生することをいい、式(1)に示すような共鳴周波数で管端の空気の粘性抵抗により吸音が生じます。

 空気中の音速 気柱の長さ:穴の直径、=0.85(開口端補正)

3.基本タイプの吸音特性
 気柱型の共鳴器を用いると、式(1)からもわかるように、気柱の長さすなわち材料の厚さで吸音下限周波数が制限されてしまいます。よって、約800 Hz以上で吸音性能が得られるように、適切に穴を配列した基本タイプを製作しました1)。図1に示す横ピッチaを13mm、縱ピッチbを9mm、穴径を8mmとし、800Hz〜2kHzに第一共鳴周波数がくるように、9種類の穴をあけました。

 残響室法吸音率の計測結果(残響室容積: 168m3,試料面積:3m2)を図2に示します。結果より、設計した周波数範囲で吸音特性が得られていることがわかります。

図2 基本タイプの吸音特性

4.吸音特性の改善
 さらに吸音特性の改善方法として、吸音周波数領域の拡張(特に低い周波数における)と吸音率の増加について検討しました。

 前者については、図3に示すような2本の気柱をV字型に連結させ長さを延長する方法やヘルムホルツレゾネータを併用する方法です。また、後者については、穴内の音響抵抗の増加による方法があげられます。

図3 共鳴周波数の低い周波数領域への拡張

 ここでは、音響抵抗増加の例を示します。図4に示すように、穴を開ける際にドリルの回転速度を低速にし、切れ味の悪いドリルを用いることにより、穴内を毛羽立たせるといったユニークな方法を採用しました。これにより、音響抵抗を増加させて吸音率を増加させるとともに、穴内の音速が遅くなると考えられるので共鳴周波数を若干ですが低域へシフトさせることもできます。

図4 毛羽立たせた穴

 毛羽がある場合とない場合を比較して、残響室法吸音率の計測結果を図5に示します。1.6kHz以下で毛羽を施すことにより、ピーク周波数が低域へシフトし、吸音率が増加していることがわかります。

図5 毛羽ありの基本タイプの残響室吸音率

5.改良タイプの吸音特性
 以上の結果をもとに、基本タイプ、ヘルムホルツレゾネータ、V型・F型気柱型共鳴器を用い、ブロードな吸音特性が得られるように設計し、穴内を毛羽立たせることによる音響抵抗の増加をはかりました2)

 残響室法吸音率の計測結果を図6に示します。スペースの関係で、高い周波数領域では、その領域での吸音を担っていた気柱を減少させたため、吸音率は低下していますが、800Hzより低い周波数範囲では増加しており、基本タイプに比べブロードな吸音特性を得ることができました。

 この計測結果により、吸音性能としては道路公団の遮音壁のスペックを満足した遮音壁を製作することができました。

謝 辞
 本研究を進めるに当たり、材料の提供、加工について多大な援助を頂いた後藤建設株式会社、後藤久慶、糸久智の両氏に深謝いたします。

参考文献
1) 杉江, 吉村, 小川, "間伐材を用いた木製吸音パネルの吸音性能について", 日本音響学会講演論文集, 801-802 (2001.10)
2) 杉江, 吉村, 小川, "間伐材を用いた共鳴型木製吸音パネルの吸音性能-吸音特性の改善-", 日本音響学会騒音振動研究会資料, N-2002-06(2002.1)

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