2003/1
No.79
1. 謹んで新年のお慶びを申し上げます 2. 表面インテンシティ計測を応用した押し当て式機器異常音検出センサ 3. 青銅噴水震盆 4. Low Frequency 2002 in York 5. FORUM ACOUSTICAUM SEVILLA 2002

6. WAVE 2002

7. 第11回国際エレクトレットシンポジウム 8. 新型騒音計NL-22/32
      <骨董品シリーズ その46>
 
青銅噴水震盆

理 事 長 山 下 充 康

 3000年前に作られたという奇妙な図柄が浮き彫りされている青銅製の水盆を中国で手に入れた。直径44cm、深さ14cmの洗面器のような形をした青銅製の器で、左右に耳のような形状の頑丈な取っ手が付けられている。

 内側に龍に似た四匹の怪獣が彫られ、各々の口から吐き出されているのは火炎を表しているのであろうか、器の縁にかけて渦巻いた線が刻まれている。

青銅製の器の外観

 左右の取っ手を手のひらで軽く擦り続けると器が振動を始めてウォーンウォーンと低い音を放射する。これは以前ここに紹介した「丼ハーモニカ(グラスハーモニカ・摺り鉦:骨董品シリーズその28/ニュースNo.54−1996年10月)」の発音メカニズムに似ている。ここまでは中国式の「摺り鉦」と言うことで話は終わるところであるが・・・。

 この器に半分ほどの深さまで水をはると「噴水震盆」の本領が発揮されるのである。

 水を入れた器の取っ手を軽く撫で続けると器は空の時と同様に低い音で鳴り始める。その時、器の中の水に奇妙な振る舞いが現れる。水面に細かい波紋が出現し、さらに撫で続けると水面が規則的に四分割された形で波立つ。そして器の縁に接した四箇所であたかも水が沸騰しているかのように泡立ち、水柱が噴射されるのである(写真3)。さらに興味深いのは噴射される水柱の位置が丁度怪獣の口の部分と一致して、龍が水柱を噴出しているように見えるような工夫がされているところである。

四分割される水面と四箇所に出現する水柱
 
水柱と龍の口の部分写真

 

 この青銅製の器は古代中国で易経に使われた「噴水震盆」と呼ばれる珍品であるとのこと。「奇妙的古代青銅噴水震盆」という中国の文献を入手した。それによると、この器については材料の物性、形状、鋳造方法などが現代科学では解明できないと記述されている(中国文の和訳は台南の立徳管理学院 李碧玉女史に協力していただいた)。

 中華鍋のように比較的単純な形状の金属の器であれば、放射される音や水柱の噴射に見劣りはするが、その縁を擦ることによって「噴水震盆」と同様の現象を再現することが可能であろうと考えられる。原理的には振動のモードが水を跳ね上げるというものであるが、激しく振動する部分に龍の口を配したところが、いかにも中国の易経らしいところである。

 音響科学博物館のデモンストレーションコーナーに「クラドニの振動モード実験装置」のモデルが設けられていて、来訪の方々の興味を集めている。正方形の板の振動のモードを砂図形として可視化した実験装置であるが、周波数ごとに複雑に変化する振動モードが描き出す規則的な砂図形に驚嘆されるようである。

 手に入れた「青銅噴水震盆」は緑青が浮いて、いかにも骨董品のような雰囲気を醸しているが、勿論レプリカである。ガラスケースにでも入れて照明をアレンジすれば国宝級の貫禄を見せることであろう。取っ手の部分だけが擦られて光り輝いているので、わざわざ説明をしなくても手のひらで擦りたくなるらしく、時折「ウォーンウォーン」と鳴らされているようで、「デモンストレーションコーナー」の人気アイテムになっている。

クラニドの振動モード実験装置

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