1999/7
No.65
1. 吸音材について 2. 昭和7年発行の計測器カタログ 3. ISO/TC43/SC1プラハ会議報告 4. 2nd Joint Meeting of ASA and EAA会議報告 5. 寄 り 道 6. 第4回ピエゾサロンの紹介
7. 健康影響に基づいた騒音評価の方法 8. 低周波音レベル計NA-18の概要
       <会議報告> ISO/TC43/SC1、SC2、EAA/ASA報告
 寄 り 道

建築音響研究室 室長補佐 吉 村 純 一

 3月23日から26日にかけてチェコのプラハでTC43(音響)並びにSC1(騒音)とSC2(建築音響)の合同会議が開催され、当所から山田、吉村の両名がそれぞれの分野のWGに参加した。会議の内容は本ニュースの山田の報告及び音響学会誌9月号に譲ることとし、ここでは帰りに寄り道をして訪ねたフランスのCSTBの試験施設について紹介する。

 前回97年秋のISO/TC43浜松会議の際に、フランスから参加されたJ. Roland氏から、建築材料の音響試験施設を新設中であることを聞き、ISO整合化の成ったJISに盛り込まれた実際の試験施設を是非見てみたいということで、プラハ行きが決まってからコンタクトをとり続けた。しかし、何度となく送ったラブコールにもいっこうに返答が無く、氏がプラハ会議に参加されるとの情報を頼りに出発する羽目になった。幸いプラハに転送された氏からのメールで訪問を受けてくれることがわかったが、「君の見たいという施設はGrenobleでなくParisにある」とのことで、ホテルのキャンセルなどでフランスにたどり着く前に大汗をかいてしまった。

 ともあれ、会議中に手渡されたメモの住所と応対してくれる人の名前を唯一の情報に、Paris郊外のNoisy-champs(ディズニーランドの近く)にあるCSTB(Centre Scientifique et Technique du Batiment)の門をくぐることができた。受付の男性に用件と訪ね先を伝え、渡された受付票とセンスのよい案内図を手に試験棟(愛称LABE)に近づくと、とてつもない大きさに、しばし唖然、愕然、呆然としてしまった。格納庫の様な建て屋は、小林理研の模型実験室が6つほど入る大きさ(1200m2)と倍の高さがありそうである。紹介された若い研究員は、挨拶する間もなくフランス語が話せるかと聞いてきた。だめ?、それなら互いに不自由な英語でということになり、さっそく試験施設を見せてもらうことになった。

 いきなり見せつけられたのが透過損失の試験用枠の数の多さ、なんと20枚以上もあるカートリッジは、試料の大きさに応じた開口だけでなく、横にして天井のトップライトや床材料の空気音遮音も測定するのだそうだ。多数の開口枠が隣接するものの、試料によっては別の依頼者の目に付かぬようカーテンで仕切って保管されており、試験機関としての当然の義務がごく自然に遂行されているのに感心させられた。いよいよ試験装置である。同じ大きさの受音室が2つ並んで設置されており、それに対向する音源室がレールの上を移動してそれぞれとペアを組むのである。受音室は試験棟の基礎から防振支持され、かつコンクリートの二重構造になっている。それぞれの試験室の間には先ほどの試料設置用カートリッジをクレーンで運び込み、エアシールで気密を確保する。このような1つの音源室に2つの受音室が交互に利用されるペアがもう一組み用意されており、そちらは試験開口が縦に長く、ドアの測定のために用意した装置だそうである。フランスの扉は背が高く通常の開口には収まらないため試験室ごと大きくしたとのことである。室内吸音、受音装置、音源装置、音源設置位置、試料寸法などISO規格を満足するよう構成されているが、細部についてはAFNORだそうで、さすがドイツに対抗するフランスの意気込みが伺える。2つの受音室の間にはそれぞれ測定室が用意されており、リアルタイム分析器と計算機が設置され、自作のプログラムでそれらをコントロールするとのことである。

 次は床衝撃音測定装置である。こちらも試験開口と受音室が2つで、交互に試験ができるとのことであるが、タッピングマシーンは上部に音源室を置かずに測定し、床の空気音遮断性能を測る場合は伸縮する車輪のついた音源室が上からかぶることで測定するとのこと。先ほどの空気音遮音装置での試料を垂直にして測定した結果との対比について聞いてみると、これからだそうである。標準床の厚さは140mmで、日本でのそれよりかなり薄く、床衝撃音改善量は200〜250mmでの測定結果より多少良くでるはずだと伝えてやった。

 この他、床下を通しての床材の遮音性能を測定するための装置(ISO/DIS 140-12)、吸音率測定用の残響室(容積が260m3の長方形)、給水器具の個体音測定装置などで構成されているが、室寸法や容積等の詳しい諸元については、パンフレットにある簡単な鳥瞰図だけで、詳しい図面は一切提示されていない。この点について訪ねると、昨年暮れに完成したばかりで、様々なチェックと試験に追われてまだ整備されていないとのことであった。

 年度末の忙しい最中、国際会議とこの様な立派な施設を訪問できる機会を与えてくれた方々に感謝いたします。

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