2002/10
No.78
1. 異常診断 -音の達人たち- 2. inter・noise 2002 3. 圧電材料を応用した遮音構造および防振構造 4. 補聴器コレクション 5. 第17,18回ピエゾサロン 6. 軌跡振動計 VM-90
      
 第17、18回ピエゾサロン

理 事 深 田 栄 一

第17回ピエゾサロン
 平成14年3月14日に小林理研会議室で第17回のピエゾサロンが開催された。理化学研究所情報環境室長の姫野龍太郎博士“流れから出る騒音の数値シミュレーション”の題で講演された。

 流体力学の方程式を数値計算で解くシミュレーションは計算流体力学Computational Fluid Dynamics (CFD)と呼ばれる。コンピューターの高速化、低価格化とともに計算方法も著しく進歩し、航空機や自動車の設計に使われるようになった。走行中の自動車車体周辺の空気流や圧力分布、エンジンルーム内の空気の流れなどの時間空間変化をシミュレーションした結果が美しいビデオで示された。

 自動車の走行による風の音は、物体表面の圧力の時間変動から計算することが出来る。しかし車体全面を対象とすると計算点の数が膨大になるので、ドアミラーについての計算を行った。約300万点の計算点を用いて、ドアミラー後方の流線や渦による運動量の損失の様子が描き出された。その結果はドアミラーに埋め込んだマイクロホンによる測定結果とよく一致した。圧力変動の大きいところでは流れの剥離が起こっており、この剥離が起きないように形状変更をすると、騒音レベルを下げることが出来た。

 多くのビデオが示されたが、野球の変化球の解析は特に興味深かった。ボールの縫い目と回転軸の関係で流れの抵抗が変化し、球の軌道や速度が変化する。数値シミュレーションが企業で実用化されたことを実感させる講演に多くの質問や討論があった。

 続いて、小林理学研究所騒音振動第3研究室の土肥哲也研究員“高速移動体周りに生じる圧力分布の簡易計算”について講演した。新幹線の列車先頭部の周りには大きな圧力変動が生じるため、トンネル内の壁面の崩落や沿線の住家が揺れるなどの問題が起こる。そのため、圧力を小さくするように先頭形状の設計を変更することや、高架や塀などの地上設備を整えるなどの対策が取られている。圧力分布を簡単に求めるために、パネル法と言う簡易計算方法を用いた。列車の表面に湧き出し点を配置して周囲の圧力分布を短時間で計算することが出来る。マイクロホンを空間的に配置して、実際に新幹線の列車走行による圧力変化を測定した結果は計算結果とよく一致した。パネル法の特徴など多くの討論があった。

文 献
1) 姫野龍太郎、計算流体力学―企業で設計に使われる 実用ツール、情報処理学会誌Vol.42 No.6 2001
2) 姫野龍太郎、魔球をつくる、岩波科学ライブラリー 75 2000

理化学研究所 姫野龍太郎博士 講演
 
小林理研 土肥哲也研究員 講演

 

第18回ピエゾサロン
 平成14年5月20日に小林理研会議室で第18回のピエゾサロンが開催された。The Pennsylvania State University, Materials Research Laboratory の内野研二教授“Piezoelectric Actuators: Expanding Applications and Reliability Issues”の題で講演された。

 東京工大、上智大学で圧電アクチュエータの研究を行い、現在は圧電研究の中心であるPenn State Universityの教授として、世界を股に掛ける科学者であるという司会者の言葉に対して、内野教授からは、自分の今の立場は科学者というよりは、世界を巡る研究のセールスマンだという返事が返ってきた。日本、中国、韓国、台湾、シンガポール、タイ、ヨーロッパで会社のコンサルタントを勤め、日本へは年10回近く訪問されるという。基礎研究が応用開発に直結する圧電アクチュエータの分野で研究費の獲得と研究の発展とを活発に推し進めているアメリカの大学教授の姿を見ることが出来た。デモ用の展示品を回覧しながら、美しい画面とビデオを駆使して、迫力のある講演を行われた。

 まず圧電アクチュエータ−の基礎として、BaTiO3の結晶構造、Pb(Zr,Ti)O3(PZT)の圧電、Pb(Mg1/3Nb2/3)O3(PMN)の電歪の解説があった。応用の例として、PMNを用いた衛星カメラで撮影したスパイラル銀河M100の高分解能写真が示された。PMNアクチュエータによって鏡面の超微細な調節が可能になった。ヘリコプタの羽根が撓むと空気の渦のために大きな音が発生する。圧電アクチュエータを回転ブレードに取り付けて羽根の変形を制御すると乱流の発生を防ぐことができる。

 身近な製品としては、ドット式プリンタに圧電ヘッドが使われている。カメラのシャッタに圧電バイモルフが使われた。ディーゼル油の注入弁への応用も重要である。表面波回転モータの発展は著しい。オートフォーカスカメラに圧電超音波モータが最初に使われた。時計用のマイクロモータも実現した。風車式モータとして直径3mmのものを試作した。中空の金属管の側面に圧電プレートを張り付けて、世界最小の中空モータの試作に成功した。1.5mm直径、4mm長さ、0.3mNmトルクで、中心に0.3mmの孔が開いているので、光ファイバを通すことができる。カテーテルの中に微小超音波モータを設置して手術に用いる可能性がある。超音波モータ4輪駆動による7mmイズのロボットを試作した。

 セラミックアクチュエータのデザインとして、積層板やバイモルフの他にムーニーやシンバルと呼ばれるトランスデューサがある。セラミック平板の両側に空間を置いて金属板を張り合わせたもので、平板面内の変形が平面法線方向に100倍ぐらい拡大される。PZTの結晶軸の方向を制御して圧電率を最大にする研究も紹介された。

 アメリカ、日本、ヨーロッパでの圧電アクチュエータの用途の比較は興味があった。アメリカでは、軍用の航空宇宙飛行体の振動防止が主でサイズは大きく30mm位である。日本では民生産業のオフィス機器、カメラ、精密機械、自動車に用いられるマイクロモータ、ポジショナー(微動装置)が主で、サイズは小さく1mm位である。ヨーロッパでは実験室用機器として航空機、自動車、水力施設でのマイクロモータ、ポジショナー、振動防止が主でサイズは中間の10mm位である。

 将来の発展方向は、航空機での翼の大変形に対応するアクチュエータの大型化、オフィス機器での小型化、医用機器での超小型化がある。キーテクノロジーとして、圧電セラミック薄膜とシリコンテクノロジーの融合一体化がある。遠隔操作の出来るPhotostriction(光による歪発生)の技術がある。

 最近の進歩に圧電トランスがある。電池の直流電圧からチョッパで交流電圧を作り、圧電セラミック板に加える。セラミック板の共振によって交流高電圧が発生する。これで超音波モータを駆動できる。また、これを整流すればアクチュエータを動かす直流高電圧が得られる。ヘリコプタに搭載した24Vの電池で超音波モータやアクチュエータが作動している。

 内野先生はすでに45冊の著書を出しておられるが、終わりに、最近の教科書Ferroelectric Devicesの紹介があった。エネルギーに満ちた講演が若い研究者に大きな刺激を与えたと思う。

Penn State Univ. 内野研二教授 講演

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