2003/1
No.79
1. 謹んで新年のお慶びを申し上げます 2. 表面インテンシティ計測を応用した押し当て式機器異常音検出センサ 3. 青銅噴水震盆 4. Low Frequency 2002 in York 5. FORUM ACOUSTICAUM SEVILLA 2002

6. WAVE 2002

7. 第11回国際エレクトレットシンポジウム 8. 新型騒音計NL-22/32
       <研究紹介>
 
表面インテンシティ計測を応用した押し当て式機器異常音検出センサ

騒音振動第二研究室 平 尾 善 裕

1.はじめに
 計算機、プリンタ、コピー機などの多数の騒音源が存在するオフィス内において、静粛な環境を実現するために、作動音が小さい機器の開発が進められている。現在、機器の騒音評価方法としてJIS X 7779による音響パワーレベル等の測定が行われている。同規格では、無響室内等において機器および部品ごとに多点での音圧レベルを精密に測定するため、専用の測定施設や多チャンネルの計測装置、音源となる部品ごとに動作させる設備等が必要とされる。一方、生産効率の面から製品あるいは部品一台毎に異常音を発生する不適合品の精密検査をJISの測定法に則って行うことは難しい。そこで、表面インテンシティ計測により、工場などの騒音環境下において機器放射音を検出すれば、小規模の設備でしかも短時間で不適合品の全数検査が行えると考えた。 表面インテンシティ計測は、振動する構造物からの放射音を計測する手段であり、振動ピックアップによって計測される構造物の振動速度と、マイクロホンによって計測される近接音場の音圧のクロススペクトルから音響インテンシティを算出する。本研究では、表面インテンシティ計測における移動計測の効率化を目的として、押し当て式振動計を利用して、構造物に接触させるだけで任意の点での計測が行えるセンサプローブを試作した。

2.押し当て式振動計測における接触共振特性
 押し当て式振動計による振動計測では、センサの先端部分と構造物との接触面が局部的に変形することで、ばねとして作用し、そのばねとセンサの質量で構成される振動系による共振現象が生じると考えられている。そこで、共振点をできる限り高い周波数に移動させ、接触共振の影響を小さくするために、センサの軽量化および接触部分での見かけ上のばね定数の低減を試みた。センサの軽量化には、質量が1.2gの小型振動ピックアップ(RION PV-90B)を使用することで対応した。ばね定数の低減には、センサと構造物との接触面を広くすることで対応した。振動ピックアップの6oφの設置面(Without tip)およびM3ねじ(With steel-bolt)、直径4oの鋼球(With steel-ball)での接触共振特性を図1に示す。 鋼球を使用した場合には、振動面とは点接触の条件となる。計測対象が凹凸のない滑らかな面を持てば、鋼球による点接触では3kHz、M3ねじでは5kHz、振動ピックアップの設置面全体で接触させた場合には、8kHzまでの周波数範囲において接触共振の影響を受けずに振動計測が可能であると考えられる。

Figure 1. Contact Resonance characteristics of vibration pick-up (PV-90B) used for hand-held sensor-probe.

3.押し当て式振動計とマイクロホンの一体化
 振動ピックアップとマイクロホンを一体化することで計測対象である構造物の振動がマイクロホンに伝搬し、音圧計測に誤差が生じる可能性がある。そこで、図2に示すように、厚さ5o直径6oのシリコンゴムを振動ックアップとマイクロホンの間に挿入し、マイクロホンを除振する方法を採った。押し当て力が1kgfの時に、シリコンゴムをばねとして、ばね上マスの重量を変化させた場合のマスへの振動伝達特性を図3に示す。マスを100g以上とすれば100Hz以上の周波数では、除振効果が得られている。

Figure 2. Configuration of hand-held sensor-probe for surface intensity measurements.90B) used for hand-held sensor-prope
 
Figure 3. Transfer function between reference accelerometer and accelerometer on testing weights (1 g, 10 g, 50 g, 100 g and 200 g).

4.ランダムノイズ騒音下における計測精度
 表面インテンシティ計測では構造物からの放射音の音響インテンシティを構造物の振動速度と近傍の音圧のクロススペクトルから計算する。したがって、音圧に含まれる振動速度の周波数成分を抽出し、相関が低い雑音成分を除去することができる。 まず、空調機の噴出し口から伝搬する気流雑音のようなランダム定常音が存在する音場において、モータの回転音などの検出を想定した実験を行った。図4に示すように無響室内において圧電加振器に250Hzの三角波を入力し、同時にスピーカからランダムノイズを放射した。ランダムノイズは、三角波の音圧の−20dBから+30dBまで、10dBステップで変化させた。図5に示す音圧のパワースペクトルでは、三角波よりもランダムノイズが大きい場合には、くし型のスペクトル成分を確認できない。一方、図6に示すクロススペクトルでは、ランダムノイズが除去され、くし型のスペクトル成分が検出されている。 三角波とランダムノイズのレベル差(S/N比)と計測誤差の関係を示した図7から、S/N比が−10dBより小さくなると(三角波よりもランダムノイズが10dB以上大きくなると)、計測誤差が±3dBを超える傾向にある。すなわち、モータの回転音などが、ランダム定常音に埋もれていたとしても、その差が、10dB以下であれば、±3dBの計測精度が確保されると考えられる。

Figure 4. Experimental setup for measuring the sound intensity radiated from a vibrating surface in a noisy environment.
 
Figure 5. The power spectrum of microphone signal measured for various noise level.
 
Figure 6. Comparison of power spectrum of sound pressure and cross-spectrum between acceleration and sound pressure (signal-noise ratio of 0 dB).
 
Figure 7. Relationship between the measurement error of the cross-spectrum and the signal noise ratio.

5.正弦信号音が混入した場合の計測精度
 
まず、モータなどの回転音を検出する際に、周波数が近接した音が他の機器から伝搬している状況を想定した。 図4の圧電加振器からは、70dBでマイクロホンに伝搬する500Hz正弦信号音を発生させた。スピーカからは、70dBで伝搬する495Hzから1Hzステップで505Hzまでの正弦信号音を放射した。FFTポイントは2048点、サンプリング周波数は2.56kHz、周波数分解能は1.25Hzである。図8に示すパワースペクトルにおける500Hz成分の計測誤差(図中○印)は、499Hz, 500Hz, 501Hzにおいて、2.5dBから3.5dBである。クロススペクトル(図中△印)においても500Hzで2.0dB、501Hzで1.5dBの計測誤差が生じている。一方、FFT分析の周波数分解能1.25Hzを超えた498Hz以下および502Hz以上では、計測誤差は生じていない。同レベルの正弦信号音が伝搬してもFFT分析の周波数分解能以上に離れていれば、計測誤差は無視できると考えられる。 次に、スピーカから加振器と同一の500Hz正弦信号を発生させ、40dBから5dBステップで100dBまで変化させた場合には、図9に示すようにS/N比が10dBより小さくなるとパワースペクトルの計測誤差がクロススペクトルの計測誤差よりも大きくなる傾向がある。また、S/N比が−5dB以上あればクロススペクトルの計測誤差は3dB以内である。すなわち、計測対象機器と同一周波数の大きな音が伝搬している場合でも、その差が5dB以下であれば、3dBの計測精度が確保されると考えられる。

Figure 8. Relationship between the frequency of the input signal to loudspeaker and measurement error:
○ power spectrum, △ cross-spectrum.
 
Figure 9. Relationship between the signal noise ratio and measurement error:
○ power spectrum, △ cross-spectrum.

6.3.5型HDDユニットの放射音検出への応用
 
押し当て式センサを用いた表面インテンシティ計測によって、3.5型HDD(101.6o×146.0o×25.4o)からの作動音の検出を試みた。HDDの振動源である磁気ディスクを回転させるモータと磁気ヘッドを作動させるアクチュエータは鋳造ケースと鋼板によって完全密閉されている。したがって、3.5型HDDの作動音は、主に筐体が振動することによって放射されていると考えられる。また、筐体は強固であり、押し当て式センサによる振動計測において、押し当て力によって、筐体自体の振動振幅および振動モードなどが変化する可能は低いと考えられる。無響室内と騒音環境下での計測計測(スタンバイ状態 5400 rpm)を図10に示す。環境騒音は主に空調機の噴出し口からの音で、60 dB(C)の定常音である。 図10(a)の音圧計測結果では、2kHz以下の放射音が空調機騒音に埋もれてしまい、正確に検出されていない。一方、図10(b)の本計測手法によるインテンシティでは、計測した周波数帯域において無響室での測定結果とほぼ等しく、モータの回転数成分の90Hzの音においても正確に検出されている。

Figure 10. Frequency characteristics of sound radiated from a hard disk unit measured by the proposed technique: (a) sound pressure level and (b) surface intensity level.

7.まとめ
 試作した押し当て式センサプローブを使用し、騒音環境下において表面インテンシティ法による計測を行った。 提案した計測手法によるモータの回転音などの検出において、ランダム雑音が混入した場合では−10dB以上、同一周波数音が混入した場合では−5dB以上のS/N比があれば、3dBの計測精度がある。さらに、FFT分析の周波数分解能以上に離れた音による計測誤差は無視できることが明らかになった。また、試作センサプローブを用いれば無響室などの設備を用いることなく、騒音環境下においてHDDの稼動音検査を行えることを示した。

-先頭に戻る-